マグネシウム合金をやさしく解説:AZ31BとAZ91Dの特性と軽量設計での使い分け

マグネシウム合金をやさしく解説:AZ31BとAZ91Dの特性と軽量設計での使い分け

マグネシウム合金は実用金属のなかで最も軽く、アルミより約35%密度が低い。「軽量化したいがアルミでは重い」という場面で登場するが、AZ31BとAZ91Dは同じAZ系でも加工プロセスがまったく異なるため、用途を間違えると成形できない・強度が出ないという問題が起きる。この記事では2つの合金の違いを整理し、どちらを選ぶかの判断軸を解説する。

マグネシウム合金の記号の読み方

AZ31B の記号構成

ASTM方式:A=アルミニウム(Al)、Z=亜鉛(Zn)、31=Al約3%・Zn約1%、B=同系合金の2番目の組成バリエーション

AZ91D も同様:Al約9%・Zn約1%・D=ダイカスト向けに最適化されたバリエーション

成分比較

元素AZ31B(展伸材)AZ91D(ダイカスト)役割
Al2.5〜3.5%8.3〜9.7%強度・耐食性向上。増やすほど鋳造性が上がるが延性が下がる
Zn0.6〜1.4%0.35〜1.0%固溶強化・耐食性補助
Mn0.2%以上0.15〜0.5%鉄の影響を打ち消し耐食性を改善
Fe0.005%以下0.005%以下不純物(腐食の起点になるため厳しく管理)

Al含有量の差が一切を決める。AZ31BはAlが少ないから曲げられる・絞れる。AZ91DはAlが多いから溶湯の流動性が高く、薄肉の鋳造品ができる。

機械的性質比較

特性AZ31B(H24材)AZ91D(ダイカスト)
引張強さ約250MPa約230MPa
耐力(0.2%)約200MPa約160MPa
伸び約15%約3%
硬さ約73HBW約70HBW
密度1.77 g/cm³1.81 g/cm³
比強度(引張/密度)約141約127
比強度で見るとAZ31Bが優位

AZ91Dはダイカスト品として数値上の強度は出るが、ポロシティ(鋳造巣)が混入しやすく、実際の破断強度はばらつく。引張強さの「下限保証」が必要な構造部品にはAZ31B展伸材の方が安定している。

加工プロセスの根本的な違い

AZ31B:展伸材(板・押出・鍛造)

圧延・押出・鍛造によって成形する。マグネシウムは六方最密充填(HCP)構造のため室温での変形能が低く、200〜300℃の温間加工が必要。板材(ASTM B90)・押出材(ASTM B107)として流通している。プレス成形する場合も金型・素材を150〜200℃に予熱してから加工する。

AZ91D:ダイカスト専用

高圧ダイカストで成形する。Alを9%近く含むためAZ31Bより流動性が高く、1mm以下の薄肉形状も安定して充填できる。ただし伸びが約3%しかなく、衝撃で割れやすいため衝突吸収が求められる部位には使えない。ダイカスト後に溶体化処理(T4)や時効処理(T6)を施して強度を上げることもある。

使い分け判断軸

判断軸AZ31Bを選ぶAZ91Dを選ぶ
成形方法プレス・曲げ・絞り・押出・鍛造高圧ダイカスト
形状の複雑さ比較的シンプル(板金形状)複雑な薄肉形状・リブ付き
伸び・延性の要否衝撃吸収・変形が必要剛性優先・衝撃は受けない
生産数量少〜中量(板材カット・プレス)中〜大量(金型償却が前提)
典型用途ノートPC筐体(板金)・スポーツ器具・航空機内装パネル自動車ギアボックスカバー・カメラボディ・電動工具ハウジング
「軽量化したい」だけでは決まらない。プレスで作るならAZ31B、ダイカストで作るならAZ91Dという工程起点で選ぶのが正しい順序。

代替可否マトリクス

変更方向可否条件・注意点
AZ31B → AZ91D(ダイカスト化)△ 条件付き可金型設計を最初からやり直し。プレス品とは強度・寸法精度の設計前提が異なる
AZ91D → AZ31B(展伸材化)△ 条件付き可伸びが大きく改善するが、ダイカスト品のリブ形状は再設計が必要
AZ31B → A5052(アルミ板)○ 可密度は1.77→2.68 g/cm³と約50%増加。プレス工程の変更は少ない
AZ91D → ADC12(アルミダイカスト)○ 可密度は1.81→2.74 g/cm³と約50%増加。強度・耐食性は向上
AZ31B → AZ61A(押出材)○ 可Al約6%で強度がやや高い。AZ31Bより押出比が高く複雑断面に対応

トラブル事例

「AZ91D板材」を発注してプレス加工しようとした
状況ダイカスト品を板材に置き換えるコスト削減を検討。調達部門がAZ91D板材を発注した。
原因AZ91DはJIS/ASTMで板材規格がない(ダイカスト専用合金)。板材はAZ31B・AZ61A・AZ80Aが主流。材料商社も対応できず、試作品を焼結で作ることになった。
対策板材プレスにはAZ31Bを指定。「AZ91D相当の強度が必要」ならAZ80A(Al約8%・展伸材)を検討する。ただしAZ80Aは国内流通量が少ないため入手性を事前確認すること。
AZ31B板材のプレス加工で室温で割れが発生した
状況アルミ板と同様に室温でプレス加工したところ、曲げ部にクラックが入った。
原因マグネシウムはHCP構造のため室温での変形能が低い。曲げR/t比が2以下になると室温では割れる。アルミ(FCC構造)とは変形メカニズムが異なる。
対策素材と金型を150〜200℃に予熱してから加工する。曲げRはt×3以上を確保。加工設備に温調機能がない場合はAZ31Bの採用自体を見直す。

用途カード

ノートPC・タブレット筐体

AZ31B(板材プレス)。天板・底板を0.5〜1.0mm板から絞り・トリム加工で成形。アルミ比35%軽量化。温間プレスが必要なためアルミ部品と混流する工場では工程管理に注意。

自動車トランスミッションカバー

AZ91D(ダイカスト)。エンジンルーム内の非加熱部位で使用。鉄系より約75%軽量。150℃超の連続使用環境ではクリープ変形するため耐熱グレード(AZ91E・AM60)を検討すること。

自転車・スポーツ用品フレーム部品

AZ31B(押出・鍛造)。押出し材を曲げ・溶接して組み立てる。溶接はTIG溶接が基本で、AZ61A溶接棒を使用。溶接後は残留応力除去のため200〜260℃で焼鈍する。

電動工具・カメラボディ

AZ91D(ダイカスト)。複雑なリブ形状・ボス形状をダイカスト1工程で成形。表面処理はアルマイト不可のため、化成処理(クロメート・ノンクロ)+塗装が標準。

耐食性と表面処理の注意点

マグネシウムは実用金属の中で最も電気化学的に卑(標準電極電位 −2.37V)であり、異種金属と接触すると激しいガルバニック腐食が起きる。アルミ・鉄・銅製のボルトやインサートを直接取り付けると腐食の起点になる。

異種金属接触に注意 マグネシウム部品に鉄系ボルトを直締めすると、湿潤環境で数週間以内にボルト周辺が腐食する。絶縁ワッシャー・アルミニウムインサートの使用、または表面処理(化成処理+塗装)による絶縁が必須。
マグネシウム合金 選定チェックリスト
  • 成形プロセスは何か(プレス/押出/鍛造 → AZ31B、ダイカスト → AZ91D)
  • 使用温度は150℃以下か(超える場合は耐熱グレードを検討)
  • 衝撃吸収が必要か(伸び3%のAZ91Dは衝撃部位に不向き)
  • 異種金属との接触部位に絶縁対策を織り込んでいるか
  • 表面処理は化成処理+塗装で計画しているか(アルマイト不可)
  • 溶接が必要な場合、TIG設備と200〜260℃焼鈍工程があるか

まとめ

  • AZ31BとAZ91Dは同じAZ系でも「展伸材」と「ダイカスト専用」で加工プロセスが根本的に異なる
  • Al含有量の差(3% vs 9%)が流動性・延性・強度のすべてを決める
  • 軽量設計での選択はプロセス起点で判断する:プレス・押出・鍛造ならAZ31B、ダイカストならAZ91D
  • AZ91D板材は規格上存在しない。高強度板材が必要ならAZ80Aを検討するが入手性を要確認
  • 室温プレスでの割れ・異種金属腐食の2つが実務で最も多いトラブル。どちらも設計段階での対策が有効

コメント