「この鋼材は溶接できるか」を判断する最初の手がかりが炭素当量(Ceq)だ。Ceqは鋼材の成分から計算される指数で、値が高いほど溶接が難しく、割れを防ぐための予熱が必要になる。SS400と思って溶接した鋼材が実はSM570だった——Ceqを事前に確認していれば防げたトラブルが、現場では繰り返し起きている。Ceqの読み方・計算・予熱温度への展開を一通り整理する。
炭素当量(Ceq)の計算式
JIS・IIW式(一般鋼材向け・板厚25mm以上に多用)
Ceq = C + Mn/6 + (Cr + Mo + V)/5 + (Ni + Cu)/15
C:炭素、Mn:マンガン、Cr:クロム、Mo:モリブデン、V:バナジウム、Ni:ニッケル、Cu:銅(各成分の質量%)
Pcm式(薄板・低炭素鋼向け)
Pcm = C + Si/30 + (Mn + Cu + Cr)/20 + Ni/60 + Mo/15 + V/10 + 5B
B:ボロン。低炭素鋼(C≦0.18%)・薄板(〜25mm)での割れ感受性評価に適している。IIW式より炭素以外の成分の寄与が小さいため、低炭素鋼では実態に近い値が得られる。
2つの式は用途が異なる。汎用の構造用鋼・圧力容器鋼(SM490・SQ570等)にはIIW式、自動車用高張力鋼板・薄物(SPFC系)にはPcm式を使うのが一般的だ。どちらを使うかは発注仕様・設計規格で指定される場合が多い。
Ceq値と溶接性の目安
| Ceq値(IIW式) | 溶接性の評価 | 予熱の要否 | 溶接材料 |
|---|---|---|---|
| 0.40未満 | 良好(ほぼ問題なし) | 通常不要(板厚次第) | 一般溶接棒・ワイヤでよい |
| 0.40〜0.45 | 概ね良好(要注意) | 板厚25mm超や拘束が強い場合は予熱50〜75℃ | 低水素系溶接棒(E7016・E7018等)推奨 |
| 0.45〜0.50 | 要注意 | 予熱75〜150℃ | 低水素系溶接棒必須・乾燥管理 |
| 0.50〜0.60 | 難しい | 予熱150〜250℃・後熱あり | 低水素系・溶材の水素量管理が重要 |
| 0.60超 | 非常に難しい | 予熱250℃以上・後熱必須 | 超低水素系溶接材・専門施工者が必要 |
Ceq=0.45が「予熱の要否を分ける境界」と覚えておくと実務で役立つ。ただしこれは板厚・拘束度・溶接入熱量・雰囲気湿度によっても変わるため、目安として使い詳細はAWS D1.1やJIS B 8285等の規格フローで確認する。
代表鋼種のCeq値
| 鋼種 | 規格 | Ceq(IIW式)目安 | 溶接性評価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| SS400 | JIS G 3101 | 0.30〜0.38 | 良好 | 成分保証なし・ロットで変動あり |
| SM400A | JIS G 3106 | 0.30〜0.36 | 良好 | 溶接構造用・成分規定あり |
| SM490B | JIS G 3106 | 0.36〜0.44 | 概ね良好 | 高板厚では予熱50℃程度推奨 |
| SM570 | JIS G 3106 | 0.44〜0.54 | 要注意 | 予熱75〜150℃・低水素系必須 |
| S45C | JIS G 4051 | 0.60〜0.70 | 難しい | 溶接は原則避ける。補修溶接時は250℃以上の予熱が必要 |
| SCM440 | JIS G 4105 | 0.75〜0.90 | 非常に難しい | 実用的な溶接は困難。部品設計段階で溶接を排除する |
| HARDOX 400 | SSAB規格 | 約0.43〜0.50 | 要注意 | 板厚20mm超では予熱100℃以上推奨 |
| HARDOX 500 | SSAB規格 | 約0.55〜0.65 | 難しい | 予熱150〜200℃・低水素系溶材必須 |
Ceqと予熱温度の決め方(AWS D1.1 方式)
AWS D1.1(溶接構造規格)では、Ceqと板厚から予熱温度を導く表が規定されている。主な組み合わせを抜粋する。
| Ceq(IIW式) | 板厚〜20mm | 板厚20〜40mm | 板厚40mm超 |
|---|---|---|---|
| 〜0.40 | 不要(10℃以上であれば) | 不要〜50℃ | 50℃ |
| 0.40〜0.45 | 不要〜50℃ | 50〜100℃ | 100℃ |
| 0.45〜0.55 | 75℃ | 100〜150℃ | 150〜175℃ |
| 0.55〜0.65 | 150℃ | 175〜200℃ | 200〜230℃ |
| 0.65超 | 200℃以上 | 230〜260℃ | 260℃以上 |
予熱はアーク開始前に母材を加熱し、溶接中も維持する(パス間温度管理)。熱電対またはサーモグラフィで確認するのが確実だ。溶接後の後熱(PWHT)はCeq≧0.50クラスで規定されることが多く、応力除去と水素の拡散を目的とする。
遅れ割れのメカニズム
溶接後すぐに割れが見えない場合でも、溶接完了から数時間〜48時間後に亀裂が現れる「遅れ割れ(水素割れ)」がCeqの高い鋼材では発生しやすい。遅れ割れは次の3要素が重なったときに起きる。
溶接材料・フラックス・開先部の湿気から溶接金属に水素が溶け込む。低水素系溶接棒(E7016・E7018)の乾燥管理を怠るだけで拡散性水素量が5倍以上になることがある。
Ceqが高い鋼は溶接後の冷却が速いと熱影響部(HAZ)にマルテンサイト組織が生成する。マルテンサイトは硬いが脆く、水素が集積しやすい。予熱で冷却速度を遅らせることで硬化組織の生成を抑制できる。
溶接収縮が拘束されると引張残留応力が発生する。水素が集積した硬化組織に引張応力が加わると、遅れ割れが誘発される。拘束が大きい継手設計では予熱温度を高めに設定する。
遅れ割れは「3要素のうち2つ以下にする」ことで防げる。低水素系溶接棒の乾燥(≦350℃・1時間の乾燥)と適切な予熱が最も確実な対策だ。
トラブル事例
Ceq計算例:SCM440
SCM440の代表成分(JIS G 4105 参考値):C=0.38〜0.43、Si=0.15〜0.35、Mn=0.60〜0.90、Cr=0.90〜1.20、Mo=0.15〜0.25
IIW式で計算(代表値:C=0.40、Mn=0.75、Cr=1.05、Mo=0.20、Ni=0、Cu=0):
Ceq = 0.40 + 0.75/6 + (1.05 + 0.20)/5 + 0/15 = 0.40 + 0.125 + 0.250 = 0.775
Ceq=0.775では予熱250℃以上・後熱必須となり、実用的な溶接が非常に困難であることが数値から明確に読み取れる。
選定チェックリスト
- ミルシートを入手し、C・Mn・Cr・Mo・V・Ni・Cu の成分値を確認したか
- IIW式またはPcm式でCeqを計算したか(式の選択は板厚・材料系に依存)
- Ceq≧0.45 の場合、低水素系溶接棒(E7016・E7018等)を選定したか
- 低水素系溶接棒を300〜400℃・1時間以上乾燥させたか
- 板厚・Ceqに応じた予熱温度を設定し、予熱方法(ガス加熱・電気加熱)を確認したか
- パス間温度の上限・下限を設定したか(Ceq≧0.45では250℃以下に冷やさない)
- Ceq≧0.50 の場合、後熱(PWHT)の要否を確認したか
- 溶接完了後24〜48時間後に非破壊検査(MT・PT)を実施する計画があるか
- 既設鋼材の場合、成分不明なら現場スペクトロメーター分析で確認したか
まとめ
- Ceq(IIW式)= C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15 で計算し、0.45未満が溶接性良好の目安
- Ceq≧0.45では低水素系溶接棒と予熱が必須で、Ceq≧0.60ではS45C・SCM440クラスとなり実用溶接は困難
- 遅れ割れは「水素・硬化組織・拘束応力」の3要素が揃うと発生し、溶接後16〜48時間で現れることが多い
- SS400は成分保証がないため、溶接構造物に使うときはミルシートでCeqを確認する
- 既設鋼材の補修溶接では成分が不明なため、現場スペクトロメーター分析またはミルシート照合を必ず行う
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