熱膨張係数をやさしく解説:異材接合・精密機械で材料選定が変わる理由

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「アルミ部品にスチールボルトを締めると温度変化でゆるむ」「SUS304とS45Cを溶接したら割れた」——この種のトラブルの多くは、材料ごとに異なる熱膨張係数(CTE)の差を見落としたことが原因です。熱膨張係数は「温度が1℃上がったとき、材料がどれだけ伸びるか」を示す値です。この記事では、主要金属の熱膨張係数一覧・計算方法・異材接合での実務上の注意点まで解説します。

熱膨張係数とは何か——単位と計算式

熱膨張係数(線膨張係数)は記号 α(アルファ)で表され、単位は ×10⁻⁶/K(または ppm/K)です。「1メートルの材料が1℃温度変化したとき、何マイクロメートル伸び縮みするか」を示します。

熱膨張の計算式 ΔL = α × L₀ × ΔT
ΔL:変形量(mm) α:線膨張係数(×10⁻⁶/K) L₀:元の長さ(mm) ΔT:温度変化(℃)

例:S45C(α = 11.7)の100mm部品が20℃→80℃(ΔT = 60℃)になった場合
ΔL = 11.7 × 10⁻⁶ × 100 × 60 = 0.070mm(片側)

0.07mmという数値は、公差±0.05mmの精密加工部品では無視できない大きさです。熱膨張係数を設計に組み込まないと、常温では問題なくても使用環境で寸法が狂います。

主要金属材料の熱膨張係数一覧

材料線膨張係数 α(×10⁻⁶/K)備考
インバー(Fe-36Ni)1.2超低膨張合金。精密測定器・光学機器
タングステン4.5高融点金属中でも膨張が小さい
チタン(純)8.6鉄より小さく、軽量で精密用途向き
SUS430(フェライト系)10.4ステンレス中で最小。炭素鋼に近い
炭素鋼(S45C)11.7一般鋼材の基準値
SCM44012.3
インコネル62512.8Ni基超合金。高温でも膨張が安定
ニッケル(純)13.4
SUS31616.0
銅(純)16.5
SUS304(オーステナイト系)17.3炭素鋼(S45C)より約48%大きい
真鍮(黄銅)18.9
アルミニウム(純・A1050)23.1炭素鋼の約2倍
アルミ合金(A5052)23.8
マグネシウム合金26.0アルミより大きい点に注意
亜鉛ダイカスト27.4
SUS304(17.3)とS45C(11.7)の差は5.6×10⁻⁶/K。アルミ(23.1)とS45C(11.7)の差は11.4×10⁻⁶/K。この差が異材接合トラブルの根本原因になる。

異材接合で熱膨張係数の差が問題になる場面

① アルミ部品×スチールボルト——温度変化でゆるむ

アルミ(α≒23)は鉄(α≒12)の約2倍伸びます。アルミ部品にスチールボルトを締結すると、温度が上がるとアルミ側が多く伸びてボルト締結力(軸力)が変動します。繰り返しの温度サイクルで次第にゆるみが生じ、最悪の場合は脱落に至ります。対策としては、アルミ側のインサートナット採用・ボルト材質をアルミ近似のCTEに合わせる・設計上のプレロードを大きくとるなどがあります。

② SUS304とS45Cの溶接——熱応力による割れリスク

SUS304(α=17.3)とS45C(α=11.7)の差は5.6×10⁻⁶/Kです。溶接後に冷却する過程で両材が異なる速度で収縮するため、接合部に熱応力が発生します。さらにS45C側は急冷により焼入れ効果が生じ、マルテンサイト変態による脆化リスクがあります。異材溶接を行う場合は溶接材料の選定・予熱・後熱処理の計画が必要です。

③ 精密機械——温度環境で寸法が変わる

測定機器・精密ステージ・金型などは温度変化による寸法変化が品質に直結します。異なるCTEの材料を組み合わせると、温度変化で部品間に相対変位が生じます。精密機器では材料をCTEで揃える(例:構造材をインバーに統一)か、温度管理された環境で使用する設計が求められます。

組み合わせCTEの差(×10⁻⁶/K)100mm・100℃での相対変位リスク
アルミ × S45C11.40.114mmボルトゆるみ・嵌合ガタ
SUS304 × S45C5.60.056mm溶接割れ・熱応力
SUS304 × SUS4306.90.069mmバイメタル変形
銅 × S45C4.80.048mmろう付け・圧入部のゆるみ
チタン × S45C3.10.031mm比較的低リスク

低膨張合金:熱膨張を「ほぼゼロ」にする特殊材料

インバー(Fe-36Ni)α≒1.2×10⁻⁶/K

Fe-36%Ni合金。室温付近でほぼ膨張しない「不変鋼」です。精密測定器・レーザー光学機器・標準尺などに使われます。加工性は普通鋼より低く、コストも高いため、膨張を無視できない精密部品にのみ使う材料です。

スーパーインバー(Fe-32Ni-5Co)α≒0.5×10⁻⁶/K

インバーをさらに低膨張化した合金。CoをNiと組み合わせることで膨張係数をほぼゼロに近づけます。電子部品・宇宙機器の構造材として使われます。

コバール(Fe-29Ni-17Co)α≒5.2×10⁻⁶/K

ガラスと膨張係数を合わせた合金。ガラスとの気密封着(コネクタ・真空管)に使われます。膨張係数を意図的に「ガラスと一致させる」設計の好例です。

現場でつまる場面

常温で完璧な嵌め合いが、使用中にガタになった
状況アルミ合金製のハウジングに鋼製シャフトを中間ばめ(H7/k6)で組み込んだ部品が、80℃の使用環境でガタが生じた。
原因アルミ(α≒23)は鋼(α≒12)より膨張が大きく、温度上昇でアルミ側の穴径が広がり、ばめ代が消えた。常温での設計値だけで公差を設定していた。
対策使用温度での両材の膨張量差をΔL計算で確認し、高温でも必要なばめ代が残るように常温での公差設計を見直す。アルミ側にスリーブ(鋼)を圧入してCTEを揃える設計も有効。

設計チェックリスト

熱膨張係数を考慮した設計・材料選定の確認事項
  • 異材を接合・締結する場合、両材のCTE差を計算しているか
  • 使用温度範囲(最低〜最高)での熱変位量ΔLを試算しているか
  • 精密嵌合部品は使用温度での寸法変化を公差設計に反映しているか
  • アルミ×スチールボルトの締結でゆるみ対策(インサート・スプリングワッシャ等)を検討しているか
  • SUS304とフェライト系ステンレス(SUS430)のCTE差(6.9)を溶接設計で考慮しているか
  • 精密機器の構造材に低膨張合金(インバー等)の採用を検討したか

まとめ

  • 熱膨張係数(α)は「1℃当たり材料が伸びる割合」。ΔL = α × L₀ × ΔT で変形量を計算できる
  • アルミ(α≒23)は炭素鋼(α≒12)の約2倍膨張する。異材組み合わせ部品では温度変化で相対変位が生じる
  • SUS304(17.3)とS45C(11.7)のCTE差は5.6。溶接・接合で熱応力が発生するリスクがある
  • インバー(Fe-36Ni、α≒1.2)は超低膨張合金で精密機器・測定器に使われる
  • 異材締結・接合の設計では使用温度でのΔL計算を必ず行い、公差・ゆるみ対策に反映する

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