ハステロイとインコネルの使い分け:選定フローと現場の判断基準
ハステロイとインコネルの設計思想の違い
主要グレード成分比較
| 商品名 | Ni (%) | Cr (%) | Mo (%) | W (%) | Fe (%) | 設計方針 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Hastelloy C-276 | 残部(≧57) | 14.5〜16.5 | 15〜17 | 3〜4.5 | 4〜7 | 耐食性最大化(Mo最高) |
| Hastelloy C-22 | 残部(≧56) | 20〜22.5 | 12.5〜14.5 | 2.5〜3.5 | 2〜6 | 耐食性+耐高温酸化 |
| Hastelloy B-3 | 残部(≧65) | 1〜3 | 27〜32 | 3以下 | 1〜3 | 還元性酸(塩酸等)特化 |
| Inconel 625 | ≧58 | 20〜23 | 8〜10 | — | ≦5 | 高温強度+耐食性 |
| Inconel 718 | 50〜55 | 17〜21 | 2.8〜3.3 | — | 残部 | 析出硬化・最高強度 |
耐食性の具体的な違い
| 腐食環境 | Hastelloy C-276 | Inconel 625 | SUS316L |
|---|---|---|---|
| 塩化物(Cl⁻)溶液 | ◎ 最優秀 | ◎ 最優秀 | ○ |
| 塩酸(HCl) | ◎ | ○ | △ |
| 硫酸(H₂SO₄) | ◎ | ○ | △〜○ |
| 硝酸(HNO₃) | ○ | ◎ | ○ |
| 混酸(王水等) | ◎ | ○ | × |
| 高温強度(700°C) | ○ | ◎ | △ |
耐孔食指数(PRE)の比較
PRE(Pitting Resistance Equivalent)= Cr + 3.3×Mo + 16×N という指標で耐孔食性を評価します。数値が高いほど塩化物環境での耐孔食性が優れています。金属の硬さ一覧と合わせて参照すると、各材料の総合的な性能をより理解しやすくなります。
ハステロイかインコネルかを決める選定フロー
Yes → Inconel系を優先検討(高温強度が必要。C-276は高温強度でInconel 625に劣る)
No → Step 2へ
Yes → Hastelloy B-3(Mo 27〜32%)またはC-276を選定
No → Step 3へ
Yes → C-276(PRE≈73)かInconel 625(PRE≈52)が競合。PRE値と使用温度の両方で判断する
No → Step 4へ
→ コスト・調達性で判断。C-276の方が一般的に流通量が多く納期面で有利な場合がある。Inconel 625は溶接性に優れるため、溶接施工が多い設備ではInconel 625を選ぶケースもある。
両方使われる用途での選定ミス事例
事例:海底油田配管でInconel 625を指定、HAZ部での応力腐食割れが発生
深海油田向けの配管材としてInconel 625を指定した案件で、溶接施工後の圧力試験中にHAZ部での応力腐食割れが確認された。調査の結果、坑内のH₂S濃度が当初の想定(50 ppm)を大幅に上回る350 ppm であり、Inconel 625のNACC MR0175/ISO 15156に基づく許容H₂S濃度を超えていたことが判明した。この環境では、H₂S耐性をより重視したHastelloy C-276が正解だった。
教訓:H₂S+Cl⁻共存環境では「PRE値だけ」で判断しない。NACE MR0175/ISO 15156の許容条件(温度・H₂S分圧・Cl⁻濃度の組み合わせ)を必ず確認してください。
用途別カード
化学反応器・配管(C-276)
塩酸・硫酸・混酸を扱う化学プラントの反応器や攪拌槽に使われます。耐食性の極限が要求される用途のデファクトスタンダードです。
廃棄物処理設備(C-276)
焼却炉の排ガス洗浄塔・スクラバーに使われます。塩化水素やSOxが混在する高腐食性ガス環境に対応します。
ガスタービン・エンジン(Inconel 718)
高温荷重が主な課題となる場合はInconel 718が適しています。耐食性よりも高温強度が優先される部位に向きます。
海底油田・塩水環境(C-276 / C-22)
H₂S・CO₂・塩化物が共存する油田設備に使われます。H₂S濃度が高い環境ではC-276またはC-22がInconel 625より適する場合があります。
まとめ:ハステロイとインコネルで押さえておきたいこと
- ハステロイは高Mo(15〜32%)設計で耐食性を最大化したNi基合金です。特にC-276が強酸・混酸環境で圧倒的な耐食性を発揮します。
- インコネルはCr・Nb(・Mo)のバランスで高温強度と耐食性を両立しており、航空・エネルギー分野の高温部品が主な用途です。
- 選定フローの核心:「700°C以上か」→「還元性酸か」→「PRE値で判断」の順で絞り込む。どちらでも使える場面はコスト・溶接性で最終判断。
- H₂S環境ではPRE値だけで判断せず、NACE MR0175/ISO 15156の許容条件を確認することが必須です。
- コストはどちらもSUS304の15〜30倍以上になるため、本当に必要な部位に限定して使います。


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