亜鉛ダイカスト合金をやさしく解説:ADC12との使い分けと小物精密部品での優位性

非鉄金属

「小さくて複雑な形状をダイカストで作りたい」——そのとき真っ先に検討すべきなのが亜鉛ダイカスト合金(ザマック)です。アルミダイカスト(ADC12)より融点が低く、金型寿命が長く、肉厚0.5mm以下の極薄形状も安定して成形できます。精密さが求められる小物部品でアルミより亜鉛が選ばれる理由と、逆にアルミを選ぶべき場面を整理します。

亜鉛ダイカスト合金の種類——ZDC1とZDC2

JIS規格の亜鉛ダイカスト合金はZDC1(Zn-Al4-Cu1:ザマック5相当)とZDC2(Zn-Al4:ザマック3相当)の2種類が主流です。世界的にはZAMAK(ザマック)という名称が広く使われています。

グレード組成引張強さ伸び特徴
ZDC2(ZAMAK 3)Zn-4%Al-0.035%Mg約280〜290MPa約10%最も汎用的。寸法安定性が高く、鍍金・塗装との密着性が良好。
ZDC1(ZAMAK 5)Zn-4%Al-1%Cu-0.05%Mg約320〜330MPa約7%CuでZDC2より強度・硬さを向上。耐クリープ性も高い。
ZA-8Zn-8%Al-1%Cu約370〜400MPa約6〜8%高強度グレード。Al量増加で比重低下・強度向上。
ZA-27Zn-27%Al-2%Cu約400〜425MPa約3〜5%最高強度亜鉛合金。アルミダイカストに迫る強度と軽量性。

亜鉛ダイカスト vs アルミダイカスト(ADC12)——選定の分岐点

項目亜鉛ダイカスト(ZDC2)アルミダイカスト(ADC12)
融点約380〜390°C約580〜620°C
比重約6.6約2.7
引張強さ約280〜290MPa約310〜330MPa
最小肉厚0.3〜0.5mm(薄肉に強い)0.8〜1.2mm(薄肉に制約あり)
金型寿命100〜200万ショット10〜50万ショット
寸法精度高い(低融点で熱変形少ない)中程度
表面仕上げ良好(めっき・塗装密着性が高い)中程度(陽極酸化が可能)
耐食性中(塩水環境では不利)高い
使用温度〜100°C(クリープに注意)〜175°C(耐熱性が高い)
コスト(型費)低い(長寿命金型)中程度
亜鉛ダイカストの最大の強みは「融点の低さ」から来る金型長寿命と高精度。金型コストを量産数で割ったときの1個あたりコストはアルミより大幅に低くなるケースが多い。

亜鉛ダイカストが「向く部品」と「向かない部品」

向く:小型・精密・複雑形状の大量生産

ロック機構・カメラ部品・コネクタハウジング・時計部品。肉厚0.5mm以下、深い穴、細かいリブが安定して成形できる。金型1セットで100〜200万個の量産に対応し、1個あたりの金型費が極めて低くなる。

向く:めっき・装飾仕上げが必要な部品

亜鉛はめっきの密着性が非常に良く、クロムめっき・ニッケルめっきが均一に乗る。水栓金具・ドアノブ・バックル・バッジなどの装飾部品で標準的に使われる。アルミは陽極酸化はできるがめっき密着性で亜鉛に劣る。

向かない:軽量化が最優先の部品

比重6.6は鉄(7.8)に近く、アルミ(2.7)の約2.4倍重い。自動車・航空機で重量制約が厳しい部品には不向き。同形状なら亜鉛部品はアルミの約2.4倍の重量になる。

向かない:高温・屋外長期使用の部品

100°C以上ではクリープ変形が起きやすく、高温環境(エンジン周辺・屋外暴露)での長期使用は避ける。塩水・海洋環境での耐食性もアルミに劣る。

亜鉛ダイカスト部品のトラブルと対策

経年でインターグラニュラー腐食(粒界腐食)が発生
状況10年以上前に製造した亜鉛ダイカスト部品がぼろぼろと崩れ始めた。外観上は塗装がかかっており正常に見えたが、内部が腐食していた。
原因古いZDC材に不純物(Pb・Cd・Sn)が多く含まれており、粒界に偏析した不純物が長期間の湿気環境で腐食を促進した。現在のJIS規格品では不純物上限が厳しく管理されており、現行品では発生リスクが大幅に低い。
対策材料をJIS ZDC1またはZDC2の現行規格品(不純物:Pb≤0.005%、Cd≤0.004%、Sn≤0.003%)で調達する。長期保管部品には防湿包装を徹底する。
めっき後にブリスター(ふくれ)が発生
状況亜鉛ダイカスト部品にニッケル-クロムめっきを施したところ、一定期間後にめっき面にふくれ(ブリスター)が複数箇所発生した。
原因ダイカスト時の表層に微小なガス巣(ポロシティ)が存在し、めっき前処理の酸洗液が侵入。その後の乾燥・使用環境でガスが膨張してめっき層を持ち上げた。
対策成形条件(射出速度・ガス抜き)を見直してポロシティを低減。めっき前の含浸処理(樹脂含浸でポロシティを封止)を導入し、ブリスター発生率をほぼゼロにした。
高温環境でロック部品が変形してかみ合わせ不良
状況自動車のトランクロック機構に亜鉛ダイカスト部品を使っていたが、夏季に車内温度が80〜100°C以上になる環境で、ロックの解除力が変化してクレームになった。
原因80〜100°Cでは亜鉛ダイカストのクリープ変形が顕著になり、嵌め合い寸法が経時変化した。温度条件の評価が不十分だった。
対策ADC12(アルミダイカスト)に変更。耐熱性が175°C程度まで向上し、高温での寸法安定性が確保された。型費は増加したが、品質クレームコストと比べて許容できた。

亜鉛とアルミ、どちらを選ぶか——判断フロー

判断基準亜鉛ダイカストアルミダイカスト(ADC12)
肉厚が0.8mm以下○ 得意△ 薄肉は難しい
めっき仕上げが必要○ 密着性が高い△ めっき密着に工夫が必要
100万個以上の量産○ 金型寿命が長い△ 金型交換コストが増える
使用温度が100°C超× 変形リスク○ 175°C程度まで対応
軽量化が必要× 比重6.6○ 比重2.7
耐食性が必要(屋外・海岸)△ 表面処理が必要○ 耐食性が高い
陽極酸化(アルマイト)仕上げ× 不可○ 対応可能
亜鉛ダイカスト採用チェックリスト
  • 使用温度が常時100°C以下であることを確認した
  • 塩水・海洋環境でないか、または表面処理(めっき・塗装)で保護できるか確認した
  • 不純物規格(Pb・Cd・Sn)をJIS現行規格品で調達することを確認した
  • めっき仕上げ品でポロシティ対策(含浸処理の要否)を検討した
  • 量産数・金型費・1個あたりコストをアルミと比較した

まとめ

  • 亜鉛ダイカストは低融点(約380°C)から来る金型長寿命・高精度・薄肉成形性が最大の強み。
  • 肉厚0.5mm以下、めっき仕上げ、100万個以上の量産部品でアルミに対して優位性が出る。
  • 比重が6.6と重く、100°C超での使用はクリープ変形リスクがある。軽量化・耐熱用途はアルミを選ぶ。
  • 不純物(Pb・Cd・Sn)の管理が粒界腐食防止の鍵。JIS現行規格品での調達を徹底する。
  • めっき品のブリスター対策には成形条件の最適化と樹脂含浸処理が有効。

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