ボルトの締め付けトルク一覧|M6〜M24・強度区分別の規定値と計算方法

金属の知識

「M10のボルトって何N·mで締めればいい?」——現場でよく聞かれる。強度区分・潤滑の有無・座面の状態によって適切なトルクは変わり、カタログ値をそのまま使うと過締めにも締め付け不足にもなり得る。規定トルクで締めたのに1週間で緩んだ実例を交えながら、数値の前提条件を見ていく。

締め付けトルクの基本式

締め付けトルクT(N·m)と軸力F(N)の関係は次の式で表せる。

基本計算式 T = K × d × F

T:締め付けトルク(N·m)
K:トルク係数(無次元)
d:ボルト呼び径(m)
F:目標軸力(N)

トルク係数Kは摩擦状態によって変わる。

状態K値の目安
潤滑なし(黒皮・ドライ)0.17〜0.22
潤滑なし(機械仕上げ面)0.15〜0.19
機械油塗布0.13〜0.17
モリブデングリス塗布0.10〜0.14
亜鉛めっき(ドライ)0.18〜0.22
三価クロメート処理0.13〜0.18
潤滑グリスを塗るとKが下がる=同じトルクをかけたとき軸力が大きくなる。潤滑剤使用時は乾燥時の規定トルクをそのまま使うと過締めになる。必ずK値を確認して計算し直す。

強度区分別・締め付けトルク一覧

以下の値は潤滑なし・K=0.17・締め付け率70%(降伏点の70%を目標軸力とする)を基準にした目安値。実際の設計では使用条件に合わせてK値・締め付け率を設定する。

強度区分 8.8(一般機械・構造の標準)

呼び径ピッチ (mm)目標軸力 (kN)締め付けトルク (N·m)
M61.08.28〜10
M81.2515.320〜25
M101.524.540〜50
M121.7536.070〜85
M142.049.5110〜130
M162.066.5165〜200
M202.5105320〜390
M243.0152560〜680

強度区分 10.9(高強度締結・エンジン・構造)

呼び径ピッチ (mm)目標軸力 (kN)締め付けトルク (N·m)
M61.011.812〜15
M81.2522.128〜35
M101.535.358〜70
M121.7551.9100〜120
M142.071.6155〜190
M162.096.1235〜285
M202.5152460〜560
M243.0220810〜980

強度区分 12.9(超高強度・精密機械・航空)

呼び径ピッチ (mm)目標軸力 (kN)締め付けトルク (N·m)
M61.013.714〜17
M81.2525.732〜40
M101.541.267〜82
M121.7560.5118〜143
M142.083.4181〜220
M162.0112275〜335
M202.5177540〜660
M243.0256944〜1150

ステンレスボルト A2-70(SUS304相当)

呼び径ピッチ (mm)目標軸力 (kN)締め付けトルク (N·m)
M61.07.27〜9
M81.2513.417〜21
M101.521.435〜43
M121.7531.461〜74
M162.058.0142〜173
M202.591.7279〜340
注意上記は参考値。実際の締め付けトルクはボルト・ナットの材質・表面処理・潤滑状態・被締結材の材質・締め付け率の設計値によって変わる。安全に関わる重要締結部位は必ずメーカーの仕様書または設計計算に基づくこと。

潤滑剤使用時のトルク補正

モリブデングリスや焼き付き防止剤を塗布するとKが下がる。乾燥時の規定トルクをそのまま使うと目標軸力の130〜170%になる場合があり、ボルトが降伏・破断するリスクがある。

補正計算の例 乾燥時トルク規定:M12 8.8 → 80N·m(K=0.19想定)
モリブデングリス塗布後:K=0.12に低下
補正トルク = 80 × (0.12 / 0.19) ≒ 50N·m

同じ80N·mで締めると軸力が約1.6倍になり降伏点を超える可能性がある。

締め付け手順のポイント

  • 仮締め→本締めの2段階:まず規定値の50%で仮締め、その後規定値で本締め。複数本ある場合は対角線順。
  • トルクレンチの精度確認:トルクレンチは定期的に校正する(一般的に1年または500回使用ごと)。
  • 着座確認:ボルト頭・座面が均一に接触していない状態でトルクをかけると、規定トルクをかけても軸力が不足する。
  • ステンレスボルトのかじり対策:手トルクで途中まで締めてからトルクレンチで本締め。インパクトレンチ単独使用は避ける。

現場で実際に起きたトラブル

規定トルクで締めたのに1週間後に緩みが見つかった
状況M12 8.8ボルトを校正済みのトルクレンチで規定トルク80N·mに締め付けた。1週間後の定期点検で、複数本のボルトに緩みが確認された。
原因ねじ面に錆と汚れが付着した状態で締め付けたため、実効的なK値が0.30以上に上昇していた。同じトルクをかけても軸力は規定の半分以下しか発生していなかった。初期なじみによる軸力低下も重なっていた。
対策締め付け前のねじ面清掃を義務化し、K=0.17を前提とした規定トルクを再確認した。初期なじみを考慮し、施工後24時間での増し締め点検を標準手順に追加した。以降、同様の緩みは出ていない。
締め付けトルク管理チェックリスト
  • ボルトの強度区分を確認した
  • 潤滑剤の有無を確認し、K値を設定した
  • 潤滑剤使用時は乾燥時のトルク値を補正した
  • ねじ面・座面の清掃・異物除去を行った
  • 仮締め(50%)→本締めの2段階手順で締め付けた
  • 複数ボルトは対角線順に締め付けた
  • トルクレンチの校正状態を確認した

まとめ

  • 締め付けトルクT = K × d × F。K(トルク係数)は潤滑状態で0.10〜0.22と大きく変わる。
  • 潤滑剤を塗布した場合は乾燥時の規定トルクを補正しないと過締めになる。
  • 強度区分が上がるほど同径で高い軸力・トルクが必要。8.8→10.9で約1.4倍。
  • ステンレスA2-70は8.8より引張強さが低いため、トルク値も8.8より小さい。
  • ねじ面の汚れ・錆はK値を大きく変動させる。清掃してから締め付けることが軸力の安定につながる。

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