タングステンとは? 融点最高・工具鋼・超硬で使われる理由と現場の選定基準
全金属の中で最も高い融点(3422°C)を持つタングステン(W)。「超硬工具の主成分」「工具鋼の合金元素」「TIG電極棒」——さまざまな場面で活躍するタングステンの特性と用途に加え、実際の現場で起きるトラブルと選定の境界条件を解説します。
タングステンの基本物性
タングステンの融点3422°Cは全金属中で突出しています。第2位のレニウム(3186°C)を大きく引き離しており、実用金属の中では唯一無二の存在です。
| 物性 | タングステン(W) | 鉄(Fe)参考 | モリブデン(Mo)参考 |
|---|---|---|---|
| 融点 (°C) | 3422(全金属最高) | 1538 | 2623 |
| 密度 (g/cm³) | 19.3(鉛の1.7倍) | 7.87 | 10.2 |
| ヤング率 (GPa) | 411(鉄の約2倍) | 211 | 329 |
| 熱伝導率 (W/m·K) | 173 | 80 | 138 |
| 熱膨張係数 (×10⁻⁶/K) | 4.5(非常に低い) | 11.8 | 4.8 |
| 電気伝導率 (%IACS) | 30〜31 | 17 | 30 |
① 全金属中 最高融点(3422°C)
② 全金属中 最高引張強さ(純W)
③ 全金属中 最高ヤング率(411 GPa)
④ 全金属中 最低線膨張係数(4.5×10⁻⁶/K) の1つ(Re・Osと競合)
タングステンの形態と用途
| 形態 | 具体例 | タングステンの役割 |
|---|---|---|
| 純タングステン | 白熱電球フィラメント・TIG電極棒・X線ターゲット | 高融点・高温強度・放射線遮蔽 |
| 超硬合金(WC-Co) | ドリル・エンドミル・旋削チップ・金型 | WCの高硬度(2400〜2600HV)・耐摩耗性 |
| 合金元素(鋼に添加) | 高速度鋼(SKH51)・熱間工具鋼 | 炭化物形成による高温硬さ・耐摩耗性 |
| タングステン合金 | 放射線遮蔽ブロック・釣りのシンカー | 高密度(19.3 g/cm³) |
超硬合金(WC-Co)のしくみ
超硬合金はWC(炭化タングステン)粉末をCo(コバルト)をバインダーとして焼結した材料です。WCは硬さ2400〜2600HVと非常に高く、Coが靱性を補います。Co量を変えることで硬さと靱性のバランスを自在に調整できます。
| Co量(%) | 硬さ(HV) | 靱性 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 3〜6% | 1800〜2000HV | 低 | 精密切削・ミラー面 |
| 6〜10% | 1500〜1800HV | 中 | 汎用切削工具・ドリル |
| 10〜15% | 1200〜1500HV | 高 | 金型・耐摩耗部品 |
| 15〜25% | 900〜1200HV | 最高 | 衝撃用途・鉱山工具 |
主要材料の硬さ比較
工具鋼(SKH51)中のタングステンの役割
高速度鋼SKH51はW 5.5〜7.0%・Mo 4.5〜5.5%・Cr 3.5〜4.5%・V 1.5〜2.5%を含みます。WはM₆C型炭化物を形成し、600°C以上の高温でも硬さを維持する赤熱硬度(Hot Hardness)を付与します。これがSKH51の「切削熱で工具が赤くなっても切れ続ける」特性の根本です。
JIS・国際規格対応
| 材料 | JIS | ASTM/ISO | 備考 |
|---|---|---|---|
| 超硬合金 | JIS B 4053(切削工具用) | ISO 513 | K・M・P系統分類 |
| 高速度鋼(W系) | JIS G 4403(SKH2等) | ASTM A600 | T1(W18Cr4V)等 |
タングステン・超硬を使うときに現場で困る3つの場面
超硬工具やタングステン電極は、使用条件を誤ると想定外のトラブルが起きます。規格表には書かれていない「選定の境界条件」を以下に整理します。
用途別まとめ
ドリル・エンドミル・旋削チップに使われます。1500〜2000HVの硬さで鋼・鋳鉄・アルミを高速切削します。
プレス用パンチ・ダイ・引抜きダイスに使われます。高耐摩耗性により長寿命を実現します。
TIG溶接のタングステン電極として使われます。ランタン入りはAC・DC両用で電極形状が安定し、アーク安定性に優れます。
X線遮蔽ブロック・医療用コリメータに使われます。鉛の代替として毒性がなく、高密度(19.3 g/cm³)で効果的です。
白熱電球フィラメントや高温電気炉の発熱体として使われます。3000°C超でも融けない唯一の実用金属です。
まとめ:タングステンで押さえておきたいこと
- タングステン(W)は全金属最高の融点(3422°C)を持ち、密度19.3 g/cm³と非常に重い希少金属です。
- 超硬合金(WC-Co)の主成分として切削工具・金型に広く使われ、1500〜2000HVの高硬度を実現します。
- 高速度鋼(SKH51等)の合金元素として赤熱硬度(高温での硬さ維持)を付与します。
- 断続切削では靱性重視グレード(Co 10〜15%)を選ぶ。純W電極のAC溶接ではランタン入りに替える。廃超硬はWCスクラップとして回収価値がある——この3点が現場で詰まりやすい選定ポイントです。
- 純タングステンはTIG電極・白熱電球フィラメント・X線遮蔽・高温炉など「極限温度」が必要な場面で活躍します。


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