締め付けたボルトが数時間〜数日後に突然折れる——これが水素脆化による遅れ破壊です。破断面にはほとんど変形がなく、一見して原因がわかりにくいのが厄介なところです。高強度ボルトを使う設計者・施工管理者にとって、水素脆化は知っておかなければならない重要なリスクです。
水素脆化とは何か
水素脆化とは、金属中に侵入した水素原子が金属の靱性を著しく低下させ、本来の強度より低い応力で脆性的に破断する現象です。「脆化」とある通り、材料そのものは変わらないのに伸びや変形なしに突然割れるのが特徴です。
水素はどこから来るのか
ボルトの水素脆化で問題になる水素の侵入経路は主に2つです。
酸洗い(スケール除去)やめっき処理(電気めっき)の際に水素が発生し、鋼中に侵入します。これが「水素脆化 製造起因」で、処理後のベーキング(加熱脱水素)で対処します。
腐食環境・カソード防食電流・水素を発生させる化学環境にさらされることで、使用中に水素が侵入し続けます。これが「遅れ破壊」で、材料選定と設計で対処します。
高強度ボルトほど危ない理由
水素脆化のリスクは材料の強度が高いほど上がります。これは高強度材料ほど水素による脆化感受性が高く、また高い締め付け応力がかかるためです。
| 強度区分(JIS B 1051) | 引張強さ目安 | 水素脆化リスク | 備考 |
|---|---|---|---|
| 4.6 / 6.8 | 400〜600 MPa | 低 | 一般締結用。水素脆化はほぼ問題にならない |
| 8.8 | 800 MPa以上 | 中 | 注意が必要な境界クラス |
| 10.9 | 1040 MPa以上 | 高 | 電気めっき時のベーキングが必須 |
| 12.9 | 1220 MPa以上 | 非常に高 | 電気めっき禁止が推奨。機械式亜鉛めっきか無電解めっきを使う |
めっき処理と水素脆化の関係
電気めっき(電気亜鉛めっき・電気ニッケルめっき等)では、電気分解の副反応として水素が発生し、その一部が鋼中に侵入します。この「水素チャージ」が水素脆化の直接原因になります。
ベーキング処理(水素脆化除去処理)
めっき後に加熱(ベーキング)することで鋼中に侵入した水素を放出させます。JIS B 1044では強度区分10.9以上のボルトへの電気めっき後ベーキングとして、190〜220℃×4時間以上が規定されています。ただし、ベーキングが遅れると水素が深く拡散してしまい効果が下がります。めっき後4時間以内のベーキング開始が推奨されます。
現場での水素脆化トラブル事例
水素脆化を防ぐための設計・調達チェックポイント
- 強度区分10.9以上のボルトに電気めっきを指定していない
- 10.9以上に電気めっきを使う場合、ベーキング条件(190〜220℃×4h以上)を仕様書に明記した
- 強度区分12.9には電気めっきを避け、機械式亜鉛めっき・無電解めっき・フレーク系コーティングを選んだ
- 腐食・酸性・カソード防食環境で高強度ボルトを使う場合、環境誘起水素脆化を評価した
- 破断面が変形なしに平坦な場合、水素脆化を疑って原因調査を行う
- 納入時のミルシートでベーキング処理の実施を確認した
まとめ
- 水素脆化は「金属中の水素が靱性を下げ、低応力で脆性破断を起こす現象」で、遅れ破壊として時間差で発生する
- 強度区分10.9以上で電気めっきを使う場合は190〜220℃×4時間以上のベーキングが必要
- 強度区分12.9への電気めっきは原則禁止。フレーク系・機械式めっきを選ぶ
- 腐食・酸性環境では使用中の水素侵入(環境誘起)も考慮した材料選定が必要
- 破断面に変形がない場合は水素脆化を第一に疑う

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