SK材は「数字が小さいほど炭素が多い」という記号体系を持つ。数字が大きい方が高性能に見えるが、実際は逆で、SK3(新記号SK105)の方がSK7(SK65)より硬く、もろい。この逆転関係が最初の混乱ポイントだ。記号の読み方とグレード間の差、水焼入れが必須になる理由を見ていく。
記号の読み方と新旧対応
新記号の数字は「炭素量×100」の近似値。JIS G 4401(2000年改正)で変更されたが、図面・発注書では旧記号がまだ多く使われている。
「S」はSteel(鋼)、「K」は工具のKouguの頭文字。数字が小さいほど高炭素・高硬度で、大きいほど低炭素・高靱性になる。このカウントダウン的な体系は「数字が大きい=上位グレード」という他材料の感覚と逆なので注意が要る。
グレード別の成分・硬さ・用途
| 新記号 | 旧記号 | C(%) | 焼入れ後硬さ | 靱性 | 代表用途 |
|---|---|---|---|---|---|
| SK140 | — | 1.30〜1.50 | 62〜65HRC | 低 | 精密ゲージ・ノギス |
| SK120 | SK2 | 1.15〜1.25 | 62〜64HRC | 低〜中低 | ドリル・タップ・リーマー |
| SK105 | SK3 | 1.00〜1.10 | 60〜63HRC | 中低 | ヤスリ・スタンプ・彫刻刃 |
| SK85 | SK5 | 0.80〜0.90 | 58〜62HRC | 中 | 木工鋸・包丁・ノコギリ刃 |
| SK75 | SK6 | 0.70〜0.80 | 56〜60HRC | 中〜高 | 農工具・ハンマー刃 |
| SK65 | SK7 | 0.60〜0.70 | 54〜58HRC | 高 | スプリング・タガネ・板バネ |
炭素量と硬さ・靱性の関係
なぜ水焼入れが必須なのか
SK材にはCr・Mo・Vが入っていない。これらの合金元素は「焼入れ性」——鋼の内部まで硬化する能力——を上げる役割を持つ。SK材はその元素を持たないため、冷却速度が遅い油焼入れでは表面しか硬化しない。奥まで硬くするには水で一気に冷やす必要がある。
SK材 vs SKD11 ——どちらを選ぶか
| 項目 | SK材(炭素工具鋼) | SKD11(合金工具鋼) |
|---|---|---|
| Cr・Mo・V | なし | Cr12%・Mo・V含有 |
| 焼入れ性 | 低い(水焼入れ必須) | 高い(油冷・空冷可) |
| 焼入れ後硬さ | 58〜63HRC | 55〜65HRC |
| 耐摩耗性 | 中(炭素量依存) | 非常に高い(硬質炭化物) |
| 焼き割れリスク | 高い(特にSK105) | 低い |
| 寸法変化 | 大きい | 小さい |
| コスト | 基準(1) | 約3〜5倍 |
| 向く用途 | 単純形状・小型工具・ゲージ | 金型・複雑形状・精密工具 |
「SK材で間に合う」条件は単純形状・小ロット・精度要求がそれほど厳しくないケース。精密金型や複雑形状はSKD11以上を選ぶ。水焼入れ設備がない現場なら、最初からSKD11(油冷可)に切り替えた方が不良率が下がることが多い。
規格・海外対応表
| JIS(新) | JIS(旧) | ASTM/SAE | EN |
|---|---|---|---|
| SK105 | SK3 | W1-10 | TC105 |
| SK85 | SK5 | W1-8 | TC85 |
| SK65 | SK7 | W1-6 | TC65 |
トラブル事例
用途別カード
C:1%超で60HRC超の硬さが得られる。削れることが問題になる用途に向く。衝撃が加わる場面では靱性が足りず欠けやすい。
SK材で最も汎用的なグレード。硬さと靱性のバランスが良く、焼き割れリスクも比較的低い。ホームセンターで売られているのこぎり刃の多くがSK85相当。
衝撃が繰り返し加わる用途。硬さより「割れない」ことが優先されるため、炭素量を下げた75番台を選ぶ。
弾性(ばね性)が最重要の用途。54〜58HRC程度と硬さは控えめだが、繰り返し変形に対する靱性が一番高い。スプリング用途ではSK65かそれ以下のグレードを使う。
SK材 or 合金工具鋼——現場での判断チェック
- ☐ 単純形状の小型工具・ゲージ → SK85またはSK105
- ☐ コストを優先したい → SK材(SKD11の1/3以下)
- ☐ 研磨・磨き工程が多い → SK材(被削性が良好)
- ☐ 水焼入れ設備がある → SK材が使える
- ☐ 水焼入れ設備がない → SKD11(油冷・空冷可)に切り替えを検討
- ☐ 複雑形状・精密金型 → SKD11以上
- ☐ 焼き割れをゼロにしたい → SKD11(焼き割れリスク低)
- ☐ 衝撃荷重・繰り返し変形 → SK65かより高靱性の合金鋼
SK材で押さえるべき3点
- 数字が小さい(SK3)ほど高炭素・高硬度・高脆性。SK7(SK65)は正反対で高靱性・低硬度。逆順の感覚を体に入れておく。
- 水焼入れ必須はCr・Mo不在による焼入れ性の低さが原因。油冷では奥まで硬化しない。水焼入れを使うなら焼き割れ対策(焼戻し160〜200℃・2回)もセットで計画する。
- SK材が有利なのは「単純形状・小型・コスト重視」の条件が揃ったとき。複雑形状・精密金型・水焼入れ設備なしならSKD11に移行した方が総合コストが低い。

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