「M10のボルトって何N·mで締めればいい?」——現場でよく聞かれる問いです。強度区分・潤滑の有無・座面の状態によって適切なトルクは変わります。カタログ値をそのまま使う前に、数値の前提条件を理解しておくと過締め・締め付け不足の両方を防げます。
締め付けトルクの基本式
締め付けトルク T(N·m)と軸力 F(N)の関係は次の式で表せます。
基本計算式
T = K × d × F
T:締め付けトルク(N·m)
K:トルク係数(無次元)
d:ボルト呼び径(m)
F:目標軸力(N)
T:締め付けトルク(N·m)
K:トルク係数(無次元)
d:ボルト呼び径(m)
F:目標軸力(N)
トルク係数 K は摩擦状態によって変わります。
| 状態 | K値の目安 |
|---|---|
| 潤滑なし(黒皮・ドライ) | 0.17〜0.22 |
| 潤滑なし(機械仕上げ面) | 0.15〜0.19 |
| 機械油塗布 | 0.13〜0.17 |
| モリブデングリス塗布 | 0.10〜0.14 |
| 亜鉛めっき(ドライ) | 0.18〜0.22 |
| 三価クロメート処理 | 0.13〜0.18 |
潤滑グリスを塗ると K が下がる=同じトルクをかけたとき軸力が大きくなる。潤滑剤使用時は乾燥時の規定トルクをそのまま使うと過締めになる。必ずK値を確認して計算し直すこと。
強度区分別・締め付けトルク一覧
以下の値は潤滑なし・K=0.17・締め付け率70%(降伏点の70%を目標軸力とする)を基準にした目安値です。実際の設計では使用条件に合わせてK値・締め付け率を設定してください。
強度区分 8.8(一般機械・構造の標準)
| 呼び径 | ピッチ (mm) | 目標軸力 (kN) | 締め付けトルク (N·m) |
|---|---|---|---|
| M6 | 1.0 | 8.2 | 8〜10 |
| M8 | 1.25 | 15.3 | 20〜25 |
| M10 | 1.5 | 24.5 | 40〜50 |
| M12 | 1.75 | 36.0 | 70〜85 |
| M14 | 2.0 | 49.5 | 110〜130 |
| M16 | 2.0 | 66.5 | 165〜200 |
| M20 | 2.5 | 105 | 320〜390 |
| M24 | 3.0 | 152 | 560〜680 |
強度区分 10.9(高強度締結・エンジン・構造)
| 呼び径 | ピッチ (mm) | 目標軸力 (kN) | 締め付けトルク (N·m) |
|---|---|---|---|
| M6 | 1.0 | 11.8 | 12〜15 |
| M8 | 1.25 | 22.1 | 28〜35 |
| M10 | 1.5 | 35.3 | 58〜70 |
| M12 | 1.75 | 51.9 | 100〜120 |
| M14 | 2.0 | 71.6 | 155〜190 |
| M16 | 2.0 | 96.1 | 235〜285 |
| M20 | 2.5 | 152 | 460〜560 |
| M24 | 3.0 | 220 | 810〜980 |
強度区分 12.9(超高強度・精密機械・航空)
| 呼び径 | ピッチ (mm) | 目標軸力 (kN) | 締め付けトルク (N·m) |
|---|---|---|---|
| M6 | 1.0 | 13.7 | 14〜17 |
| M8 | 1.25 | 25.7 | 32〜40 |
| M10 | 1.5 | 41.2 | 67〜82 |
| M12 | 1.75 | 60.5 | 118〜143 |
| M14 | 2.0 | 83.4 | 181〜220 |
| M16 | 2.0 | 112 | 275〜335 |
| M20 | 2.5 | 177 | 540〜660 |
| M24 | 3.0 | 256 | 944〜1150 |
ステンレスボルト A2-70(SUS304相当)
| 呼び径 | ピッチ (mm) | 目標軸力 (kN) | 締め付けトルク (N·m) |
|---|---|---|---|
| M6 | 1.0 | 7.2 | 7〜9 |
| M8 | 1.25 | 13.4 | 17〜21 |
| M10 | 1.5 | 21.4 | 35〜43 |
| M12 | 1.75 | 31.4 | 61〜74 |
| M16 | 2.0 | 58.0 | 142〜173 |
| M20 | 2.5 | 91.7 | 279〜340 |
注意
上記は参考値です。実際の締め付けトルクはボルト・ナットの材質・表面処理・潤滑状態・被締結材の材質・締め付け率の設計値によって変わります。安全に関わる重要締結部位は必ずメーカーの仕様書または設計計算に基づいてください。
潤滑剤使用時のトルク補正
モリブデングリスや焼き付き防止剤を塗布するとKが下がります。乾燥時の規定トルクをそのまま使うと目標軸力の130〜170%になる場合があり、ボルトが降伏・破断するリスクがあります。
補正計算の例
乾燥時トルク規定:M12 8.8 → 80N·m(K=0.19想定)
モリブデングリス塗布後:K=0.12に低下
補正トルク = 80 × (0.12 / 0.19) ≒ 50N·m
※ 同じ80N·mで締めると軸力が約1.6倍になり降伏点を超える可能性あり
モリブデングリス塗布後:K=0.12に低下
補正トルク = 80 × (0.12 / 0.19) ≒ 50N·m
※ 同じ80N·mで締めると軸力が約1.6倍になり降伏点を超える可能性あり
締め付け手順のポイント
- 仮締め→本締めの2段階:まず規定値の50%で仮締め、その後規定値で本締め。複数本ある場合は対角線順。
- トルクレンチの精度確認:トルクレンチは定期的に校正する(一般的に1年または500回使用ごと)。
- 着座確認:ボルト頭・座面が均一に接触していない状態でトルクをかけると、規定トルクをかけても軸力が不足する。
- ステンレスボルトのかじり対策:手トルクで途中まで締めてからトルクレンチで本締め。インパクトレンチ単独使用は避ける。
事例:規定トルクで締めたのにボルトが緩んだ
状況M12 8.8ボルトを規定トルク80N·mで締め付けたが、1週間後の点検で緩みが確認された。トルクレンチは使用していた。
原因ねじ面に錆と汚れが付着した状態で締め付けたため実効的なK値が0.30以上に上昇。同じトルクをかけても軸力が規定の半分以下しか発生していなかった。初期なじみによる軸力低下も重なった。
対策締め付け前にねじ面の清掃を義務化。K=0.17を前提とした規定トルクを再計算し直し。初期なじみを考慮して施工後24時間での増し締め点検を標準手順に追加。
締め付けトルク管理チェックリスト
- ボルトの強度区分を確認した
- 潤滑剤の有無を確認し、K値を設定した
- 潤滑剤使用時は乾燥時のトルク値を補正した
- ねじ面・座面の清掃・異物除去を行った
- 仮締め(50%)→本締めの2段階手順で締め付けた
- 複数ボルトは対角線順に締め付けた
- トルクレンチの校正状態を確認した
まとめ
- 締め付けトルク T = K × d × F。K(トルク係数)は潤滑状態で0.10〜0.22と大きく変わる
- 潤滑剤を塗布した場合は乾燥時の規定トルクを補正しないと過締めになる
- 強度区分が上がるほど同径で高い軸力・トルクが必要。8.8→10.9で約1.4倍
- ステンレスA2-70は8.8より引張強さが低いため、トルク値も8.8より小さい
- ねじ面の汚れ・錆はK値を大きく変動させる。清掃してから締め付けることが軸力の安定につながる

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