「なぜこの冷却速度ではマルテンサイトが得られないのか」「ベイナイトはどの温度域で生まれるのか」——これらへの答えはTTT線図とCCT線図に書いてあります。TTT線図(恒温変態図)は「ある温度で保持し続けたときに何が起きるか」、CCT線図(連続冷却変態図)は「ある冷却速度で冷やしたときに何が起きるか」を示します。2つは似ていますが別物で、実際の焼き入れ操作はCCT線図で考えるのが正しい。線図の読み方を理解すると、鋼種の選定・冷却媒体の選択・焼入性の解釈が格段に具体化します。
| 項目 | TTT線図 | CCT線図 |
|---|---|---|
| 正式名称 | 恒温変態図(Time-Temperature-Transformation) | 連続冷却変態図(Continuous Cooling Transformation) |
| 横軸 | 時間(対数スケール) | 時間(対数スケール) |
| 縦軸 | 温度(℃) | 温度(℃) |
| 想定する冷却 | ある温度で保持し続ける(等温) | 連続的に冷却する(実際の焼き入れに対応) |
| 実務での使い方 | オーステンパー・マルテンパーの等温処理設計 | 焼き入れ冷却媒体の選定・焼入性の評価 |
| 位置関係 | — | C曲線がTTTより右(時間が長い側)にシフト |
TTT線図の構成と読み方
C曲線(S曲線)
TTT線図の特徴的な形状はC字型(またはS字型)の曲線です。「変態開始線」と「変態終了線」の2本で構成され、横軸は対数スケールです。
C曲線の最も左に突き出た部分を「鼻(ノーズ)」と呼びます。鼻の位置は「最も変態が速い温度」を示し、鼻が左(短時間)にあるほどその温度で変態が早く始まります。
図1 TTT線図(模式図:亜共析鋼・S45C相当材)
A1変態点〜約550℃。炭素の拡散速度が高く、フェライトとパーライトが生成する。鼻の上部にあたり、比較的短時間で変態が始まる。
約250〜550℃。ここで等温保持するとベイナイトが生成する。上部ベイナイト(高温側)と下部ベイナイト(低温側)に分かれる。オーステンパー処理はこの温度域を利用する。
C曲線の下に水平線として表示される。Ms:マルテンサイト変態開始温度。Mf:変態完了温度。等温保持ではなく、冷却速度(連続冷却)によって変態する。
TTT線図の読み方:等温操作の場合
「オーステナイト化後に350℃で保持し続けたとき」という操作をTTT線図で考えます(図1の橙色の線)。350℃の水平線が変態開始線と交わる時間からベイナイト変態が始まり、変態終了線と交わる時間で完了します。これがオーステンパーの原理です。
CCT線図の構成と読み方
実際の焼き入れは、オーステナイト化温度から連続的に冷却します。この連続冷却に対応した変態図がCCT線図です。TTT線図と形状は似ていますが、曲線が右(長時間側)にシフトしており、冷却速度を変えたときの組織変化を直接読み取れます。
CCT線図に「冷却曲線」を重ねると、その冷却で得られる組織がわかります(図2)。冷却曲線がC曲線を横切るか否かが組織を決定します。
図2 CCT線図と冷却曲線(模式図:S45C相当材)
| 冷却方法 | C曲線との関係 | 得られる組織 |
|---|---|---|
| 水冷(急冷) | C曲線を横切らずにMs点以下へ | マルテンサイト |
| 油冷(中程度) | C曲線の右端をかすめる、または横切らない | マルテンサイト主体(材料による) |
| 空冷(徐冷) | C曲線を完全に横切る | パーライト、またはベイナイト |
C曲線の位置と焼入性の関係
C曲線の鼻が左(短時間)にあるほど、臨界冷却速度が速い=焼入性が低い材料です。鼻が右(長時間)にシフトするほど、ゆっくり冷やしてもマルテンサイトが得られる=焼入性が高い材料です。図3に3鋼種の比較を示します。
図3 鋼種別CCT曲線(変態開始線のみ)の比較——鼻の位置が焼入性の指標
| 材料 | C曲線の鼻の位置(目安) | 焼入性 | 適した冷却媒体 |
|---|---|---|---|
| S45C | 約1秒以内(鼻が左寄り) | 低 | 水冷(小断面のみ) |
| SCM440 | 約10〜100秒(鼻が右にシフト) | 中〜高 | 油冷 |
| SKD11 | 数百秒以上(鼻が非常に右) | 非常に高 | 空冷も可 |
これがJominy試験の結果と対応します。C曲線の鼻が右にある材料は、Jominy曲線がフラットになる=大断面でも芯部まで硬化できます。
Ms点とMf点の実務的な意味
Ms点(マルテンサイト変態開始温度)とMf点(変態完了温度)は材料ごとに異なります。Mf点が室温より低い材料では、室温まで冷やしても変態が完了せず、残留オーステナイトが生まれます(→A-01参照)。
| 材料 | Ms点(目安) | Mf点(目安) | 残留オーステナイト(室温冷却後) |
|---|---|---|---|
| S45C | 約350℃ | 約250℃(室温以上) | ほぼなし |
| SUJ2 | 約230℃ | 約−30〜−50℃ | 10〜20% |
| SKD11 | 約220℃ | 約−100〜−120℃ | 15〜25% |
| SKH51 | 約180℃ | 約−80〜−100℃ | 20〜30% |
TTT・CCT線図を使いこなす実務ポイント
- 縦軸は温度(℃)、横軸は時間(秒・対数スケール)であることを確認する
- TTT線図か、CCT線図かを区別する(形状が似ているため混同しやすい)
- 線図は特定の化学成分・オーステナイト化条件(温度・保持時間)に対応していることを確認する
- C曲線の鼻の位置で、その材料がどの冷却速度に対応できるかを読む
- Ms点・Mf点を確認し、Mf点が室温より低い場合は残留オーステナイトのリスクを評価する
まとめ
- TTT線図は等温変態(ある温度で保持したときの変態)、CCT線図は連続冷却変態(実際の焼き入れ操作)を示す
- C曲線の「鼻」の位置が臨界冷却速度の目安——鼻が右にシフトするほど焼入性が高い
- CCT線図に冷却曲線を重ねることで、水冷・油冷・空冷それぞれで得られる組織を予測できる
- Mf点が室温より低い材料は室温冷却で残留オーステナイトが残る——サブゼロ処理が必要な根拠
- TTT線図はオーステンパー・マルテンパーなど等温処理の時間設計に使う

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