「SCM435とSCM440、どっちを使えばいいのかわからない」という声はよく聞きます。どちらもクロムモリブデン鋼(JIS G 4053)の代表的な鋼種で、外見上の違いは炭素量がわずか0.05%異なるだけです。しかし、この小さな差が強度・靱性・焼入れ性・用途に大きな影響を与えます。この記事では両鋼種の化学成分・機械的性質・熱処理特性・使い分けをわかりやすく解説します。
① SCM記号の読み方と体系
🔵 SCMはクロムモリブデン鋼を表す記号です。JIS G 4053「機械構造用合金鋼鋼材」に規定されており、クロム(Cr)によって焼入れ性を高め、モリブデン(Mo)によって焼もどし脆性を抑制しています。
🔵 記号末尾の数字(435・440)は炭素量の中間値(%)を約10倍した値です。SCM435はC≒0.35%、SCM440はC≒0.40%と読めます。
② 化学成分の比較(JIS G 4053)
| 元素 | SCM435 | SCM440 | 役割 |
|---|---|---|---|
| 規格値(%) | 規格値(%) | ||
| C(炭素) | 0.33〜0.38 | 0.38〜0.43 | 強度・硬さを支配する最重要元素 |
| Si(ケイ素) | 0.15〜0.35 | 0.15〜0.35 | 脱酸・強度補助(同一) |
| Mn(マンガン) | 0.60〜0.85 | 0.60〜0.85 | 焼入れ性向上・脱酸(同一) |
| P(リン) | ≦0.030 | ≦0.030 | 上限規定(粒界脆化防止) |
| S(硫黄) | ≦0.030 | ≦0.030 | 上限規定(熱間脆性防止) |
| Cr(クロム) | 0.90〜1.20 | 0.90〜1.20 | 焼入れ性・耐摩耗性向上(同一) |
| Mo(モリブデン) | 0.15〜0.30 | 0.15〜0.30 | 焼もどし脆性抑制・強度補助(同一) |
※ C(炭素)以外の元素は両鋼種で規格範囲が同一です。両者の差はほぼC量のみと考えてよいです。
③ 機械的性質の違い(焼入れ焼もどし後)
JIS G 4053では、熱処理(焼入れ+焼もどし)後の機械的性質を径区分ごとに規定しています。代表的な径区分(25 mm以下)での比較を示します。
| 性質 | SCM435(参考値) | SCM440(参考値) | 差の意味 |
|---|---|---|---|
| 引張強さ(MPa) | ≧930 | ≧980 | 440の方が約50 MPa高い |
| 耐力(MPa) | ≧785 | ≧835 | 440が約50 MPa高い |
| 伸び(%) | ≧15 | ≧12 | 435の方が延性が高い |
| 絞り(%) | ≧50 | ≧45 | 435の方が靱性・延性が高い |
| シャルピー衝撃値(J/cm²) | ≧78 | ≧63 | 435の方が衝撃吸収能が高い |
| 焼もどし硬さ(HB 目安) | 269〜331 | 285〜352 | 440の方がやや高硬度 |
💡 SCM435:強度はやや低いが靱性・延性が優れる。衝撃荷重や繰り返し荷重を受ける用途に向きます。
💡 SCM440:炭素量が多く強度・硬さが高い。高強度が求められる締結部品や機械構造部品に向きます。
④ 炭素量が特性に与える影響を図解する
炭素量が増えると強度・硬さは上がりますが、靱性(衝撃に対する粘り強さ)や延性は低下します。SCM435とSCM440はこのトレードオフの中で隣り合う位置にあり、「どちらかが優れている」ではなく「用途によって最適な方が異なる」という関係にあります。
⑤ 特性プロファイルの比較(レーダーチャート)
⑥ 熱処理条件と硬さの目安
焼入れ・焼もどし条件
| 工程 | SCM435 | SCM440 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 焼なまし | 830〜880℃ 炉冷 | 830〜880℃ 炉冷 | 軟化・加工性改善 |
| 焼ならし | 870〜920℃ 空冷 | 870〜920℃ 空冷 | 結晶粒微細化 |
| 焼入れ | 830〜880℃ 油冷または水冷 | 830〜880℃ 油冷または水冷 | マルテンサイト化・硬さ付与 |
| 焼もどし | 530〜630℃ 急冷 | 530〜630℃ 急冷 | 靱性回復・残留応力除去 |
| 焼入れ後最大硬さ(HRC目安) | 約 54〜56 | 約 55〜57 | 焼もどし前の表面硬さ |
⚠️ 焼もどし温度は目的の強度・硬さに合わせて調整します。焼もどし温度が低いほど高強度・高硬度になりますが、靱性は低下します。SCM440は炭素量が多いため、同じ焼もどし温度でも若干高硬度になります。
⚠️ 焼もどし脆性域(350〜500℃)を避けて急冷することが重要です。SCMはMo添加により焼もどし脆性が抑制されていますが、脆性域通過時の急冷は基本です。
⑦ JIS・海外規格対応表
| JIS(G 4053) | ASTM/SAE(米国) | EN/DIN(欧州) | GB(中国) | ISO |
|---|---|---|---|---|
| SCM435 | SAE 4135 AISI 4135 |
34CrMo4 (1.7220) |
35CrMo | 34CrMo4 |
| SCM440 | SAE 4140 AISI 4140 |
42CrMo4 (1.7225) |
42CrMo | 42CrMo4 |
※ 海外規格は完全に同一ではなく「相当材」です。成分上限・下限が微妙に異なるため、国際調達時は規格票の原文で確認してください。SCM440に相当するAISI 4140は海外で非常にポピュラーな構造用合金鋼です。
⑧ 用途別の使い分け:どちらを選ぶか
SCM435が向いている用途
⚙️ コンロッド・クランクシャフト
繰り返しの衝撃荷重・疲労に対して靱性が重要なエンジン内部品に適しています。強度と靱性のバランスが取れた SCM435 がよく選ばれます。
🔩 締結ボルト(高強度・高靱性品)
振動・衝撃が加わる締結部品で、破断よりも変形での破損を許容する設計(フェールセーフ)に向いています。
🏗️ 建設機械部品
土砂・岩盤への衝突荷重が繰り返しかかる掘削機器の関節部品・ピンなどに使われます。靱性の高さが安全余裕を生みます。
SCM440が向いている用途
🔧 高強度ボルト・スタッドボルト
高軸力を要求される締結部品の代表材料です。SCM440は AISI 4140と同等で、国際的に最もポピュラーな高強度ボルト用鋼の一つです。
⚙️ 歯車・スプライン軸
面圧・曲げ疲労が組み合わさる歯車やスプライン軸は、より高強度な SCM440 が適しています。浸炭・高周波焼入れとの組み合わせも多いです。
🏭 プレス金型部品・工具
プレス金型のダイセット・ホルダーなど、高剛性・高強度が求められる構造部品に使われます。焼入れ後の高硬度が摩耗抵抗を高めます。
🚗 ドライブシャフト・トランスミッション部品
自動車の動力伝達系では高い疲労強度と強度が求められます。SCM440 は JIS クラス 10.9 〜 12.9 のボルト材としても広く使われています。
まとめ:SCM435・SCM440で押さえておきたいこと
- SCM435とSCM440の違いは実質炭素量のみ(C: 0.33〜0.38% vs 0.38〜0.43%)で、Cr・Mo・Mn・Si は同一範囲です。
- SCM440は引張強さ・硬さが高く(≧980 MPa)、SCM435は靱性・延性が優れ(シャルピー値 ≧78 J/cm²)ます。
- 「強度を最大限に取りたい」→ SCM440、「衝撃・繰り返し荷重で割れにくくしたい」→ SCM435が基本指針です。
- 海外ではSCM435≒AISI 4135(SAE 4135)、SCM440≒AISI 4140(SAE 4140)が相当材です。グローバル調達では4140の流通量が圧倒的に多いです。
- 熱処理条件(焼入れ温度・焼もどし温度)は両鋼種でほぼ同じですが、SCM440は同条件でわずかに高硬度になります。
- 迷ったときは用途に求められる「壊れ方」を考えることが重要です。延性破壊が許容できる設計はSCM435、引張・面圧荷重が支配的ならSCM440を選択します。
SCM435とSCM440はどちらも優れた機械構造用合金鋼ですが、わずかな炭素量の差が用途を分けます。設計荷重・熱処理条件・破損モードを考慮した上で、最適な鋼種を選択してください。

