ねじ・ボルトの材質記号の読み方|A2-70・8.8・12.9の意味を図面・発注で使えるレベルで解説

金属の知識

ボルトの頭に刻印された「8.8」や「A2-70」——これが何を意味するかを正確に説明できますか?図面で「強度区分10.9」と指示されているのに手元にあるボルトが「8.8」だった場合、そのまま使っていいかどうかを即断できないと現場が止まります。記号の体系を一度整理しておくと、発注ミスと強度不足の両方を防げます。

鉄ボルト(鋼製)の強度区分

JIS B 1051に基づく強度区分は「X.Y」の形式で表記されます。

強度区分 最小引張強さ (MPa) 最小耐力 (MPa) 代表材料 主な用途
4.6 400 240 低炭素鋼 軽荷重・一般用途
4.8 420 340 低炭素鋼 一般用途(小径ねじに多い)
6.8 600 480 中炭素鋼 一般機械
8.8 800 640 中炭素鋼または合金鋼(調質) 機械・構造の標準強度ボルト
10.9 1000 900 合金鋼(SCM435等)調質 高強度締結・エンジン周り
12.9 1220 1100 合金鋼(SCM440等)調質 超高強度・航空・精密機械
強度区分の計算式 「X.Y」の場合:
最小引張強さ = X × 100 (MPa)
最小耐力 = X × Y × 10 (MPa)

例)10.9 → 引張強さ:10×100=1000MPa、耐力:10×9×10=900MPa

表面処理と強度区分の関係

強度区分は母材の機械的強度を示します。三価クロメート・黒染め・溶融亜鉛めっきなどの表面処理は耐食性を変えますが、強度区分は変わりません。ただし、溶融亜鉛めっき(HDG)は高強度ボルト(10.9以上)への適用で水素脆化リスクがあるため、一般的にJISでは10.9以上への溶融亜鉛めっきは制限されています。

ステンレスボルトの強度区分(JIS B 1054-1)

ステンレスボルトの表記は「材質記号-強度記号」の形式です。

材質記号 鋼種 代表材料
A1 オーステナイト系(硫黄添加快削) SUS303相当
A2 オーステナイト系(標準) SUS304相当
A4 オーステナイト系(Mo添加) SUS316相当
C1 マルテンサイト系 SUS410相当
F1 フェライト系 SUS430相当
強度記号 最小引張強さ (MPa) 最小耐力 (MPa) 代表的な組み合わせ
50 500 210 A2-50(SUS304・焼きなまし材)
70 700 450 A2-70、A4-70(最も一般的)
80 800 600 A2-80、A4-80(冷間加工品)
A2-70 は「SUS304相当の材料で最小引張強さ700MPa」。鉄ボルトの8.8(800MPa)より引張強さは低い。強度の比較は必ず数値で行うこと。

ボルト頭の刻印パターン

刻印例 意味 注意点
8.8 鋼製・引張強さ800MPa・耐力640MPa メーカー刻印も同時にある場合が多い
10.9 鋼製・引張強さ1000MPa・耐力900MPa 調質(焼入れ焼戻し)品。切削・溶接で強度低下する
12.9 鋼製・引張強さ1220MPa・耐力1100MPa 水素脆化感受性が高い。めっき種類に注意
A2-70 SUS304相当・700MPa 刻印は頭部側面または頂面に入る
A4-70 SUS316相当・700MPa A2-70との外観の区別は刻印のみ
刻印なし 4.6相当以下(規格外または低強度品) 強度管理が必要な部位には使用禁止

図面・発注時のよくある混乱

「SUS304ボルト」と「A2-70ボルト」は同じか

厳密には異なります。「SUS304ボルト」は材質の指示、「A2-70ボルト」はJIS規格に基づく強度区分の指示です。SUS304材でも冷間加工の度合いによって引張強さはA2-50〜A2-80まで幅があります。強度を保証したい場合は「A2-70」と強度区分まで指示してください。

「ステンレス」指示だけでは材質が特定できない

図面に「ステンレス」とだけ書かれた場合、調達側はA2(SUS304相当)を使うことが多いですが、塩害環境や薬品接触部ではA4(SUS316相当)が必要なケースがあります。環境条件が厳しい部位は必ず材質区分まで明示してください。

事例:強度区分の取り違えによる締結不足
状況図面指示は「M12 強度区分10.9」だったが、調達担当が「M12ボルト」として発注。届いたのは4.6相当の市販品(刻印なし)だった。組立後に振動荷重で2本破断。
原因発注書に強度区分の記載がなく、サプライヤーが最安値品を出荷。受入検査でも刻印確認が抜けていた。
対策発注書に「JIS B 1051 強度区分10.9」を明記。受入時にボルト頭の刻印写真を撮影してロット記録に残すルールに変更。

ナット・座金の強度区分との対応

ボルトとナットの強度区分は組み合わせで管理します。ボルトだけ高強度にしてもナットが低強度では意味がありません。

ボルト強度区分 推奨ナット強度区分(JIS B 1052-2)
4.6 / 4.84以上
6.86以上
8.88以上
10.910以上
12.912以上
発注・受入チェックリスト
  • 図面または仕様書に強度区分(例:JIS B 1051 強度区分10.9)を明記した
  • ステンレス指示の場合、材質区分(A2/A4)まで指定した
  • 受入時にボルト頭の刻印を目視確認した
  • 高強度ボルト(10.9以上)に溶融亜鉛めっきを指定していないか確認した
  • ボルトとナットの強度区分の組み合わせが適切か確認した
  • 刻印なしボルトを強度管理が必要な部位に使用していない

まとめ

  • 鉄ボルトの強度区分「X.Y」:引張強さ=X×100MPa、耐力=X×Y×10MPa
  • ステンレスボルトは「材質記号(A2/A4)-強度記号(50/70/80)」で表記する
  • A2-70(SUS304・700MPa)は鉄ボルト8.8(800MPa)より引張強さが低い
  • 図面指示は材質名だけでなく強度区分まで明記することで取り違えを防げる
  • 刻印なしボルトは強度保証なし——強度管理部位への使用は避ける

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