「SS400は溶接できるのに、S45Cは溶接が難しいのはなぜか」——その答えは炭素当量(Ceq)という指標にあります。炭素当量は鋼材の溶接しやすさを表す指標で、この数値が高いほど溶接後の割れリスクが上がります。本記事では、炭素当量の意味・計算方法から、予熱温度の決め方・遅れ割れの防止策まで、実務で使える知識を整理します。
1. 炭素当量(Ceq)とは
炭素当量(Carbon Equivalent)は、炭素(C)以外の合金元素の影響をCの割合に換算した指標です。鋼は炭素量が多いほど、また合金元素が多いほど焼入れ性が高くなり、溶接熱影響部でマルテンサイトが生成しやすくなります。マルテンサイトは硬くて脆いため、溶接割れのリスクが増します。
(各元素は質量%)
CeqがおおむねSSの推奨上限(0.44%以下)なら予熱なしで溶接可能とされる。これを超えると予熱が必要になる。
2. 鋼材別のCeqと溶接性
| 鋼材 | 代表的なCeq目安 | 溶接前の予熱 | 溶接性の評価 |
|---|---|---|---|
| SS400 | 0.26〜0.36% | 原則不要(板厚25mm以下) | ◎ 非常に良好 |
| SM490A | 0.36〜0.44% | 不要〜50℃(板厚・拘束度による) | ○ 良好 |
| SM570 | 0.44〜0.52% | 75〜100℃ | △ 要管理 |
| S45C | 0.52〜0.58% | 150〜200℃(必須) | ▲ 条件厳守 |
| SCM435 | 0.75〜0.90% | 200〜300℃(必須) | ✕ 原則溶接不可 |
| SUJ2 | 1.20〜1.40% | 溶接不可 | ✕ 絶対禁止 |
SS400のCeqが低い理由は「炭素量・合金元素量に規定がなく、メーカーが低めに成分設計するから」。引張強さ400MPaを満たせば成分は問わないJIS規定を利用して、溶接しやすい成分設計がされている。
3. 遅れ割れ(水素割れ)のメカニズム
溶接後の割れで最も厄介なのが遅れ割れ(水素割れ)です。溶接直後には発生せず、冷却後数時間〜24時間後に突然割れが発生するため発見が遅れます。
溶接棒・フラックス・空気中の水分から水素が溶融金属に溶け込む。溶接後の冷却で水素が過飽和になり、鋼中を拡散する。
Ceqが高い鋼材では熱影響部(HAZ)が急冷され、脆いマルテンサイトが生成する。マルテンサイト中に水素が集積しやすい。
溶接収縮による残留引張応力が存在する状態で、水素が集積したマルテンサイトが割れる。割れは溶接後数時間〜数日後に発生。
4. 予熱の効果と温度の決め方
予熱(溶接前に鋼材を加熱すること)は遅れ割れ防止の最も有効な手段です。予熱の効果は主に2つです。
- 冷却速度を落とす:熱影響部でのマルテンサイト生成量を減らす
- 水素の拡散を促進する:温度が高いほど水素が鋼中を拡散しやすくなり、割れの起点になりにくくなる
| Ceq | 板厚25mm以下の予熱温度目安 | 板厚25〜50mmの予熱温度目安 |
|---|---|---|
| 0.36%以下 | 不要 | 50℃以上 |
| 0.36〜0.44% | 不要〜50℃ | 75〜100℃ |
| 0.44〜0.52% | 75〜100℃ | 100〜150℃ |
| 0.52〜0.60% | 150〜200℃ | 200〜250℃ |
| 0.60%超 | 200〜350℃以上 | 専門家に相談 |
5. 低水素系溶接棒の重要性
遅れ割れ防止のもう一つの柱が低水素系溶接棒の使用です。一般の被覆アーク溶接棒(イルミナイト系など)は吸湿しやすく、溶接時に水素を多く発生させます。低水素系溶接棒(LB棒)は吸湿しにくい石灰系フラックスを使用しており、拡散性水素量を大幅に低減できます。
6. トラブル事例
まとめ
- 炭素当量(Ceq)は鋼材の溶接しやすさを示す指標。Ceq = C + Mn/6 + (Cu+Ni)/15 + (Cr+Mo+V)/5 で計算する。
- SS400のCeqが低いのは、JIS規格が成分を規定せず、メーカーが溶接しやすい低炭素成分で設計するため。
- 遅れ割れは溶接後数時間〜24時間後に発生する「水素割れ」で、発見が遅れやすい。
- 予熱の目的は①冷却速度を落としてマルテンサイト生成を抑える②水素拡散を促進して割れを防ぐの2点。
- S45C(Ceq≈0.55%)を溶接する場合は150〜200℃の予熱と低水素系溶接棒が必須。
- SCM435(Ceq≈0.80%以上)は溶接を原則避け、設計段階でボルト接合に変更する。


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