異材溶接(ステンレス×炭素鋼)の材料選びと注意点|溶加棒・予熱・ガルバニック腐食まで解説

溶接

「SUS304の架台フレームに、S45Cのブラケットを溶接してほしい」——異種材料の溶接要求は補修・改造・コスト削減の現場でしばしば発生する。しかし異材溶接は、同種材料の溶接と比べて溶接金属の成分コントロール・熱応力・電食(ガルバニック腐食)という3つの問題が同時に絡み合う。適切な溶加棒の選定と熱管理なしに溶接すると、外見上は問題ない溶接部が使用中に割れるという事態が起きる。

異材溶接が必要になる場面

コスト削減

全体をステンレスにすると高コストになる部位に炭素鋼を使い、腐食環境にさらされる部分だけSUS304とする構造。フレームは炭素鋼・内面だけSUSのタンクなど。

機能分担

高強度が必要な部分(S45C・SCM435)と耐食性が必要な部分(SUS304・SUS316)を組み合わせる。軸とカップリングの接合など。

補修・改造

既存の炭素鋼設備にSUSパーツを追加溶接する補修工事。母材が特定しにくい場合はスパーク試験・成分分析で確認する。

ステンレス×炭素鋼で起きる3つの問題

問題1:線膨張係数の差による熱応力

材料線膨張係数(×10⁻⁶/℃)
SUS304(オーステナイト系)17.3
S45C・SS400(炭素鋼)11〜12
約5〜6×10⁻⁶/℃

溶接後の冷却過程でSUS304と炭素鋼の収縮量が異なるため、溶接継手には常に熱応力が残留する。同種材料の溶接より残留応力が大きくなりやすく、繰り返し熱サイクルがかかる部位(炉体・配管フランジ等)では疲労亀裂の起点になる。

問題2:溶接金属の成分希釈とマルテンサイト生成

SUS304と炭素鋼の境界では、溶融池に両母材が溶け込む(希釈)。SUS304側のCr・Niが炭素鋼で希釈されると、溶接金属の成分がマルテンサイト変態域に入る可能性がある。

マルテンサイト組織は硬く(350〜550HV)、延性・靭性が著しく低下する。冷却中に水素を取り込むと遅れ割れ(水素誘起割れ)が起きる危険がある。この割れは溶接後24〜72時間で発生することもあり、溶接直後の検査では見落とされやすい。

問題3:ガルバニック腐食(電気化学腐食)

SUS304と炭素鋼が電解質(水・塩水・湿潤環境)中で接触すると、電位差によってアノード(炭素鋼)から腐食が進む電食が起きる。SUS304の電位は約+0.2V(vs SCE)、炭素鋼は約−0.5〜−0.6V(vs SCE)であり、その差0.7V以上は腐食促進電位として高い。接触面積比(炭素鋼が小面積の場合)によっては局所的に急速腐食が進む。

溶加棒の選び方:なぜER309Lが標準か

異材溶接に対応した標準的な選択はER309L(JIS近似:Y309L)である。成分はCr23〜25%・Ni12〜14%・C≦0.03%で、炭素鋼で希釈されてもCr・Niが十分残るように設計されている。

溶加棒Cr(%)Ni(%)C(%)希釈後の成分
ER308L19.5〜229〜11≦0.03Crが下がり過ぎる可能性あり
ER309L23〜2512〜14≦0.03希釈後もCr12%以上を確保
ER31025〜2820〜22.5≦0.15高耐熱。異材溶接より耐熱用
ER309Lを選ぶ理由Cr・Niを過剰気味にしておくことで、炭素鋼側からの希釈が起きても溶接金属中のCr量がマルテンサイト生成域(Cr12%以下)を下回らないようにする緩衝設計。ER308LをSUS304×炭素鋼の異材溶接に使うと、希釈でCrが不足してマルテンサイトが生成するリスクがある。

予熱・後熱の要否:炭素鋼側のC量で判断する

炭素鋼の炭素量(C%)予熱の要否目標予熱温度
〜0.25%未満(SS400・S20C等)原則不要
0.25〜0.45%(S35C・S45C等)必要100〜150℃
0.45%超(S55C・SK材等)必要(高め)150〜250℃

予熱の目的は2つ——冷却速度を下げてマルテンサイト生成を抑制することと、水素の拡散を促進して遅れ割れを防ぐこと。予熱後は低水素系溶加棒(ER309L等)と組み合わせて使う。

注意S45C(C約0.45%)の異材溶接で予熱を省くと、溶接後24〜48時間に遅れ割れが発生する可能性がある。溶接直後の検査で合格しても、翌日に割れが起きるケースがある。C量が0.25%を超える炭素鋼を異材溶接する際は予熱を必須工程として管理する。

ガルバニック腐食への対策

溶接部の電食リスクを低減するには以下の手順で対応する。

ガルバニック腐食対策チェックリスト
  • 電解質(水・塩水・湿潤空気)に常時さらされる環境かを確認する
  • 炭素鋼側をより広い表面積にする(アノードになる炭素鋼面積を大きくすることで電流密度を下げる)
  • 塗装・樹脂コーティングで炭素鋼側の露出を遮断する
  • 屋外・海洋環境では防食テープや犠牲陽極(亜鉛板)を併用する
  • 絶縁フランジを用いて電気的に分離できる設計を検討する

トラブル事例

S45C製シャフトにSUS304製ブラケットを溶接→使用開始3週間で溶接部が割れた
状況S45C(C約0.45%)製シャフトにSUS304製ブラケットを溶接で取り付けた。溶加棒はER308Lを使用(ER309Lの在庫なし)。溶接後の外観検査・寸法検査は合格。振動のかかる環境で使用開始後3週間で溶接部が割れた。
原因(1)S45C(C0.45%)の予熱(100℃以上)を実施しなかったため、急冷によりマルテンサイト組織が生成。(2)ER308LはCr・Ni量がER309Lより低く、S45Cで希釈されてCr量が不足し、溶接金属の一部がマルテンサイト化した。(3)マルテンサイト組織は脆く、振動荷重で亀裂が進展して破断した。
対策S45Cを含む異材溶接ではER309Lを使用し、溶接前に炭素鋼側を100〜150℃に予熱する。溶接後の冷却も急冷を避け、徐冷または後熱(100℃以上で30分保持)を実施する。溶接後の硬さ確認(350HV以下を目標)を受入基準に加える。

まとめ

  • ステンレス×炭素鋼の異材溶接では「熱応力・マルテンサイト割れ・ガルバニック腐食」の3つが同時に絡む
  • 溶加棒の標準選択はER309L——Cr・Ni量を多めにして希釈後の成分をマルテンサイト生成域から遠ざける
  • ER308LをSUS304×炭素鋼の異材溶接に使うと、希釈でCr不足・マルテンサイト生成のリスクがある
  • 炭素鋼側のC量が0.25%を超える場合(S35C・S45C等)は予熱100〜150℃が必須
  • 遅れ割れは溶接後24〜72時間に発生することがあり、直後の検査合格だけでは判断できない
  • 湿潤環境ではガルバニック腐食対策(塗装・面積バランス・絶縁)を設計段階で組み込む

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