キー・スプライン・セレーションの使い分け|トルク・摺動・軸径で選ぶ

軸とボス(歯車・プーリー・カップリング)を結合してトルクを伝えるとき、キー・スプライン・セレーションの3方式のどれを選ぶかで、加工コスト・組立性・伝達トルク・耐久性が大きく変わります。「とりあえず平行キー」で設計を進めてキー溝が壊れる、スプラインが必要な場面でキーを使って摺動できない——こうした判断ミスを防ぐための選定基準を整理します。

各方式の基本と規格

平行キー(JIS B 1301)

最もシンプルなトルク伝達手段で、軸とボス両方に加工したキー溝にキーを挿入します。規格ではA型(丸端)・B型(平端)・C型(片丸端)の3種類があり、A型はエンドミル加工、B型はスロッティング加工を前提とした形状です。平行キーは軸方向に力を受けないため、抜け止めが必要な場合は止めねじや軸端ナットと組み合わせます。

半月キー(ウッドラフキー)(JIS B 1304)

半円形のキーで、軸に深めの半円溝を切り込む形式です。組立時にキーが溝の中で首振りできるため、テーパー軸との組み合わせで自己調心性を発揮します。工作機械スピンドル・テーパーシャンクホルダーなどに多用されますが、深溝加工により軸の断面積が減るため、大トルク用途には不向きです。

スプライン

軸の外周に複数の歯(通常6〜20枚)を等配した形状で、大トルク伝達と軸方向摺動を両立できます。自動車のドライブシャフト・変速機シフトスリーブ・工作機械の摺動部など、高トルクまたは軸方向移動が必要な箇所が主用途です。加工にはブローチ加工またはホブ盤が必要で、コストは平行キーより高くなります。

セレーション

スプラインより歯数が多く(通常16〜72枚)、歯が細かいため小径軸でも高精度な角度位置決めができます。カムシャフトのスプロケット固定・ステアリングシャフト・サーボモータのカップリングなど、小径かつ位置精度が重要な箇所に使われます。摺動は基本的に想定しない固定用途向けです。

選定マトリクス:3軸で整理する

トルク 摺動 軸径目安 推奨方式 理由
小〜中 なし φ10〜100mm 平行キー 加工容易・低コスト・汎用性高い
小〜中 なし(テーパー軸) φ10〜60mm 半月キー 自己調心・組立が容易
あり φ20mm〜 スプライン 大トルク+軸方向摺動を両立
中〜大 なし φ20mm〜 スプライン(固定用) 接触面積大・応力集中が小さい
小〜中 なし(位置決め重視) φ6〜40mm セレーション 細歯・多枚数で高精度角度固定
平行キーで足りる場面:軸径φ20〜60mm・トルクが設計値の60%以下・摺動なし・量産品でコスト優先
スプラインが必要な場面:軸方向に摺動する・トルクが軸径に対して大きい・繰り返し衝撃負荷がある

平行キーの「片当たり」が起きるメカニズム

平行キーは、軸側キー溝とボス側キー溝の両方にキーが接触してトルクを伝えます。しかし、組立時にキー溝の中心線がわずかにずれていると、キーの側面のうち一方にしか荷重がかかりません。これが「片当たり」です。

片当たりが起きると、接触している片側に応力が集中し、キー溝の角部から亀裂が進展します。キー溝の底から軸を横断する方向に割れが入ると軸折損、ボス側のキー溝が広がると歯車やプーリーの交換が必要になります。

トラブル事例:平行キーの片当たりでキー溝が壊れた
状況減速機出力軸(φ45mm・S45C調質)にA型平行キーで歯車を固定。稼働1年後に歯車がガタつき始め、分解するとキー溝(軸側)の片側面が0.3mm以上塑性変形しており、キーがぐらついていた。
原因歯車のキー溝幅公差がJS9(±0.018mm)に対して、軸のキー溝がN9公差上限側で加工されていた。組立時のキャパシティが片当たりを生じさせ、繰り返し荷重で溝が摩耗・塑性変形した。
対策①軸・ボス双方のキー溝公差を図面に明記し、組立前にキー嵌合をブルーイング(当たり確認)で検査する。②トルクが大きい場合はキーを2個180°対称配置にして片当たりリスクを分散する。③根本的にはスプライン化でキー溝を廃止するのが最善。

スプラインとセレーションの加工・コストの現実

平行キー

汎用エンドミルで加工可能。軸側はキー溝フライス、ボス側はブローチまたはワイヤ放電。追加工具費ほぼゼロ。試作・小ロットに最適。

スプライン

軸側はホブ盤・転造・ブローチが必要。ボス側(内スプライン)はブローチが一般的で、専用ブローチの初期費用が数十万円単位になることも。量産で元を取る方式。

セレーション

転造加工で低コスト化できる場合がある。ただし内セレーション(ボス側)はブローチ依存。精密位置決めが必要な場合は研削仕上げが必要でコスト上昇。

試作・単品ならキー、量産・高負荷ならスプライン 試作・改造品・単品では平行キーが経済合理的です。ただしトルク余裕が小さい設計や摺動が必要な場合は、量産移行時にスプラインへ変更するとコストが跳ね上がります。設計初期にトルク余裕と摺動要件を確認し、スプライン採用を早い段階で判断することが重要です。

セレーションが活きる場面:角度位置決めの精度が必要なとき

カムシャフトのスプロケット・ステアリングホイール・サーボモータカップリングのように、「何度の位置で固定するか」が重要な箇所ではセレーションの細歯が有効です。例えばセレーション36枚(モジュール0.5)では360°÷36=10°ピッチで位置決めでき、これは平行キーの「1か所しか入らない」に比べて調整の自由度が格段に高くなります。

注意 セレーションは摺動を想定した設計ではありません。軸方向に繰り返し荷重がかかる用途(スラスト荷重・摺動)にセレーションを使うと歯面が摩耗し、早期にガタが発生します。摺動が必要ならスプラインを選んでください。
方式選定チェックリスト
  • 軸方向の摺動(スライド)が必要か → 必要ならスプライン一択
  • 伝達トルクは軸径に対して適切な余裕があるか(平行キーの許容トルクを計算したか)
  • 繰り返し衝撃荷重があるか → あればスプライン推奨(接触面積が大きく応力集中が小さい)
  • 角度位置決めが必要か → 必要ならセレーション
  • テーパー軸との組み合わせか → 半月キーを検討
  • 平行キーを選ぶ場合、軸・ボス双方のキー溝公差を図面に明記したか
  • 組立時にブルーイングで当たり確認を行う手順があるか

まとめ

  • 平行キー(JIS B 1301)は最も汎用的だが、片当たりによる溝損傷リスクがあり公差管理が重要
  • 半月キー(JIS B 1304)はテーパー軸・自己調心が必要な場面向き。大トルク用途には使わない
  • スプラインは大トルク・軸方向摺動の両立が必要な場合の最適解。初期コストは高い
  • セレーションは小径軸の角度位置決め専用。摺動には使わない
  • 試作単品なら平行キー、量産・高負荷・摺動ありならスプラインへの移行を設計初期に判断する

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