超硬合金の硬さは「Co(コバルト)量を減らせば上がる」という単純な話ではありません。WC粒径・Co量・焼結条件の三つが複雑に絡み合い、硬さと靭性のどちらを優先するかで全く異なるグレードを選ぶことになります。「硬いグレードを選べば工具寿命が延びる」と思って選定すると、加工中に欠けて逆に寿命が短くなる――そのメカニズムを組成の視点から解説します。
超硬合金の構造――WCとCoの役割分担
超硬合金はWC(炭化タングステン)の硬質粒子を、Co(コバルト)という金属バインダーで焼結した複合材料です。WC単体の硬さは約2,600HVで、ダイヤモンド(10,000HV)に次ぐ硬さを持ちます。しかしWC単体は非常に脆く、工具・金型として使えません。そこにCoを加えて焼結することで、靭性を持たせながら高硬度を実現しています。
| 成分 | 役割 | 単体の硬さ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| WC(炭化タングステン) | 硬質相(骨格) | 約2,600HV | 硬さ・耐摩耗性を担う。靭性は低い |
| Co(コバルト) | バインダー相(結合剤) | 約250HV | WC粒子を結合し靭性を与える |
| TiC・TaC・NbC(添加物) | 耐熱・耐溶着性改善 | 2,000〜3,000HV | 鋼切削時の耐クレーター摩耗向上 |
Co量・WC粒径と硬さの関係
Co量が硬さに与える影響
Co量を増やすとバインダー相が増え、WC粒子の隙間が広がります。Co自体の硬さは低いため、全体の硬さは下がり靭性が上がります。逆にCo量を減らすとWCが密に充填され、硬さが上昇する代わりに脆くなります。
WC粒径が硬さに与える影響
同じCo量でもWC粒径が小さいほど硬さが上がります。微粒(0.5μm以下)では1,800HV超えも可能です。一方、粒径が大きいほど靭性が改善します。超微粒超硬合金は「硬さと靭性を両立する」方向で発展しており、ドリル・エンドミルの素材として採用が増えています。
| WC粒径の分類 | 粒径 | 硬さ傾向 | 靭性傾向 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 超微粒 | 〜0.5μm | 高(◎) | 低(△) | PCB用マイクロドリル・精密工具 |
| 微粒 | 0.5〜1μm | 高(○) | 中(○) | エンドミル・ドリル・精密金型 |
| 中粒 | 1〜3μm | 中(○) | 中(○) | 汎用切削工具・チップ |
| 粗粒 | 3〜8μm | 低(△) | 高(◎) | 鉱山・掘削工具・耐衝撃金型 |
硬さの測定法――超硬合金はなぜHRAで測るか
超硬合金の硬さはHRA(ロックウェルAスケール)で測定するのが標準です。HRCやHVとの使い分けには理由があります。
| 測定法 | 圧子 | 試験荷重 | 超硬合金での実用性 | 超硬での値域 |
|---|---|---|---|---|
| HRA(ロックウェルA) | ダイヤモンド円すい | 60kgf | ◎(標準) | 83〜93HRA |
| HRC(ロックウェルC) | ダイヤモンド円すい | 150kgf | ✕ 荷重過大で割れるリスク | (使用しない) |
| HV(ビッカース) | ダイヤモンド四角錐 | 1〜50kgf | ○(研究・精密測定) | 1,100〜1,900HV |
| HBW(ブリネル) | 超硬球 | 大 | ✕ 超硬には硬すぎて測定不可 | (使用しない) |
HRAとHVの換算目安
| HRA | HV(概算) | Co量の目安 |
|---|---|---|
| 93.0HRA | 約1,900HV | Co 3%前後 |
| 91.5HRA | 約1,700HV | Co 6%前後 |
| 89.5HRA | 約1,550HV | Co 9%前後 |
| 87.5HRA | 約1,400HV | Co 12%前後 |
| 86.0HRA | 約1,300HV | Co 15%前後 |
| 83.5HRA | 約1,100HV | Co 20%前後 |
JIS規格グレード別の硬さ比較
切削工具用超硬合金のJIS規格(JIS B 4053)では、被削材の種類によってP・M・K・N・S・H の6種に分類されます。それぞれのグレードで硬さの要求が異なります。
| 種類記号 | 色識別 | 主な被削材 | 硬さ目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| P種(P01〜P50) | 青 | 鋼・鋳鋼(長い切り屑) | P01:約1,700HV以上 P50:約1,300HV | TiC添加で耐クレーター摩耗を向上。番号が大きいほど靭性重視 |
| M種(M10〜M40) | 黄 | 汎用(鋼・ステンレス・鋳鉄) | 約1,400〜1,600HV | P種とK種の中間。多目的に使える |
| K種(K01〜K40) | 赤 | 鋳鉄・非鉄・非金属(短い切り屑) | K01:約1,800HV以上 K40:約1,200HV | TiC添加なし。WC-Coシンプル組成 |
| N種 | 緑 | 非鉄金属・プラスチック | 約1,600〜1,800HV | アルミ・銅合金加工専用 |
| S種 | 橙 | 耐熱合金・チタン合金 | 約1,500〜1,700HV | 高温強度が必要な難削材向け |
| H種 | 灰 | 焼入れ鋼・冷鋳鉄 | 約1,700HV以上 | 硬さ最優先。欠けにくい超微粒種が多い |
硬さと靭性のトレードオフ――どこで選択するか
超硬合金の選定で最もよくある失敗が「硬ければいいだろう」という思考で高硬度グレードを選ぶことです。Co量が少ない高硬度グレードは、切削時の衝撃や断続切削でチッピング(微小欠け)が起きやすく、結果的に工具寿命が短くなります。
| 切削条件 | 優先すべき特性 | 選ぶべきグレード方向 |
|---|---|---|
| 連続切削・高速仕上げ | 耐摩耗性(硬さ) | Co少・小番号(K01・P01等) |
| 断続切削・フライス・ミーリング | 靭性(耐チッピング) | Co多・大番号(K30・M30等) |
| 難削材(Ni合金・Ti) | 耐熱性+靭性 | S種・微粒グレード |
| 焼入れ鋼の仕上げ加工 | 高硬度+耐摩耗 | H種・超微粒高硬度グレード |
工具鋼・高速度鋼との硬さ比較
| 材料 | 硬さ | 耐熱温度 | 靭性 |
|---|---|---|---|
| SKH51(高速度鋼) | 62〜66HRC(約800HV) | 約600℃ | 高い |
| SKD11(冷間工具鋼) | 58〜63HRC(約700HV) | 約200℃ | 中程度 |
| 超硬合金(汎用 K10相当) | 89〜91HRA(約1,500〜1,700HV) | 約900℃ | 低い |
| 超硬合金(高靭性 K30相当) | 86〜88HRA(約1,200〜1,400HV) | 約900℃ | 中程度 |
| CBN(立方晶窒化ホウ素) | 約3,000〜4,500HV | 約1,000℃ | 非常に低い |
| PCD(多結晶ダイヤモンド) | 約5,000〜8,000HV | 約700℃(酸化) | 非常に低い |
連続旋削の仕上げ加工、高速切削、摩耗が主な損傷モードのとき。欠けや衝撃が少ない安定した切削条件であること。
フライス・断続切削・穴あけなど衝撃が伴う加工。鋼・ステンレス・合金鋼など一般的な難削材。
掘削・鉱山工具、衝撃が非常に大きい用途。硬さより欠けない・折れないことが最優先の条件。
PCB用マイクロドリル(φ0.1mm以下)、精密金型、焼入れ鋼の仕上げ。硬さと靭性の両立が必要。
- 加工が連続切削か断続切削かを確認したか(断続→靭性重視)
- 被削材の材質・硬さを確認し、JIS種類記号(P・M・K・N・S・H)を絞り込んだか
- 番号(01〜50)で硬さ/靭性のバランスを選んだか
- 硬さ測定はHRAまたはHVを指定したか(HRC・HBWは不可)
- 工具損傷モード(摩耗主体か欠損主体か)を前回加工で確認したか
- WC粒径(超微粒・微粒・中粒・粗粒)の指定が必要な精密用途か確認したか
まとめ
- 超硬合金の硬さはWC(炭化タングステン)が担い、Co(コバルト)量が多いほど硬さが下がり靭性が上がる
- WC粒径が小さいほど硬さが高くなる。超微粒グレードは硬さと靭性の両立が可能
- 硬さ測定はHRA(60kgf)が標準。HRCは荷重過大で割れるリスクがあり使用しない
- JIS B 4053のP・M・K・N・S・H種で被削材を絞り、番号で硬さ/靭性バランスを選ぶ
- 「硬いほど長持ち」は誤り。断続切削・衝撃がある条件では高靭性グレードの方が寿命が長い

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