自動盤・CNC旋盤で大量に削り出すボルト・ピン・シャフトに使われる「SUM材」。S45CやSCM440と同じ機械構造用鋼に見えますが、切削性を上げるために硫黄(S)や鉛(Pb)を意図的に添加した専用鋼です。この記事では、快削鋼がなぜ切れやすいのか・SUM各グレードの特性と使い分け・S45CやSCMとのトレードオフについて解説します。
快削鋼とは何か——「切れやすい鋼」のしくみ
通常の鋼を切削すると、切り屑(切粉)が長くつながって工具に絡みつきます。自動盤で高速・連続加工するとき、切粉が絡みつくと工具破損・加工不良・機械停止の原因になります。
快削鋼(JIS G 4804)はこれを解決するため、硫黄(S)を多めに添加しています。鋼中でSはマンガン(Mn)と結合してMnS(硫化マンガン)の介在物を形成します。このMnSが切削中に「内部切欠き」として働き、切り屑を細かく分断します——これが「切削性が高い」の正体です。
SUM材のグレードと成分一覧(JIS G 4804)
| 鋼種 | C(%) | Mn(%) | P(%) | S(%) | Pb | Cr | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| SUM11 | ≦0.13 | 0.60〜0.90 | 0.07〜0.12 | 0.08〜0.13 | — | — | 低炭素・基本グレード |
| SUM21 | ≦0.13 | 0.70〜1.00 | 0.07〜0.12 | 0.16〜0.23 | — | — | S量増加・汎用品 |
| SUM22 | ≦0.20 | 0.70〜1.00 | 0.07〜0.12 | 0.24〜0.33 | — | — | 最も広く使われる標準品 |
| SUM22L | ≦0.20 | 0.70〜1.00 | 0.07〜0.12 | 0.24〜0.33 | 0.10〜0.35% | — | Pb添加・最高切削性 |
| SUM23 | 0.32〜0.39 | 0.70〜1.00 | 0.07〜0.12 | 0.26〜0.35 | — | — | 中炭素・強度と切削性の両立 |
| SUM23L | 0.32〜0.39 | 0.70〜1.00 | 0.07〜0.12 | 0.26〜0.35 | 0.10〜0.35% | — | SUM23 + Pb |
| SUM24L | 0.32〜0.39 | 1.35〜1.65 | 0.07〜0.12 | 0.26〜0.35 | 0.10〜0.35% | — | 高Mn + Pb・高切削性 |
| SUM31 | 0.14〜0.20 | 1.00〜1.30 | ≦0.040 | 0.08〜0.13 | — | 0.60〜0.90% | Cr添加・強度重視 |
| SUM31L | 0.14〜0.20 | 1.00〜1.30 | ≦0.040 | 0.08〜0.13 | 0.10〜0.35% | 0.60〜0.90% | SUM31 + Pb |
| SUM41 | 0.36〜0.44 | 1.35〜1.65 | ≦0.040 | 0.08〜0.13 | — | — | 熱処理可能・高強度快削 |
| SUM42 | 0.40〜0.48 | 1.35〜1.65 | ≦0.040 | 0.08〜0.13 | — | — | SUM41より高炭素 |
| SUM43 | 0.38〜0.45 | 1.35〜1.65 | ≦0.040 | 0.08〜0.13 | — | 0.30〜0.60% | Cr-Mn系・強度+切削性 |
S45CやSCMとどう使い分けるか
| 比較項目 | SUM22(快削鋼) | S45C(機械構造用鋼) | SCM440(合金鋼) |
|---|---|---|---|
| 切削性(被削性指数) | ◎(約300) | ○(基準:100) | △(約70) |
| 引張強さ(素材まま) | 380〜490MPa | 570MPa以上 | 930MPa以上(調質後) |
| 熱処理による強化 | △(炭素量が低く硬化しにくい) | ○(焼入れ可) | ◎(焼入れ・焼戻し) |
| 耐食性 | ×(S・P多く錆びやすい) | △ | △ |
| 溶接性 | ×(MnS介在物で割れやすい) | △(要注意) | △(要予熱) |
| コスト(材料) | 安い | 普通 | 高い |
| 主な用途 | 自動盤部品・ボルト・ピン | 軸・歯車・一般機械部品 | 高強度軸・ボルト・ギア |
グレードの選び方:実務での判断基準
ボルト・ナット・ピン・スリーブなど高精度・大量生産部品の定番です。SUM22はSUM材の中で最も使用量が多い標準グレード。さらに切削性を上げたい場合はPb添加のSUM22Lを選びます。ただし強度要求がある部品には向かないため、「削りやすさ」が最優先の場面に限定します。
SUM31はCrを添加したグレードで、切削性を保ちながら浸炭焼入れで表面硬化が可能です。歯車・カム・小型軸など「切りやすく、かつ強くしたい」部品に向いています。SUM43はCr-Mn系でさらに強度が高く、軽量かつ高負荷の精密部品に使われます。
中〜高炭素域のSUM41/42は焼入れ・焼戻しで高強度を出したうえで切削性も確保します。「量産で削り、熱処理で強度を出す」フローが必要な部品に向いています。S45CやSCM440より被削性が高く、自動盤での生産性が上がります。
快削鋼を使ってはいけない場面
- 溶接部品:MnS介在物が溶接割れの起点になりやすい。溶接が必要なら快削鋼は選ばない
- 腐食環境:SとPが多く、通常鋼より錆びやすい。屋外・湿潤・薬品環境には不向き
- 高衝撃・高靱性が必要な部品:MnS介在物が靱性を低下させる。衝撃荷重がかかるシャフトには使わない
- Pb添加品(L材)の環境規制対象製品:PbはRoHS指令の規制対象。電気・電子機器部品には使用禁止
現場でつまる場面
選定チェックリスト
- 溶接工程がないか確認したか(SUM材は溶接不可と考える)
- 腐食環境での使用がないか確認したか
- 熱処理で強度を出す必要があるなら、SUM41/42/31/43を選んでいるか
- 電気・電子機器部品にL材(Pb添加)を使っていないか(RoHS違反)
- 衝撃・疲労荷重がかかる部品に快削鋼を使っていないか
- 図面にJIS G 4804の鋼種記号を正しく指定しているか
まとめ
- 快削鋼(SUM材)はSとMnSの介在物で切粉を短く分断し、自動盤での高速連続加工を可能にする
- 最も広く使われるのはSUM22。切削性をさらに高めたい場合はPb添加のSUM22L(ただしRoHS規制に注意)
- 強度も必要ならSUM31/43(Cr添加)、熱処理前提の高強度品にはSUM41/42を選ぶ
- 溶接・腐食環境・衝撃荷重・RoHS対象製品にはSUM材を使わない
- 「切りやすさ」と引き換えに強度・靱性・耐食性・溶接性が下がることを設計段階で理解しておく

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