浸炭深さ(ECD: Effective Case Depth)と高周波焼き入れの参照浸透深さを、ブラウザ上で素早く試算できるツールです。設計段階での工程検討、熱処理業者への問い合わせ前の事前確認にお使いください。計算値はあくまで目安です——最終的な硬化層深さは切断・硬さ測定による実測で確認してください。
計算ツール
計算式と根拠
浸炭深さの計算原理
ガス浸炭・真空浸炭における有効硬化層深さ(ECD:550HVに相当する深さ)は、炭素の固体拡散によって形成されます。拡散は温度と時間に依存し、実務的には次の放物則で近似されます。
計算式(ガス浸炭経験則)ECD ≈ K × √t
K:温度依存係数(mm/√h)、t:浸炭時間(h)
K:温度依存係数(mm/√h)、t:浸炭時間(h)
| 浸炭温度 | K値(目安) | 5h浸炭のECD目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 880°C | 0.30 | 0.67 mm | 浸炭変形を嫌う精密部品向け |
| 900°C | 0.35 | 0.78 mm | 標準的な量産浸炭 |
| 920°C | 0.40 | 0.89 mm | 最も多く使われる温度域 |
| 940°C | 0.45 | 1.01 mm | 深い層深さが必要な場合 |
| 960°C | 0.52 | 1.16 mm | 高速浸炭(真空炉対応) |
K値は鋼種・炭素ポテンシャル・雰囲気組成・焼き戻し温度によって変動します。本ツールの計算結果は±20%の誤差範囲で使用してください。
高周波焼き入れの浸透深さ
高周波誘導加熱では、電流は導体表面に集中します(表皮効果)。参照浸透深さ(スキン深さ)δは次式で求められます。
スキン深さの計算式δ = 503 × √(ρ / (μr × f))
ρ:比抵抗(Ω·m)、μr:比透磁率、f:周波数(Hz)
鋼材の目安値:ρ ≈ 1.5×10⁻⁷ Ω·m、μr ≈ 100
ρ:比抵抗(Ω·m)、μr:比透磁率、f:周波数(Hz)
鋼材の目安値:ρ ≈ 1.5×10⁻⁷ Ω·m、μr ≈ 100
重要な注意スキン深さは電磁気的な参照値であり、実際の硬化深さとは異なります。実際の硬化深さは投入電力・加熱時間・冷却速度・材料の熱的性質に依存します。実用硬化深さはスキン深さの1.5〜3倍程度になることが多いですが、パラメータ最適化による実測確認が必須です。
| 周波数 | スキン深さ目安 | 実用硬化深さ目安 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 250 Hz | 1.2 mm | 3〜10 mm | 大型クランク・シャフト(深層硬化) |
| 1 kHz | 0.62 mm | 2〜5 mm | 大径シャフト・大型歯車 |
| 10 kHz | 0.20 mm | 0.8〜2.5 mm | 一般軸・平面・歯面硬化 |
| 100 kHz | 0.06 mm | 0.2〜0.8 mm | 小型部品・表面硬化 |
| 200 kHz | 0.04 mm | 0.1〜0.4 mm | 精密部品・薄層硬化 |
計算値を正しく使うための注意事項
鋼種の影響
浸炭深さの計算値はSCM415・SCM420・SNCMなどの合金鋼を想定しています。高Cr工具鋼(SKD)では炭化物の析出挙動が異なり、K値が大きくずれます。
焼き戻し後のECDシフト
浸炭後の焼き戻しによりECDは若干変化します(浸炭まま→焼き戻しで硬さ分布が変わるため)。焼き戻し温度が高いほど硬さ550HVの深さが変わります。
実測との照合
量産前には必ずテストピースで実際の硬化層深さを測定してください。切断・研磨後、硬さ測定(HV 0.1〜0.3)で500µmピッチのプロファイルを取得します。
浸炭深さ設計のチェックリスト
- 要求ECD(図面指示値)を確認したか。JIS B 0699に基づく「有効硬化層深さ」の定義(550HV相当)が前提か
- 浸炭後の焼き入れ・焼き戻し条件(温度・時間)を業者と合わせているか
- 計算ECDと実測ECDを照合し、そのロットのK値補正係数を記録しているか
- 高周波の場合:コイル設計・電力密度・加熱時間の変更で硬化深さが変わることを認識しているか
- 防炭・防窒が必要な部位の指示を図面に記載したか
まとめ
- 浸炭深さの目安はECD ≈ K × √t で計算できる。920°Cでは K ≈ 0.40 mm/√h
- 高周波のスキン深さはδ ≈ 0.62/√(f_kHz) mm。実際の硬化深さはその1.5〜3倍
- 計算値は設計・見積もりの参考用。量産前は必ず実測で確認する
- 鋼種・雰囲気・焼き戻し条件でK値は±20%変動する


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