ハステロイとインコネルの使い分け:選定フローと現場の判断基準

非鉄金属

ハステロイとインコネルの使い分け:選定フローと現場の判断基準

どちらもNi基合金ですが、ハステロイは「耐食性の極限」を追求した設計、インコネルは「高温強度と耐食性の両立」を目指した設計です。化学プラントの反応器や油田設備の配管選定でよく比較される2つの材料について、選定フローと実際の失敗事例を交えて解説します。

ハステロイとインコネルの設計思想の違い

商標について: ハステロイはHaynes International社、インコネルはSpecial Metals社(現SMC)の登録商標です。どちらもNi基合金ですが、設計の方向性が異なります。ハステロイは高Mo・W添加で耐食性を最大化、インコネルはCr・Nb添加で高温強度と耐食性を両立させています。なお、一般的なステンレス鋼はFe基合金であり、Ni基のハステロイ・インコネルとは根本的に異なります。

主要グレード成分比較

商品名Ni (%)Cr (%)Mo (%)W (%)Fe (%)設計方針
Hastelloy C-276残部(≧57)14.5〜16.515〜173〜4.54〜7耐食性最大化(Mo最高)
Hastelloy C-22残部(≧56)20〜22.512.5〜14.52.5〜3.52〜6耐食性+耐高温酸化
Hastelloy B-3残部(≧65)1〜327〜323以下1〜3還元性酸(塩酸等)特化
Inconel 625≧5820〜238〜10≦5高温強度+耐食性
Inconel 71850〜5517〜212.8〜3.3残部析出硬化・最高強度

耐食性の具体的な違い

腐食環境Hastelloy C-276Inconel 625SUS316L
塩化物(Cl⁻)溶液◎ 最優秀◎ 最優秀
塩酸(HCl)
硫酸(H₂SO₄)△〜○
硝酸(HNO₃)
混酸(王水等)×
高温強度(700°C)

耐孔食指数(PRE)の比較

PRE(Pitting Resistance Equivalent)= Cr + 3.3×Mo + 16×N という指標で耐孔食性を評価します。数値が高いほど塩化物環境での耐孔食性が優れています。金属の硬さ一覧と合わせて参照すると、各材料の総合的な性能をより理解しやすくなります。

ハステロイかインコネルかを決める選定フロー

1
温度は700°C以上か?
Yes → Inconel系を優先検討(高温強度が必要。C-276は高温強度でInconel 625に劣る)
No → Step 2へ
2
腐食環境は還元性酸(塩酸・希硫酸)が主体か?
Yes → Hastelloy B-3(Mo 27〜32%)またはC-276を選定
No → Step 3へ
3
混酸・塩化物・海水系か?
Yes → C-276(PRE≈73)かInconel 625(PRE≈52)が競合。PRE値と使用温度の両方で判断する
No → Step 4へ
4
どちらでも使える場面(500°C程度・混酸系)
→ コスト・調達性で判断。C-276の方が一般的に流通量が多く納期面で有利な場合がある。Inconel 625は溶接性に優れるため、溶接施工が多い設備ではInconel 625を選ぶケースもある。

両方使われる用途での選定ミス事例

事例:海底油田配管でInconel 625を指定、HAZ部での応力腐食割れが発生

深海油田向けの配管材としてInconel 625を指定した案件で、溶接施工後の圧力試験中にHAZ部での応力腐食割れが確認された。調査の結果、坑内のH₂S濃度が当初の想定(50 ppm)を大幅に上回る350 ppm であり、Inconel 625のNACC MR0175/ISO 15156に基づく許容H₂S濃度を超えていたことが判明した。この環境では、H₂S耐性をより重視したHastelloy C-276が正解だった。

教訓:H₂S+Cl⁻共存環境では「PRE値だけ」で判断しない。NACE MR0175/ISO 15156の許容条件(温度・H₂S分圧・Cl⁻濃度の組み合わせ)を必ず確認してください。

用途別カード

化学反応器・配管(C-276)

塩酸・硫酸・混酸を扱う化学プラントの反応器や攪拌槽に使われます。耐食性の極限が要求される用途のデファクトスタンダードです。

廃棄物処理設備(C-276)

焼却炉の排ガス洗浄塔・スクラバーに使われます。塩化水素やSOxが混在する高腐食性ガス環境に対応します。

ガスタービン・エンジン(Inconel 718)

高温荷重が主な課題となる場合はInconel 718が適しています。耐食性よりも高温強度が優先される部位に向きます。

海底油田・塩水環境(C-276 / C-22)

H₂S・CO₂・塩化物が共存する油田設備に使われます。H₂S濃度が高い環境ではC-276またはC-22がInconel 625より適する場合があります。

まとめ:ハステロイとインコネルで押さえておきたいこと

  • ハステロイは高Mo(15〜32%)設計で耐食性を最大化したNi基合金です。特にC-276が強酸・混酸環境で圧倒的な耐食性を発揮します。
  • インコネルはCr・Nb(・Mo)のバランスで高温強度と耐食性を両立しており、航空・エネルギー分野の高温部品が主な用途です。
  • 選定フローの核心:「700°C以上か」→「還元性酸か」→「PRE値で判断」の順で絞り込む。どちらでも使える場面はコスト・溶接性で最終判断。
  • H₂S環境ではPRE値だけで判断せず、NACE MR0175/ISO 15156の許容条件を確認することが必須です。
  • コストはどちらもSUS304の15〜30倍以上になるため、本当に必要な部位に限定して使います。

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