「焼入れ材の硬さがHRC55って書いてあるけど、HVだとどのくらい?」「ブリネル200HBWの引張強さは何MPa相当?」——金属材料の現場で日常的に直面する硬さ換算を、入力値から一発で出すツールを作りました。鋼材を対象とした標準換算表(ASTM E140/JIS Z 2245準拠相当)に基づき、HRC・HV・HBW・HRB・引張強さ(TS)の5種類を相互変換します。
なぜ「硬さの単位」がこんなに多いのか
金属の硬さ試験には、用途や被測定物に応じて複数の試験法が使い分けられています。それぞれの試験法は測定原理が異なるため、結果の単位(HRC・HBW・HV・HRBなど)も別々で、直接比較できません。だから「換算」が必要になります。
| 試験法 | 記号 | 圧子 | 主な測定範囲 | 主な対象 |
|---|---|---|---|---|
| ロックウェル硬さC | HRC | ダイヤモンド円錐(120°) | 20〜70HRC | 焼入れ鋼・工具鋼・浸炭硬化層 |
| ロックウェル硬さB | HRB | 鋼球(1/16インチ) | 30〜100HRB | 軟鋼・銅合金・アルミ合金 |
| ビッカース硬さ | HV | ダイヤモンド四角錐(136°) | 5〜3,000HV | あらゆる金属。薄板・コーティング・微小部 |
| ブリネル硬さ | HBW | 超硬球(10mm標準) | 50〜650HBW | 鋳鉄・大型鋼材・組織が粗い材料 |
| ショア硬さ | HS | ダイヤモンドハンマー(衝撃) | — | 大型部品・現場測定(携帯型) |
換算が「使える条件」と「使えない条件」
- オーステナイト系ステンレス(SUS304等):加工硬化があり鋼材換算より低めに出る傾向
- 非鉄金属(アルミ・銅・チタン):別の換算表(材料別)が必要
- 浸炭硬化層・窒化層・コーティング層:マトリクス材料との影響で誤差大
- 引張強さ換算:あくまで近似(HBW × 約3.3 ≒ TS〔MPa〕の経験式に基づく)
硬さの簡易換算式(暗算用)
暗算でざっくり当たりをつけたいときに使う関係式です。あくまで「概算」で、設計値には換算表を使います。
| 関係 | 近似式(鋼材) | 備考 |
|---|---|---|
| HBW → TS | TS〔MPa〕 ≒ HBW × 3.3 | 炭素鋼の経験式。HBW 100〜400で精度が高い。 |
| HV → HBW | HBW ≒ HV × 0.95(HV 500以下) | HV 500を超えると圧子変形で乖離が大きい。 |
| HRC → HV | HV ≒ HRC × 10 + 100(HRC 30〜60) | あくまで暗算用の目安。換算表を使うのが基本。 |
硬さ換算の標準表(鋼材)
ツールが使う元データの抜粋です。完全な換算は上のツールで行えます。
| HRC | HV | HBW | HRB | TS〔MPa〕 |
|---|---|---|---|---|
| 65 | 832 | — | — | — |
| 60 | 697 | — | — | 2,255 |
| 55 | 595 | — | — | 1,890 |
| 50 | 513 | — | — | 1,650 |
| 45 | 446 | 421 | — | 1,455 |
| 40 | 392 | 371 | — | 1,289 |
| 35 | 345 | 327 | — | 1,148 |
| 30 | 302 | 286 | — | 1,007 |
| 25 | 266 | 253 | — | 889 |
| 20 | 238 | 226 | 99 | 800 |
| — | 199 | 190 | 92 | 670 |
| — | 171 | 163 | 83 | 588 |
| — | 148 | 142 | 75 | 510 |
| — | 132 | 126 | 68 | 451 |
| — | 117 | 112 | 60 | 401 |
| — | 100 | 95 | 50 | 336 |
使い分けの実務的なポイント
SKD11・SKH51・SUJ2など工具鋼・軸受鋼の硬さチェックはHRC一択。HRC58〜62、HRC60〜64といった指定が標準。HRC30未満では精度が落ちるため、その範囲ではHVまたはHRBを使う。
圧痕が小さく荷重を細かく選べるため、薄板・浸炭硬化層プロファイル・PVDコーティング上の硬さ測定にはHVが標準。微小硬さ試験(HV 0.1・HV 0.5)も可能。
鋳鉄FCD450(180〜220HBW指定)など、組織が粗くマクロな硬さを測りたい用途で使う。圧痕が大きい(直径3〜6mm)ため平均化される。
SS400・銅合金・アルミ合金など、HRC範囲外の硬さ評価に使う。HRB 100付近がHRCの下限(HRC 20〜22程度)と重なる。
「換算したのに値が合わない」典型トラブル
- 対象材料が鋼材か非鉄金属かを確認した(鋼材以外は別表が必要)
- 測定範囲が試験法の有効範囲内か確認した(例:HRCはHRC 20以上)
- 図面指定に使う場合は換算値ではなく実測値で管理することを徹底した
- 引張強さ換算は概算値であり、保証値として使わないことを確認した
- 浸炭・窒化・コーティング層はHV微小硬さで評価することを規定した
まとめ
- 硬さ換算ツールはHRC・HV・HBW・HRB・引張強さの5値を相互変換する。鋼材ベースで日常の概算に十分使える精度。
- HRCは焼入れ鋼、HBWは鋳鉄・大型品、HVは薄板・コーティング、HRBは軟鋼・非鉄金属が得意領域。
- SUS・アルミ・銅などの非鉄金属、浸炭硬化層、コーティング上の硬さは標準換算表の対象外。誤差を理解して使う。
- 引張強さ換算は経験式(TS ≒ HBW × 3.3)の延長で、保証値ではなく目安。設計値には実測引張試験を用いる。
- 図面指定は実測する試験法の値で行うのが原則。換算で読み替えた値で品質判定すると不一致が発生しやすい。

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