ボルトの強度区分「10.9」「12.9」の意味と、ドブめっきしてはいけない理由

金属の知識

ボルトの頭に刻印された「8.8」「10.9」という数字は、引張強さと降伏点をそのまま表している。X.Yという形式のうち、Xが引張強さ、X×Yが降伏点の目安だ。数字の意味を知らずに強度区分だけ図面で指定すると、表面処理との組み合わせで痛い目に遭う。特に10.9以上を溶融亜鉛めっきに回すと、数週間から数カ月後に頭部からポロッと折れるボルトが出てくる。ここでは数字の読み方から、実際に起きる破損のパターンまで順に見ていく。

「8.8」「10.9」の数字が意味するもの

ISO 898-1(JIS B 1051)の強度区分は「X.Y」の2数字で表される。1つ目の数字(X)×100が引張強さの最小値〔MPa〕、X×Y×10が降伏点(または0.2%耐力)の最小値〔MPa〕になる。

数字の意味 X × 100 = 引張強さの最小値〔MPa〕
X × Y × 10 = 降伏点の最小値〔MPa〕
Y/10 が降伏比(降伏点 ÷ 引張強さ)。

10.9なら引張強さ1,000MPa以上、降伏点900MPa以上。降伏比0.9ということは、破断までの余力が小さい高強度・高剛性の材料ということでもある。

強度区分の一覧と使われる材料

強度区分引張強さ〔MPa〕降伏点〔MPa〕主な材質製造方法
4.6400以上240以上低炭素鋼(SS400・S20C)冷間圧造(焼入れなし)
4.8400以上320以上低炭素鋼冷間圧造(加工硬化)
5.6500以上300以上低〜中炭素鋼冷間圧造または焼鈍
5.8500以上400以上低炭素鋼(加工硬化)冷間圧造
6.8600以上480以上低炭素鋼・中炭素鋼冷間圧造または焼入れ焼戻し
8.8800以上640以上中炭素鋼(S35C・S45C)または合金鋼(M16以上)焼入れ焼戻し
9.8900以上720以上中炭素鋼(小径用)焼入れ焼戻し
10.91,000以上900以上合金鋼(SCM435・SCr435)焼入れ焼戻し
12.91,200以上1,080以上合金鋼(SCM440・SNCM439)焼入れ焼戻し
現場で実際に発注量が多いのは4.8(一般用)・8.8(中強度)・10.9(高強度)の3つ。12.9は精密機械・金型のクランプボルトなど、用途を絞って使うものだと考えたほうがいい。14.9は規格上は存在するが、問い合わせても在庫している商社にほぼ当たらない。

ステンレスボルトの強度区分(A2-70・A4-80など)

ステンレスボルトはISO 3506(JIS B 1054)という別体系で、「A2-70」「A4-80」のように英字+数字+数字(ハイフン)+数字で表記される。

記号意味具体例
A1〜A5オーステナイト系ステンレス(A1〜A5の番号は組成範囲)A2 ≒ SUS304系、A4 ≒ SUS316系
C1〜C4マルテンサイト系C1 ≒ SUS410系
F1フェライト系F1 ≒ SUS430系
-50/-70/-80引張強さ区分(×10 = MPa)-70 = 700 MPa、-80 = 800 MPa
強度区分引張強さ〔MPa〕降伏点〔MPa〕備考
A2-50(SUS304・固溶化)500以上210以上軟質。汎用ボルト。
A2-70(SUS304・冷間加工)700以上450以上市販品の主流。耐食用途の標準。
A2-80(SUS304・強冷間加工)800以上600以上強度重視のSUS304ボルト。
A4-70(SUS316・冷間加工)700以上450以上海岸・薬品環境向け。Mo含有で耐孔食性高い。
A4-80(SUS316・強冷間加工)800以上600以上耐食+強度両立。化学プラント標準。
注意「ステンレスで10.9相当が欲しい」という要望を受けることがあるが、A2-80でも引張強さ800MPa止まり。鋼の8.0級と同等で、鋼の10.9・12.9にステンレスで届くことはない。強度が主目的ならステンレスは選択肢から外れる。

高強度ボルト(10.9・12.9)の落とし穴

強度区分10.9以上は「数値が高い=安心」ではない。むしろ扱いを間違えると鋼より先に壊れる。

①水素脆性(遅れ破壊)

引張強さ1,000MPaを超える高強度鋼は、わずかな水素の侵入で延性を失い、応力下で時間をかけてき裂が進む「遅れ破壊」を起こす。電気亜鉛めっき(ユニクロめっき)の工程で水素が鋼中に侵入するため、めっき後の脱水素処理(ベーキング)が欠かせない。

表面処理水素脆性リスク10.9・12.9での適否
電気亜鉛めっき(ユニクロ・三価クロメート)あり(ベーキング必須)使用可だが脱水素処理を確実に
溶融亜鉛めっき(ドブめっき)原則不可10.9以上は使用しない(高温脆化リスク)
ジオメット・ダクロ・ラフレなし(水素を侵入させない)10.9・12.9に推奨
黒染め(四三酸化鉄)低い使用可
無処理(油塗布)なし屋内・短期使用なら可

②応力腐食割れ(SCC)の感受性

強度区分が上がるほど応力腐食割れの感受性も上がる。特に12.9は塩化物環境(海岸・温泉・冬期凍結防止剤の散布路)でSCCを起こしやすい。屋外暴露・腐食環境での12.9使用は避けるか、ジオメット系の高耐食コーティングを併用する。

③切欠き感受性が高い

高強度ボルトはねじ底のR形状が小さいと応力集中で疲労破壊しやすい。ISO標準の転造ねじでは適切なR形状が確保されているが、ねじ底に工具傷をつけたり切削ねじで代用したりすると、疲労寿命が目に見えて落ちる。

締付トルクと軸力(プリロード)の関係

締付トルク T〔N·m〕 = K × F〔N〕× d〔m〕  K:トルク係数(潤滑なし約0.2、潤滑あり約0.15)、F:軸力、d:ねじ呼び径

ボルト締結の本質は軸力(プリロード)を発生させることで、トルクはその手段にすぎない。同じトルク値で締めても、潤滑状態・座面の傷・ねじの汚れ次第で発生軸力は±30%以上ぶれる。重要な締結部ではトルク管理だけに頼らず、角度法・伸び量法・超音波法などの軸力管理を併用したほうがいい。

呼び径強度区分推奨軸力(降伏点の70%)〔kN〕締付トルク目安〔N·m〕
M88.8約16約23
M810.9約23約32
M108.8約26約46
M1010.9約36約64
M128.8約37約79
M1210.9約53約110
M168.8約70約195
M1610.9約99約280
M208.8約110約385
M2010.9約155約540

強度区分の選定で実際に起きたトラブル

屋外歩廊のM12・10.9ボルト、供用2カ月で頭部脱落
状況屋外鋼構造物の歩廊フレーム固定に強度区分10.9のM12ボルトを使い、防食のため溶融亜鉛めっき(ドブめっき)を指定した。竣工から2カ月ほどで、締結箇所48本のうち6本が頭部から折れているのが定期点検で見つかった。
原因溶融亜鉛めっきの前処理(酸洗)で発生した水素が鋼中に侵入し、めっき浴の高温(約450℃)で水素が拡散・濃化した。10.9は水素脆性感受性が高く、締付応力がかかった状態で遅れ破壊が進行した。破断面は典型的な粒界破壊で、延性のない脆い割れ方をしていた。
対策残りの締結箇所は強度区分8.8に変更(溶融亜鉛めっきは8.8まで)。図面で「10.9指定」を出す際は、表面処理仕様との整合を必ず確認する項目を社内チェックリストに追加した。以後、同種の折損は出ていない。
A2-70ボルト×アルミフレームで座面が白く粉を吹いた
状況屋外設備のアルミフレームをA2-70(SUS304相当)ボルトで固定した。設置から1年半ほどで、アルミ側のボルト座面周辺に白色の腐食生成物が発生し、座面の肉厚が目に見えて薄くなっていた。
原因SUS304とアルミは電位差が大きく、雨水や結露が電解質になって異種金属腐食(ガルバニック腐食)が起きた。卑な金属であるアルミ側が優先的に溶けていった。
対策樹脂ワッシャーと絶縁ブッシュを挟んでSUS-Al間の電気的接触を断った。以降の同型設備では設計時点で異種金属接触チェックを組み込んでいる。
海岸近くの設備で12.9ボルトが半年で頭部から割れ始めた
状況海岸から300mほどの設備で「強度区分12.9」とだけ図面指定して発注したボルトが、半年後に頭部からのひび割れで複数本交換になった。組み立て時点では異常は見られなかった。
原因12.9(合金鋼焼入れ焼戻し)は塩化物環境での応力腐食割れ感受性が極めて高い。塩害環境で締付応力を受け続けた状態でSCCが進行した。
対策強度区分を10.9に下げ、ジオメット処理とステンレスワッシャーの併用に変更した。以降、海岸から500m以内の設備では12.9を原則使わない社内ルールを作った。

強度区分の選び方——判断フロー

汎用一般用途 → 4.8 または 8.8

家具・装飾・低応力部品・組立治具なら4.8で十分。機械の構造ボルト・フランジ締結は8.8が標準。市場流通量も多くコストパフォーマンスが良い。

高強度・小型化が必要 → 10.9

自動車・産業機械の主要構造、エンジンボルト、コンプレッサーケース。ボルト本数・サイズを減らしてコンパクトに収めたい場面で選ぶ。表面処理は脱水素処理またはジオメット系。

特殊高強度 → 12.9

金型クランプボルト・精密機械の高荷重接合。屋内・乾燥環境での使用に限定する。海岸から500m以内など塩害環境での12.9は避けたほうがいい。

耐食性優先 → A2-70 / A4-70・80

屋外・湿潤・塩害・薬品環境ではステンレスを選ぶ。SUS316相当のA4系は塩化物環境で必須。強度は鋼の8.8相当以下なので設計時に余裕を見ておく。

ボルト強度区分 選定チェックリスト
  • 必要な軸力から逆算して強度区分を選んだ(過剰スペックを避ける)
  • 使用環境(屋内・屋外・塩害・薬品)を確認した
  • 10.9・12.9に対応した表面処理(ジオメット等)を指定した(ドブめっきは原則不可)
  • 異種金属接触(SUS×Al・鉄×Cu)の可能性を確認し絶縁対策を検討した
  • 12.9を屋外塩害環境で使用していないか確認した
  • 重要部位はトルク管理だけでなく軸力管理(角度法等)を検討した

まとめ

  • 強度区分「X.Y」は X×100 = 引張強さ〔MPa〕、X×Y×10 = 降伏点〔MPa〕を意味する。8.8 = 引張強さ800MPa・降伏点640MPa。
  • 市場流通の主流は4.8・8.8・10.9。12.9は特殊用途・屋内乾燥環境向け。
  • 10.9以上は水素脆性感受性が高く、ドブめっき不可。ジオメット等の水素フリー処理を選ぶ。
  • ステンレスはA2-80でも800MPa相当(鋼の8.0級程度)。鋼の10.9・12.9と同等強度はステンレスでは出ない。
  • 締付は本質的には軸力管理。トルク値は潤滑状態などで±30%変動するため、重要部位は角度法・伸び量法を併用する。

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