熱処理に関わるJIS規格の読み方──図面・発注・検査で使う規格一覧

金属の知識

「浸炭層深さ0.5mm」と図面に書いても、JIS規格の測定方法に基づかない記入は業者ごとに解釈が分かれます。有効硬化層深さ(Eht)か全硬化層深さ(Ds)かで処理条件が変わり、検査の合否基準も変わります。熱処理に関わるJIS規格を知ることは「図面に何を書くか」「発注仕様書に何を記載するか」「受入検査で何を測るか」の共通言語を持つことです。

詰まる場面① 層深さの用語不統一

「浸炭深さ0.5mm」と指示した図面。業者はDsで0.5mmを達成したと報告。発注側はEhtで0.5mmを期待していた。JIS G 0557の用語を使えば解釈の差は生じない。

詰まる場面② 鋼種規格番号の確認

「SCM440」と書いたが、輸入材の場合JIS規格と同等でないことがある。JIS G 4053の規格番号を記入することで成分保証の根拠が明確になる。

詰まる場面③ 硬さ試験規格の未記載

「HV測定で600以上」という仕様。JIS Z 2244の試験荷重を指定していないため、業者ごとに荷重が異なり測定値が変わった。

熱処理品質に関わる主要JIS規格

JIS番号名称内容使う場面
JIS G 0557鋼の浸炭硬化層深さ測定方法Eht(有効硬化層深さ)・Ds(全硬化層深さ)の定義と測定方法浸炭焼き入れ品の層深さ指示・受入検査
JIS G 0562鋼の窒化層深さ測定方法NHD(窒化層深さ)の定義と硬さ測定による測定方法窒化処理品の層深さ指示・受入検査
JIS G 0559鋼の高周波焼入硬化層深さ測定方法SHD(高周波焼入硬化層深さ)の定義と測定方法高周波焼き入れ品の層深さ指示・受入検査
JIS Z 2245ロックウェル硬さ試験HRC・HRB等の試験方法・スケール・荷重工具鋼・焼き入れ鋼の表面硬さ測定・図面指示
JIS Z 2244ビッカース硬さ試験HVの試験方法・荷重の指定・圧痕間隔浸炭層・窒化層の断面硬さ分布測定
JIS Z 2243ブリネル硬さ試験HBWの試験方法・圧子・荷重鋳物・鍛造素材・大断面材の硬さ
JIS G 4404合金工具鋼鋼材SKD11・SKH51等の成分・機械的性質工具鋼の鋼種選定・ミルシート確認
JIS G 4053機械構造用合金鋼鋼材SCM440・SCM415等の成分・機械的性質構造用合金鋼の鋼種選定・ミルシート確認
JIS G 4051機械構造用炭素鋼鋼材S45C・S35C等の成分・機械的性質炭素鋼の鋼種選定

JIS G 0557(浸炭硬化層深さ)の読み方

最も混乱が多いのが浸炭層深さの用語です。JIS G 0557では2種類の深さが定義されています。

有効硬化層深さ(Eht):表面から「限界硬さ(通常550HV)」に達する深さ。実際の強度発揮に有効な層の深さ。図面指示で「Eht 0.3〜0.5mm」と記入します。

全硬化層深さ(Ds):表面から「心部硬さ+50HV」に達する深さ。浸炭の影響が及んでいる総深さ。Dsは常にEhtより深くなります。

EhtはDsより浅い。「Ds 0.5mm」と指示すると「Eht 0.5mm」より実際の処理が浅くなる。どちらで指示するかを明確にすることが不可欠。
浸炭硬化層の硬さ分布(Eht と Ds の関係) 300 400 500 600 700 0 0.5 1.0 1.5 表面からの深さ(mm) 硬さ(HV) 限界硬さ 550 HV 心部+50 HV 330 HV 心部 280 HV Eht = 0.5 mm Ds = 0.9 mm (常に Eht より深い)
図1 硬さ分布曲線で見るEhtとDsの違い。同じ「0.5mm」という数字でもDsで指示するとEhtより深い処理が必要になる。

JIS G 0562(窒化層深さ)の読み方

JIS G 0562は窒化層深さ(NHD)を「硬さ分布曲線が心部硬さ+30HVになる深さ」と定義しています。また化合物層(白層)の深さも別途規定しており、精密部品では化合物層の除去指示が必要な場合があります。

硬さ試験規格(JIS Z 2244・2245)の使い方

図面やQC仕様書で硬さを指示するときは、JIS規格番号と試験荷重を明示します。特にビッカース硬さはHV 1(荷重1kgf)からHV 50(50kgf)まで荷重が異なると測定値が変わります。

記入例:「表面硬さ:HV 30(JIS Z 2244)600以上」——荷重を明示することで測定条件の差を排除します。

規格用語定義図面記入例
Eht(有効硬化層深さ)表面から550HVまでの深さ(浸炭)Eht 0.3〜0.5mm
Ds(全硬化層深さ)表面から心部+50HVまでの深さ(浸炭)Ds max 0.8mm
NHD(窒化層深さ)表面から心部+30HVまでの深さ(窒化)NHD 0.1〜0.2mm
SHD(高周波硬化層深さ)表面から限界硬さ(材料依存)までの深さSHD 1.0〜2.0mm
EhtとDsの混同で処理条件不一致
状況歯車の浸炭深さを「0.5mm」とのみ図面記入。業者AはDsで0.5mmを達成。業者BはEhtで0.5mmを達成。同一図面から2つの処理結果が生まれ、業者交代時に品質差が発生した。
原因JIS G 0557の用語を使わず数値のみ記入していたため、業者によって解釈が異なった。DsとEhtの差はDsの方が15〜30%程度深いことが多く、処理時間・コストが異なる。
対策図面を「Eht 0.4〜0.6mm(JIS G 0557準拠)」に改訂。全業者に同一の用語と測定方法を指定し、受入検査でも断面Eht測定を実施するルールに変更。
JIS規格活用 チェックリスト
  • 浸炭層深さの指示にJIS G 0557の用語(Eht・Ds)を使用しているか
  • 窒化層深さの指示にJIS G 0562の用語(NHD)を使用しているか
  • 高周波焼き入れ層深さの指示にJIS G 0559の用語(SHD)を使用しているか
  • ビッカース硬さ指示にはJIS Z 2244の試験荷重を明示しているか
  • 鋼種記号にJIS規格番号(JIS G 4404・4053等)を付記しているか

まとめ

  • 浸炭層深さはEht(有効硬化層)かDs(全硬化層)かを明示する——EhtはDsより浅い
  • JIS規格の用語(Eht・Ds・NHD・SHD)を図面と発注仕様書に使用することで業者間の解釈差をなくす
  • ビッカース硬さ指示には試験荷重を明示する——荷重で測定値が変わる
  • 鋼種記号にはJIS番号を付記することで輸入材との成分差をトレースできる

コメント