熱処理品の研削は「削って寸法を出す」だけでなく、「熱処理で得た表面品質を壊さない」という制約があります。研削条件が過酷すぎると研削焼けが起き、表面に過焼き戻し層または再焼き入れ層が生じます。これは目で見えません。研削後の外観に問題がなくても、表面硬さが低下し、引張残留応力が発生し、疲労強度が落ちています。適切な砥石・切込み・送り速度の選定と、定期的なナイタル腐食検査が熱処理品質を維持する条件です。
SKD11金型を切込み0.02mm/passで研削。高能率で仕上げようとしたが、研削後にナイタル腐食をかけたところ全面に暗い帯が現れた(過焼き戻し層)。表面硬さを測ると55HRCに低下していた。
ドレッシングをしないまま研削を続けた。砥粒が摩耗して切れ刃がなくなり、砥石がこすり付けるような加熱状態になり、局所的に過焼き戻しが発生した。
クーラントが部品に届いていない箇所(角部・溝部)で局所的に研削焼けが発生。部品全体の冷却が足りていても、デッドゾーンがあれば局所焼けは起きる。
研削焼けの2つのタイプ
研削焼けには発生する熱の強さと時間によって2つのタイプがあります。
| タイプ | 発生メカニズム | 外観 | 硬さの変化 | 残留応力 |
|---|---|---|---|---|
| 過焼き戻し型(ソルバイト化) | 研削熱がA₁変態点以下(150〜700℃)に達する | 茶〜濃茶色(ナイタル腐食で暗色) | 低下(焼き戻し軟化) | 引張(疲労に悪影響) |
| 再焼き入れ型(白層形成) | 研削熱がA₁変態点以上(750℃超)に達し急冷される | 白色帯(ナイタル腐食で白く残る) | 表面が再硬化(下層は軟化) | 圧縮(白層自体は脆性大) |
どちらのタイプも疲労強度の低下・寸法変化・割れリスクをもたらします。再焼き入れ型は外観が白く見えるため目立ちますが、下層の軟化層が脆い点で危険です。
焼き入れ鋼向けの砥石選定
| 砥石種類 | 特徴 | 適用鋼種 | 研削焼けリスク |
|---|---|---|---|
| WA(白アランダム)砥石 | アルミナ系。自生作用が高く切れ味が持続する。熱処理鋼の標準的な選択 | 工具鋼・合金鋼全般 | 低〜中(条件次第) |
| CBN(立方晶窒化ホウ素)砥石 | 高硬度・高熱伝導率。長寿命で焼けにくい。コストは高い | SKD11・SKH51等の高硬度工具鋼 | 低 |
| A(アランダム)砥石 | 自生作用が弱く目詰まりしやすい。熱処理鋼には向かない | 軟鋼・アルミ等 | 高 |
| GC(グリーンカーボランダム) | 超硬合金向け。鋼材には向かない | 超硬合金・セラミック | 高(鋼への使用は不適切) |
切込み・送り速度の目安
熱処理品(58〜62HRC)の研削条件は、通常の鋼より慎重な設定が必要です。
| 条件 | 仕上げ研削(Ra0.4以下) | 荒研削 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 切込み深さ | 0.002〜0.005mm/pass | 0.01〜0.02mm/pass | 切込み過大が最大の焼けリスク |
| テーブル送り速度 | 5〜10m/min | 10〜20m/min | 遅すぎる送りは同一箇所への加熱時間増加 |
| 砥石周速 | 25〜35m/s | 25〜35m/s | 過高速は発熱増大 |
| クーラント流量 | 20L/min以上(研削点直接供給) | 同左 | デッドゾーンなくクーラントを届ける |
ドレッシングの重要性
砥石の目詰まり(グレージング)は研削焼けの直接原因になります。砥粒が摩耗して切れ刃がなくなると、砥石が削るのではなく「こすり付ける」状態になり急激に発熱します。定期的なドレッシング(ダイヤモンドドレッサーで砥石表面を修正)が、安定した研削条件の前提です。
目安:荒研削後・砥石交換後・加工中に研削力の増大や音の変化を感じたとき——のタイミングでドレッシングを実施します。
- 熱処理鋼(55HRC以上)にWAまたはCBN砥石を使用しているか(A砥石は不可)
- 仕上げ研削の切込みを0.005mm/pass以下に設定しているか
- クーラントが研削点に確実に届いているか(デッドゾーンがないか)確認したか
- 砥石のドレッシングを荒研削後・定期的に実施しているか
- 重要部品はナイタル腐食検査で研削焼けの有無を確認しているか
- 研削後の硬さが要求値を満たしているか抜き取り測定したか
まとめ
- 研削焼けは目に見えない——ナイタル腐食検査で初めて確認できる
- 切込み過大が最大の原因——仕上げ研削は0.003〜0.005mm/passが目安
- 工具鋼・高硬度材にはWA砥石またはCBN砥石——A砥石は目詰まりして発熱しやすい
- 砥石の定期ドレッシングは研削焼け防止の前提条件——目詰まり砥石は「こすり付け」状態になる


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