溶接部の割れは、外観では見えていなくても内部に潜んでいることがあります。溶接後すぐに起きるものもあれば、数日後に現れるものもあり、種類によって原因も対策もまったく異なります。「なぜ割れたのか」を正確に特定しないと、同じ溶接を繰り返しても再発します。
溶接割れの種類と発生タイミング
| 種類 | 発生タイミング | 主な発生箇所 | 主な原因 |
|---|---|---|---|
| 高温割れ(凝固割れ) | 溶接直後〜冷却中(800℃以上) | 溶接金属(ビード中央) | 不純物偏析(S・P)、高拘束、深い溶込み形状 |
| 低温割れ(水素割れ) | 溶接後数時間〜数日後(200℃以下) | HAZ(熱影響部)、ルート部 | 水素+マルテンサイト+残留応力の三重苦 |
| 再熱割れ(SR割れ) | 応力除去焼鈍(SR処理)中 | 粗粒HAZ | 析出物がすべりを阻害し、粒界が破断 |
| ラメラテア | 溶接収縮時〜残留応力下 | 母材(圧延方向に対して垂直) | 圧延方向の非金属介在物に沿った層状剥離 |
低温割れ(水素割れ):現場で最も多い
溶接割れの中で現場でのトラブルとして最も頻繁に起きるのが低温割れです。発生条件は「水素・硬化組織(マルテンサイト)・残留応力」の3つが揃ったときです。
溶接材料(被覆材・フラックス)の吸湿、母材表面の水分・油分・錆が水素源。水素は溶接中に溶融池から鋼中に侵入し、HAZに拡散します。
炭素当量(Ceq)が高い材料ほど、溶接後の急冷によりマルテンサイトが形成されやすく、脆くなります。高張力鋼・合金鋼ほど注意が必要です。
厚板・高拘束継手・多層盛り溶接では溶接収縮による残留引張応力が大きくなり、割れが伝播しやすくなります。
予熱の必要性と温度の決め方
低温割れの最大の予防策が「予熱」です。予熱することで冷却速度を遅くし、マルテンサイト生成を抑えて拡散水素を逃がします。必要な予熱温度は炭素当量(Ceq)と板厚で決まります。
| 炭素当量Ceq | 板厚25mm未満 | 板厚25〜50mm | 板厚50mm以上 |
|---|---|---|---|
| 0.35以下 | 予熱不要 | 予熱不要〜50℃ | 50〜100℃ |
| 0.35〜0.45 | 予熱不要〜50℃ | 50〜100℃ | 100〜150℃ |
| 0.45〜0.55 | 50〜100℃ | 100〜150℃ | 150〜200℃ |
| 0.55以上 | 150℃以上 | 200℃以上 | 250℃以上 |
※Ceq(炭素当量)= C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15。ミルシートから計算できます。
高温割れ:ビード中央の縦割れ
溶接金属が凝固する際に硫黄(S)やリン(P)などの低融点不純物が粒界に濃縮し、最後まで凝固しない液膜として残ります。ここに収縮応力がかかると粒界に沿って割れます。
対策は「清浄な母材・溶材の使用(低S・低P品)」と「Mn/S比を確保すること(Mn/S>25が目安)」、そして「ビード形状を幅広く浅い形状にすること(アスペクト比を下げる)」です。ルート溶接で深く狭いビードになるときが特にリスクが高い状況です。
ラメラテア:厚板のT継手・十字継手で起きる
ラメラテアは溶接収縮力が板厚方向(圧延方向に対して垂直方向)に加わるときに、圧延中に伸ばされた非金属介在物(MnS等)に沿って層状に割れる現象です。T継手・十字継手・角継手の厚板(25mm以上が目安)で発生します。
対策は「Z方向(板厚方向)の絞り値が高い鋼板(Z材)を使う」か、「継手設計を変更して板厚方向の収縮拘束を緩和する」ことです。Z材の規格はJIS G 3199(鋼板の板厚方向引張試験)に定められており、Z15・Z25・Z35の3クラスがあります。
現場でのトラブル事例
- 母材のCeqを計算し、板厚に応じた予熱温度を設定した
- 溶接棒・フラックスを適切な方法で乾燥・保管している
- 母材表面の水分・油分・錆を溶接前に除去した
- 雨天・強風時の溶接を禁止または防風養生を実施している
- 厚板T継手・十字継手ではラメラテアリスクを評価した
- SR処理が必要な材料で、再熱割れを起こさない温度範囲を確認した
- 溶接後の非破壊検査(MT・UT・RT)を適切なタイミングで実施した
まとめ
- 溶接割れは「高温割れ・低温割れ・再熱割れ・ラメラテア」の4種類があり、原因も対策も異なる
- 現場で最も多い低温割れは「水素+マルテンサイト+残留応力」の三条件を断ち切ることで防ぐ
- 予熱はCeqと板厚から決定し、低水素系溶接棒の乾燥管理と合わせて実施する
- 厚板T継手ではラメラテアリスクを評価し、Z材の使用を検討する
- 割れの種類を正確に特定してから対策を打つことが再発防止の原則

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