SK材(SK3・SK5・SK7)とは? 炭素工具鋼の特徴と用途をやさしく解説

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SK材(炭素工具鋼)の違い|たすいち

SK材(SK3・SK5・SK7)とは? 炭素工具鋼の特徴と用途をやさしく解説

「工具鋼といえばまずSK材」と言われるほど、SK材は炭素工具鋼の入門です。SKD11やSKH51のような合金工具鋼の前に、SK材の基礎を押さえておくと材料選択の全体像が見えてきます。この記事ではSK3・SK5・SK7の違いと用途、そして合金工具鋼との選び分けをやさしく解説します。

SK材の規格記号はどう読む?新旧対応

記号意味
SSteel(鋼)
KKougu(工具)の頭文字
数字グレード(旧)/ 炭素量×100 相当(新)
新旧記号の対応: SK3(旧)→ SK105(新、C:1.00〜1.10%)、SK5(旧)→ SK85(新、C:0.80〜0.90%)、SK7(旧)→ SK65(新、C:0.60〜0.70%)。現行 JIS G 4401(2000年改正)では新記号が正式ですが、現場では旧記号の SK3・SK5・SK7 がまだ多く使われています。数字が小さいほど(SK3)炭素量が多く、数字が大きいほど(SK7)炭素量が少ないという逆順が混乱しやすいポイント。

「炭素工具鋼」とは何か

ポイント SK材は JIS G 4401 で規定される「炭素工具鋼」(Carbon Tool Steel)で、**炭素量のみで硬さを確保**した最もシンプルな工具鋼です。Cr・Mo・V などの合金元素を含まないため:
  • コストが安い(SKD11 の 1/3 程度)
  • 焼入れ性が低い——水焼入れが必須。空冷・油冷では硬度が出ません
  • 焼入れ変形が大きい——精密金型には向かない
  • 水や油に浸して急冷する必要がある——設備と技術が必要
  • 硬さは高い——炭素量が多いため焼入れ後 HRC 60 超が容易

SK材グレード比較(主要グレード)

新記号旧記号炭素量 (C%)焼入れ後硬さ靱性主な用途
SK1401.30〜1.50HRC 62〜65精密ゲージ・ノギス
SK120SK21.15〜1.25HRC 62〜64低〜中低ドリル・タップ・リーマー
SK105SK31.00〜1.10HRC 60〜63中低ヤスリ・スタンプ・彫刻刃
SK85SK50.80〜0.90HRC 58〜62木工鋸・包丁・ノコギリ刃
SK75SK60.70〜0.80HRC 56〜60中〜高農工具・ハンマー刃
SK65SK70.60〜0.70HRC 54〜58スプリング・タガネ・バネ鋼

炭素量と焼入れ後硬さ・靱性の関係

SK材が「水焼入れ必須」の理由

注意 SK材は Cr・Mo がないため、焼入れ性(奥深くまで硬化する能力)が低い。油冷や空冷では表面だけ硬くなり、内部は軟らかいままになります(層状硬化)。そのため **水焼入れで急速冷却** が必須です。ただし水焼入れは「焼き割れ」(急速冷却による内部応力で割れる)のリスクが高いため、焼戻し温度を適切に設定し、内部応力を緩和する必要があります。SK3(高炭素)ほど焼き割れリスクが高く、扱いが難しいです。

SK材 vs 合金工具鋼(SKD11)の比較

項目SK材(炭素工具鋼)SKD11(合金工具鋼)
化学成分C のみ(Cr・Mo・V なし)C + Cr + Mo + V 複合
焼入れ性低い(水焼入れが必須)高い(油冷・空冷可)
焼入れ後硬さHRC 58〜63HRC 55〜65(グレード・焼戻し温度による)
耐摩耗性中(炭素量に依存)非常に高い(V・Mo が硬い炭化物を形成)
焼入れ変形大きい(焼き割れのリスク)小さい(焼き割れ性が低い)
コスト安価(基準値を 1 とすると)高価(3〜5倍程度)
被削性(磨きやすさ)良好(炭素工具鋼は硬化状態でも研磨可)困難(硬い炭化物が多い)
向く用途単純形状の小型工具・ゲージ金型・複雑形状・精密工具

JIS・海外規格対応表

JIS(新)JIS(旧)ASTM/SAEEN用途域
SK105SK3W1-10TC105高硬度・ゲージ・彫刻
SK85SK5W1-8TC85汎用・木工工具
SK65SK7W1-6TC65高靱性・スプリング

失敗事例:SK材選定と焼入れのトラブル

事例1:SK3 を油焼入れしたら硬度が出なかった
状況小型ゲージを SK3(旧)で製造。コスト削減のため水焼入れ設備を避け、油焼入れで処理した。ところが表面は HRC 60 以上硬いが、内部は HRC 40 程度と軟らかく、使用中に変形してしまった。
原因SK3 は焼入れ性が低く、油の冷却速度では奥深くまで硬化しません。表面の硬化層だけで内部は軟らかいままになり(層状硬化)、内部応力で変形が起きました。
対策水焼入れに変更。同時に焼き割れリスク低減のため焼戻し温度を 200°C 程度に設定。そのあと寸法安定性が確保されました。
事例2:SK105(高炭素)の焼き割れ
状況精密ゲージを SK105(旧 SK3)で製造。水焼入れ後、数個の部品に微小な割れが発生。焼戻し処理を入れても割れが消えず、不良率が 10% に達した。
原因SK105 は炭素量が 1% 超と非常に高く、水焼入れ時の急速冷却で内部に大きな応力が生じ、脆化して割れやすくなります。焼戻し温度が低かったため、内部応力が十分に緩和されていませんでした。
対策焼戻し温度を 150〜200°C に上げ、2〜3 回の焼戻しを施工。内部応力を十分に緩和。その後、焼き割れが発生しなくなりました。

用途別カード

ヤスリ・スタンプ・彫刻工具(SK105)

高炭素量で HRC 60 超の高硬度が得られる SK105 はヤスリ・精密スタンプ・彫刻刃に使われます。耐摩耗性が最優先。

木工鋸・ノコギリ刃・包丁(SK85)

靱性と硬さのバランスがよい SK85 は木工用鋸刃・ノコギリ・家庭用包丁に広く使われます。焼き割れリスクも比較的低い。

農工具・ハンマー刃・タガネ(SK75)

衝撃や曲げが加わるハンマー・農業用鍬刃・タガネなどは靱性が必要なため SK75 程度が選ばれます。

スプリング・板バネ(SK65)

弾性が最優先されるスプリング・板バネ・剣道竹刀の金具用途では SK65 が使われます。

SK材選定チェックリスト

チェックリスト:SK材か合金工具鋼か
  • ☐ 単純形状の小型工具・ゲージ → SK85 か SK105
  • ☐ コストが重要(予算が限定) → SK 材(SKD11 の 1/3 以下)
  • ☐ 磨き・研磨作業が多い → SK 材(被削性が良好)
  • ☐ 水焼入れ設備がある → SK 材の選択肢拡大
  • ☐ 複雑形状・精密金型 → SKD11 以上
  • ☐ 焼き割れリスクを最小化 → SKD11(焼き割れ性が低い)
  • ☐ 油焼入れで完結したい → SKD11 か SKS(安定化ステンレス)
  • ☐ 高靱性が重要(衝撃環境) → SK65 か高靱性合金鋼

まとめ:SK材で押さえておきたいこと

  • SK材はJIS G 4401の炭素工具鋼で、炭素量のみで硬さを確保した最もシンプルな工具鋼です。
  • 数字が小さい(SK3・新 SK105)ほど高炭素・高硬度で、数字が大きい(SK7・新 SK65)ほど低炭素・高靱性。
  • 焼入れ性が低く水焼入れ必須——油焼入れでは硬度が出ず、焼き割れリスク(特に SK3)も高い。
  • 合金工具鋼(SKD11等)に比べコストが安く被削性が良好ですが、精密金型・複雑形状には不向き。
  • 「小型工具・ゲージで予算限定なら SK材、精密金型・長期耐久性重視なら SKD11」と覚えれば選定が明確。

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