鋳鉄・鋳鋼の熱処理で最も重要なのは「応力除去」です。鋳造後の部品は凝固・冷却過程で生じた残留応力を内部に抱えています。この状態で機械加工すると、加工中または加工後に残留応力が解放されて寸法が変化します。「仕上げ加工後に公差を外れた」「精度が出ない」という問題は、応力除去焼なましを省略した鋳造品に起きやすいです。一方で、高強度が必要な鋳鋼部品では焼ならしや焼き入れ・焼き戻し(QT)が適用されます。
鋳鉄・鋳鋼の種類と熱処理の目的
| 材料 | 代表鋼種 | 主な熱処理 | 目的 |
|---|---|---|---|
| ねずみ鋳鉄(FC) | FC200・FC300 | 応力除去焼なまし(550〜650℃) | 鋳造残留応力の除去・加工後変形防止 |
| 球状黒鉛鋳鉄(FCD・ダクタイル鋳鉄) | FCD450・FCD700 | 応力除去焼なまし・球状化焼なまし・焼ならし | 延性確保・高強度化・応力除去 |
| 鋳鋼(普通鋳鋼) | SC410・SC480 | 焼ならし(900〜1000℃→空冷) | 鋳造組織の均一化・機械的性質の改善 |
| 鋳鋼(高強度用) | SCC3・SCMn等 | 焼ならし+焼き入れ・焼き戻し(QT) | 高強度・高靱性の同時達成 |
応力除去焼なましの条件と効果
鋳造後の残留応力を除去するための処理です。変態温度以下で加熱して応力を塑性緩和させます。
| 材料 | 加熱温度 | 保持時間 | 冷却方法 | 残留応力低減率 |
|---|---|---|---|---|
| ねずみ鋳鉄(FC) | 500〜600℃ | 肉厚25mmごと1h(最低2h) | 炉冷(50℃/h以下) | 70〜90% |
| 球状黒鉛鋳鉄(FCD) | 530〜620℃ | 肉厚25mmごと1h | 炉冷(50℃/h以下) | 70〜90% |
| 鋳鋼(SC) | 600〜650℃ | 肉厚25mmごと1h(最低2h) | 炉冷(30〜50℃/h) | 80〜95% |
冷却速度の管理炉冷(徐冷)で行うことが重要です。急冷すると冷却過程で新たな温度差残留応力が発生し、応力除去効果が減少します。特に大型鋳物・複雑形状では冷却速度50℃/h以下の制御が必要です。
FCDの球状化焼なまし
球状黒鉛鋳鉄(FCD)では、鋳造後の組織にパーライト(硬いが脆い)が含まれることがあります。延性が不足する場合、球状化焼なましでフェライト化を促進します。
| 処理の種類 | 条件 | 効果 |
|---|---|---|
| 完全焼なまし(フェライト化) | 870〜930℃ → 炉冷 | パーライトをフェライト+黒鉛化。延性最大(伸び12〜18%)。硬さ低下(150〜180HBW) |
| 不完全焼なまし(サブクリティカル) | 680〜740℃ → 炉冷 | パーライトを部分フェライト化。強度と延性のバランス改善 |
鋳鋼の焼ならし
鋳鋼(SC410・SC480)は鋳造組織が粗大で機械的性質が低いため、焼ならし(ノルマライジング)を実施して組織を均一化します。
焼ならし条件:A₃変態点(SC410で約840〜860℃)より50〜100℃高い温度(通常900〜1000℃)に加熱後、空冷します。鋳造時のデンドライト組織・偏析が解消され、微細パーライト組織が得られます。
効果:引張強さ・衝撃値が鋳造まま(as-cast)より10〜20%改善します。
| 処理状態 | 引張強さ(SC410) | 衝撃値(シャルピー) |
|---|---|---|
| 鋳造まま(as-cast) | 300〜380MPa | 低い(組織の偏析・粗大化による) |
| 焼ならし後 | 410MPa以上(JIS規定) | 改善(組織均一化) |
| 焼ならし+焼き入れ・焼き戻し(QT) | 580MPa以上 | 高靱性(焼き戻しマルテンサイト) |
応力除去なしの大型鋳鉄品→仕上げ加工後に変形
状況工作機械のベッド(FC300、重量1.2t)を応力除去焼なましなしで粗加工→精密仕上げを実施。仕上げ後に真直度を測定したところ、0.3mm/1000mmの変形が発生しており精密機械のベッドとして使用不可。
原因鋳造後の残留応力(最大100〜150MPa)が精密加工中に解放された。粗加工で表面層を除去した際に内部応力バランスが崩れ、仕上げ加工後に変形が顕在化した。
対策鋳造後に応力除去焼なまし(550℃×6h→炉冷)を必須工程として追加。さらに粗加工後に2次応力除去(450℃×4h)を実施して仕上げ加工に備える手順に変更。変形は0.01mm/1000mm以下に改善した。
鋳鉄・鋳鋼熱処理 チェックリスト
- 精密部品(工作機械・治具・ゲージ)の鋳造品は機械加工前に応力除去焼なましを実施したか
- 応力除去の冷却速度を50℃/h以下で管理したか(急冷は新たな残留応力を生む)
- FCD材の延性が不足する場合、球状化焼なまし(フェライト化)を検討したか
- 鋳鋼(SC材)の機械的性質向上のため焼ならしを実施したか
- 高強度・高靱性が必要な鋳鋼はQT(焼き入れ・焼き戻し)を検討したか
まとめ
- 鋳造品の精密加工前には応力除去焼なまし(550〜650℃→炉冷)が必須——省略すると仕上げ後に変形する
- 応力除去の冷却は徐冷(炉冷)で——急冷は新たな残留応力を生じる
- FCD材の延性不足は球状化焼なまし(フェライト化)で改善できる
- 鋳鋼(SC材)は焼ならしで組織均一化——高強度用途はQTを追加する


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