脆性破面の種類と読み方:劈開破面と粒界破面が示す危険な破壊モード

金属のトラブル

脆性破断は塑性変形をほとんど伴わずに突然発生する最も危険な破壊モードです。破面には劈開(へきかい)破面と粒界破面の2種類があり、それぞれ異なる脆化メカニズムを示します。形態の違いを正確に読むことが再発防止の出発点になります。

脆性破面の2分類

脆性破断の破面は、亀裂が結晶粒をどのように通過したかで2種類に分類されます。

種類亀裂経路外観の特徴主な原因
劈開破面(transgranular)結晶粒内を通過(特定の結晶面に沿う)リバーマーク・ファセット・光沢平坦面低温脆化・衝撃荷重・BCC金属
粒界破面(intergranular)結晶粒界に沿って進展岩石状(ロック・キャンディ)模様・多面体粒形状水素脆化・焼戻し脆性・粒界腐食・高温粒界脆化

劈開破面の特徴とリバーマーク

劈開破面は結晶学的に定まった特定の劈開面(BCCならば{100}面)に沿って亀裂が進展した破面です。結晶粒ごとに劈開面の向きが異なるため、粒界を越えるたびに亀裂面がわずかにずれ、その段差が合流してリバーマーク(river marks)と呼ばれる川筋状のパターンを形成します。

劈開破面:リバーマーク 亀裂は右→左へ進展 起点方向 粒界 (段差で合流) 粒レベルの劈開面 粒ごとに劈開面の向きが異なる 粒1 粒2 段差 ↑リバーマーク起点 粒3 粒4 図1:リバーマーク(左)と粒レベルの劈開面(右)の模式図
図1:劈開破面の模式図。リバーマーク(川筋)は亀裂起点方向に収束する。粒界での劈開面の向きのずれが段差を生み、合流してリバーマークになる。
リバーマークの重要な読み方ルール リバーマーク(川筋)の流れをさかのぼると亀裂の起点方向に達します。川の上流が起点方向です。複数の破断部品がある場合、各部品のリバーマークを追うことで亀裂発生源を特定できます。

劈開破面が現れやすい条件

  • BCC(体心立方)構造の金属:鉄鋼(フェライト)、クロム、モリブデンなど。FCC金属(オーステナイト系ステンレス・アルミ・銅)では劈開は起きにくい。
  • 低温環境:鉄鋼のDBTT(延性-脆性遷移温度)以下での使用。SS400などの炭素鋼は−20℃付近でDBTTをもつ材料が多い。
  • 高ひずみ速度(衝撃):シャルピー衝撃試験の低温域破面が典型例。

粒界破面の特徴

粒界破面は亀裂が結晶粒界に沿って進展した破面です。SEMで観察すると多面体の粒形状がそのまま見え、「岩石状(ロック・キャンディ)模様」と呼ばれる特徴的な外観を示します。延性ディンプルも劈開リバーマークも見られないのが粒界破面の特徴です。

粒界破面(岩石状模様) 多面体粒形状が露出(岩石状・ロックキャンディ模様) 粒界破面の発生メカニズム 粒界偏析・水素・腐食生成物 ↑粒界に 沿う亀裂 図2:粒界破面の外観(左)と粒界脆化メカニズム(右)
図2:粒界破面。粒界に偏析・水素・腐食生成物が集積すると粒界強度が低下し、亀裂が粒界に沿って進展する。

粒界破面の主な原因

原因メカニズム材料・条件
水素脆化(HE)粒界に水素が集積し粒界強度を低下させる高強度鋼(1000MPa以上)、めっき後ベーキング不足、酸洗後
焼戻し脆性350〜550℃焼戻し域でP・Sb・Snが粒界偏析Cr-Mo鋼・Cr-Mo-V鋼、焼戻し温度管理ミス
応力腐食割れ(SCC)粒界腐食+引張残留応力の複合オーステナイト系SUS(鋭敏化)、黄銅(アンモニア環境)
高温粒界脆化高温での粒界析出・溶融(液相脆化)1300℃以上の加熱、銅汚染など
過焼入れ・過時効過度の熱処理による粒界析出・粗大化合金鋼、アルミ合金

劈開破面と粒界破面の見分け方

観察項目劈開破面粒界破面
SEM低倍率(×100〜×500)平坦・光沢のある平面(ファセット)が多数多面体・岩石状の凸凹した粒形状
特徴的なマークリバーマーク(収束する川筋)特定のマークなし(平滑な粒面)
亀裂経路粒内(結晶面に沿う)粒界に沿う
EDX分析母材と同組成P・S・H・腐食元素の偏析が検出される場合あり
粒界破面による高強度ボルトの遅れ破壊
状況1200MPa級の高強度ボルト(SCM440相当、42HRC)が締結後2〜3日で破断。破面全体に岩石状の粒界破面を確認。劈開もディンプルも見られない。
原因めっき(電気亜鉛めっき)後のベーキング処理(200℃×24h)が省略されており、水素がボルト内部に残存。締結後の引張応力と残存水素が組み合わさり粒界破壊(遅れ破壊)が発生。
対策めっき後ベーキングの徹底(190〜220℃×24h以上)。1000MPa超の高強度ボルトへの電気めっき適用を再検討し、ダクロダイズド処理に変更。
水素脆化への注意 高強度鋼(引張強さ1000MPa以上、硬さ30HRC以上が目安)は水素脆化リスクが急上昇します。電気めっき・酸洗・溶接・腐食環境での使用では粒界破面による遅れ破壊を常に念頭に置く必要があります。粒界破面を確認したら、即座に水素脆化の可能性を検討してください。

まとめ

  • 脆性破面は劈開(粒内)と粒界の2種類。亀裂が粒を割るか粒界を通るかが違いの本質。
  • 劈開破面→リバーマーク。収束方向が亀裂起点。BCC金属・低温・衝撃で発生しやすい。
  • 粒界破面→岩石状模様。水素脆化・焼戻し脆性・SCCなど粒界を弱化させる要因を調査する。
  • 高強度鋼の粒界破面は水素脆化(遅れ破壊)を最初に疑う。EDX・SIMS分析が有効。
  • 脆性破面全般に共通するのは「変形なしに突然破断」。塑性変形の有無が最初の判断基準。

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