防炭・防窒処理の指示方法──処理してはいけない箇所を守る技術

浸炭焼き入れ・窒化処理では、部品全体が処理雰囲気にさらされます。ネジ部・嵌合面・薄肉部など「硬くなってはいけない箇所」に浸炭や窒化が及ぶと、かじり・嵌合不良・割れが起きます。防炭・防窒処理はこれを防ぐための技術ですが、「防炭処理」と図面に書くだけでは不十分で、どの箇所をどの方法でマスキングするかを具体的に指示することが必要です。

詰まる場面① ネジ部が浸炭されて締結不良

軸のM20ねじ部を含む全体を浸炭処理。ネジ山の表面が高炭素・高硬度になり、組み付け時に「かじり」が発生。指定トルクまで締め付けられなかった。

詰まる場面② 嵌合部の寸法管理

H7/h6嵌合のシャフト全面を窒化処理。窒化による膨張(+0.015mm径)で嵌合部が寸法を外れ、ベアリング座が締まりすぎて組立不能になった。

詰まる場面③ 薄肉部の脆化

薄肉フランジ部(板厚2mm)まで浸炭が及んだ。両面から浸炭されて板厚方向全体が高炭素になり、締め付け時に割れた。

防炭・防窒が必要な箇所

箇所の種類防炭が必要な理由防窒が必要な理由
ネジ部(外ネジ・内ネジ)高炭素→脆化・かじり・破断リスク窒化層で嵌合寸法が外れる。脆化リスク
精密嵌合面(h5・h6・js6等)変形・炭素濃化で寸法変化窒化膨張(+0.01〜0.02%)で公差アウト
薄肉部(板厚3mm以下)両面浸炭で全炭化→著しく脆化窒化層が厚さに対して割合が大きくなりすぎる
溶接部・ろう付け部浸炭で後工程の溶接・ろう付けが困難に窒化後の溶接はほぼ不可
研削仕上げ不可箇所浸炭後の寸法変化を後工程で修正できない窒化後のラッピング代がない

マスキング方法の比較

方法防炭防窒特徴コスト適用箇所
銅めっきマスキング◎有効◎有効確実性が高い。厚さ0.02〜0.05mmの銅めっきで浸炭・窒化を遮断精密嵌合面・重要箇所
防炭スラリー塗布◎有効△部分的酸化アルミナ・炭化ケイ素ペーストを塗布。低コストだが剥がれリスクありネジ部・広い平面
治具マスキング(機械的)◎有効○有効部品をキャップや治具で覆う。繰り返し使用可能初期コスト高量産品の端部・嵌合部
後加工での除去△(取りしろが必要)△(窒化層の除去は困難)浸炭後に浸炭層を研削で除去。窒化層は硬すぎて除去が難しい浸炭材の研削仕上げ部のみ

図面への防炭・防窒指示の書き方

防炭・防窒が必要な箇所は図面に明示します。指示が漏れると業者は全面処理します。

注記での指示:「特記なき箇所は浸炭焼き入れ。ネジ部・嵌合部(ハッチング箇所)は防炭処理(銅めっきマスキング)」のように、処理する箇所と防炭する箇所を両方明示します。

ハッチングでの指示:防炭・防窒が必要な部位にクロスハッチングを引き、引き出し線で「防炭処理(銅めっきマスキング)」と記入します。

銅めっきマスキングの注意めっき厚が薄すぎると(0.01mm以下)防炭効果が不十分になることがあります。また、処理後の銅めっき除去(硝酸溶解等)が必要で、除去工程の指示も発注仕様書に含めます。めっき除去後の防炭箇所は非処理面のため、硬さ・腐食耐性が他の部位と異なることを設計に反映します。

防炭・防窒後の検査方法

防炭・防窒が正しく実施されたかの確認は以下の方法で行います。

  • 硬さ測定:防炭指示箇所の硬さが処理前の素材硬さ(≦30HRC程度)を維持しているか確認
  • 断面組織観察:防炭部の断面を研磨・腐食して組織を観察。浸炭層が生じていないか確認
  • 寸法測定:窒化後の防窒箇所の寸法が公差内に収まっているか確認
防炭指示漏れ→ネジ部脆化→締結時破断
状況ガス浸炭焼き入れした軸のM24ネジ部(深さ30mm)にナットを締め付けたところ、規定トルクの70%時点でネジ山が剥離した。
原因図面に防炭指示がなく、ネジ部も含めて全面浸炭処理されていた。ネジ山表面の炭素量が0.8%超(浸炭層)となり、马氏体組織で極めて脆化していた。ネジ山破断面は靱性がほぼゼロの粒界破壊様相だった。
対策図面にネジ部・嵌合部の防炭処理(銅めっきマスキング)を明示。発注仕様書に「ネジ部の防炭マスキング必須・処理後に銅めっき除去・硬さ確認」を追記。再発ゼロ。
防炭・防窒指示 チェックリスト
  • 部品にネジ・精密嵌合・薄肉部・溶接部がある場合、防炭・防窒が必要か確認したか
  • 防炭・防窒箇所を図面にハッチングまたは注記で明示したか
  • マスキング方法(銅めっき・スラリー・治具)を発注仕様書に記載したか
  • 銅めっきマスキングの場合、処理後のめっき除去工程を発注仕様書に指示したか
  • 受入検査で防炭・防窒箇所の硬さ・寸法を確認したか

まとめ

  • 防炭・防窒が必要な箇所(ネジ・嵌合・薄肉・溶接部)は図面に明示する——図面の指示がない箇所は全面処理される
  • 銅めっきマスキングが最も確実——精密嵌合・重要ネジ部はこれを標準とする
  • スラリー塗布は低コストだが剥がれリスクがある——重要箇所への単独適用は避ける
  • 防炭箇所はソフトなため耐摩耗性が低い——防炭指示が設計意図と合っているか確認する

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