合金の融点・沸点をやさしく解説:固相線・液相線・共晶点が実務でなぜ重要なのか

金属の知識

合金の融点・沸点をやさしく解説:固相線・液相線・共晶点が実務でなぜ重要なのか

合金の融点は「1点」ではなく「範囲」です。純金属が一定温度でスパッと溶けるのとは異なり、多くの合金は固相線(これ以上加熱すると溶け始める温度)液相線(これ以上加熱すると完全に液体になる温度)の間で、固体と液体が混在する「半溶融域」を持ちます。この性質を理解していないと、溶接割れ・ろう付け失敗・はんだ接合不良が起きます。この記事では金属の融点・沸点一覧の続編として、合金特有の融解挙動と実務判断を解説します。

① 純金属と合金の「溶け方」の違い

純金属(たとえば純銅 Cu)は加熱すると 1085℃ ちょうどで固体から液体に変わります。温度と固相率(固体の割合)の関係を図にすると「垂直に落ちる」形になります。

一方、真鍮(Cu-Zn系)のような合金は、ある温度から溶け始め(固相線)、さらに加熱すると完全に液体になる(液相線)という2段階があります。この間が「半溶融域」です。

固相率 → 温度(℃)→ 0% 100% 純金属(Cu等) 融点 1085℃ 半溶融域 (固体+液体が混在) 液相線 固相線 合金(Cu-Zn等) 共晶合金(Sn-Pb共晶等) 共晶点 183℃ 純金属(融点1点) 一般合金(固液共存域あり) 共晶合金(融点1点に戻る)
3種類の融解挙動のまとめ
純金属 融点1点でスパッと溶ける。温度管理が容易。
一般合金 固相線〜液相線の範囲で溶ける。半溶融域(mushy zone)あり。
共晶合金 特定の組成で再び融点が1点になる(共晶点)。一般的に純金属より低温。

② 二元系状態図の読み方:Sn-Pb系を例に

合金の融解挙動を整理するツールが状態図(phase diagram)です。横軸に組成(成分比)、縦軸に温度を取り、各領域で「固体のみ」「液体のみ」「固液混在」かを示します。

温度(℃) 0 183 232 327 Pb 100% Sn 61.9% Sn 100% (共晶組成) 共晶点 183℃ Pb融点 327℃ Sn融点 232℃ 液相 (完全に液体) 固液 混在域 固液 混在域 固相(完全に固体) 液相線 液相線 固相線(183℃) Sn-Pb 二元系状態図(概略)

状態図の3つのキーワード

用語 意味 実務での重要性
液相線(Liquidus) この温度以上で完全に液体になる温度。加熱時に最後の固体が溶ける点 溶接・ろう付けで「何℃まで上げれば完全溶融するか」の基準
固相線(Solidus) この温度以下で完全に固体になる温度。冷却時に最初に固体が出現する点 「この温度を超えると溶け始める」→ 高温使用の実質上限。溶接HAZの液化割れ判断
共晶点(Eutectic point) 特定の組成で液相線と固相線が一致する点。その合金系で最も低い融点 はんだの共晶組成(Sn63Pb37)が183℃で一点溶融 → 作業性◎。Al鋳造合金の共晶Si活用

③ 主要合金系の固相線・液相線・共晶点データ

合金系 代表合金・材料 固相線 (°C) 液相線 (°C) 共存域幅 共晶点 (°C)
Sn-Pb 共晶はんだ Sn63Pb37 183 183 0℃(共晶点) 183(Sn61.9%)
Sn-Ag-Cu SAC305(鉛フリー) 217 221 4℃ 217(三元共晶)
Al-Si ADC12(Al鋳造合金) 577 ≈600 ≈23℃ 577(Si12.6%)
Al-Mg A5052(Al-2.5Mg) 607 652 45℃
Cu-Zn C3604 真鍮(37%Zn) 885 905 20℃
Cu-Sn C5191 りん青銅(8%Sn) ≈910 ≈1040 130℃
Fe-C(鋼) S45C(0.45%C) ≈1470 ≈1510 40℃
Fe-C(鋳鉄) FC250(≈3.4%C) ≈1150 ≈1250 100℃ 1147(C4.3%)
Fe-Cr-Ni(SUS) SUS304 ≈1400 ≈1455 55℃
💡 共存域が広いほど何が起きるか:Cu-Sn系(りん青銅)の130℃という固液共存域は、鋳造時にデンドライト偏析(局所的な成分ムラ)が起きやすいことを意味します。流動性が低く、収縮割れのリスクも上がります。鋳造設計では共存域が狭い合金(ADC12など)を選ぶか、コールドシャットを防ぐ湯口設計が必要です。

④ 合金の固液共存域グラフ:固相線〜液相線の幅を比較

⑤ 共晶点が「特別」な理由:はんだとAl鋳造合金で活用されるわけ

はんだ:なぜ Sn63Pb37 が長年使われたか

Sn-Pb系の共晶組成(Sn63%/Pb37%)では液相線と固相線が一致し、183℃という1点で溶けます。これが実装現場で絶大な作業性を生みます。

  • 固液共存域ゼロ → こて先から離した瞬間に固化が始まり、振動による「コールドジョイント」が起きにくい
  • 183℃という低温 → ICや基板へのダメージを最小化できる
  • ぬれ広がり性が高い → 狭い隙間にも流れ込む

これに対して鉛フリーはんだ(SAC305)は三元共晶点で217℃、液相線221℃。固液共存域が4℃あるため、この範囲での振動や動きが「コールドジョイント」の原因になります。実装プロセスではリフロー炉のピーク温度を245〜260℃に上げ、共晶はんだより約60℃高くする必要があります。

Al鋳造合金(ADC12):共晶Si を流動性に使う

Al-Si系の共晶点は577℃(Si12.6%)です。ダイカスト用ADC12(Si10.5〜12.0%)はこの共晶組成に近く設計されています。

共晶点付近の組成を使う理由:液相線が低く(≈600℃)流動性が高い → 薄肉・複雑形状の型への充填が容易。共存域が狭く凝固収縮が少ない → 寸法精度が出やすい。鋳造後に共晶Si粒子が分散して硬さと耐摩耗性に貢献する。

⑥ 実務で詰まる3つの場面

場面① :SUS304溶接部に「液化割れ」が入った

SUS304製タンクのTIG溶接後、熱影響部(HAZ)に微細な割れが見つかった。溶接ビード自体ではなく、その周辺での発生。

⚠️ 原因:SUS304の固相線は約1400℃ですが、不純物(S・P・Siなど)が濃化した「低融点相」は1200〜1350℃前後で溶け始めます。溶接の熱サイクルでHAZがこの温度域に達すると、粒界の低融点相が局所的に液化し、凝固収縮応力で「液化割れ(Liquation Cracking)」が発生します。固相線以下でも割れが起きるのはこのためです。
✅ 対処:低硫黄・低リン材(S≤0.005%)を指定する。入熱を下げてHAZの温度ピークを抑える。または溶接後応力除去を行う。熱処理前提の設計なら固液共存域の小さい材料への変更も選択肢です。
場面② :A5052のアルミろう付けで母材が溶けた

A5052板材の接合にアルミろう材(液相線610℃)を使ったが、バーナーで加熱しすぎてA5052本体(固相線607℃)が局所的に溶けてしまった。

⚠️ 原因:A5052の固相線(607℃)とろう材の液相線(610℃)の差がわずか3℃。通常のろう付けは「ろう材液相線 < 母材固相線」という条件を必要とします。A5052ではその差がほぼゼロで、加熱ムラがあると母材が先に溶けます。
✅ 対処:A5052のろう付けには専用の真空ろう付け炉(±2℃以内の温度制御)を使います。汎用バーナー作業は実質不可。接合部設計を変え、溶接または機械的締結に切り替えることが現実的なケースも多いです。
場面③ :鉛フリーはんだのコールドジョイントで接触抵抗が増加した

電子基板の鉛フリーリフロー実装後、一部の接合部で導通抵抗が設計値の2〜3倍に。目視では接合できているように見えた。

⚠️ 原因:SAC305の固液共存域(217〜221℃)では、半凝固状態のはんだに基板の微振動が加わると、内部に亀裂や粒界が形成されます(コールドジョイント)。リフロー炉の温度プロファイルが共晶はんだ時代のまま(ピーク230℃前後)で設定されており、SAC305が液相線(221℃)を超えたままの保持時間が不足していました。
✅ 対処:SAC305のリフロープロファイルはピーク温度245〜260℃、液相線(221℃)以上の保持を40〜60秒確保します。コンベアの振動がある炉では固化開始後の搬送速度にも注意が必要です。

⑦ 合金系別の融解特性と実務判断ガイド

合金系 共存域の傾向 実務上の注意点 関連材料
Fe-C鋼(低〜中炭素) 30〜60℃ 固相線は炭素量で大きく変わる(炭素量と鋼の硬さ参照)。SS400S45Cで固相線が50℃異なる SCM440SCM435
Fe-C鋳鉄(高炭素) 100℃前後 共晶点付近で流動性大。共存域が広く鋳造欠陥(引け巣)が出やすい FC250, FCD600
Al-Si(鋳造合金) 20〜30℃ 共晶点577℃に近い組成で流動性・寸法精度◎。ろう付けには別途共晶系ろう材 ADC12, ADC10
Al-Mg(展伸合金) 40〜60℃ 固相線が純Alより50℃以上低い。ろう付けは実質炉ろう付けのみ A5052, A5083
Cu-Zn(真鍮) 20〜30℃ Zn蒸気圧の問題(沸点907℃)で溶接は難しい。ろう付けが基本 C3604, C2801
Cu-Sn(りん青銅) 100〜150℃ 共存域が非常に広く鋳造偏析が問題。溶接は高温割れリスクあり。展伸材が基本 C5191, C5212
Sn-Pb(はんだ) 0℃(共晶) 共晶点183℃で最適作業性。鉛フリー化でSAC305(4℃共存域)に移行し温度管理が厳格化 Sn63Pb37, SAC305

⑧ まとめ:合金の融点を実務で使うときの3つの視点

設計・加工で押さえるポイント

  • 固相線が「溶け始め温度」:合金の高温使用上限は液相線ではなく固相線で考える。固相線以下でも低融点相が粒界に存在すれば液化割れが起きる。
  • 共存域の広さ = 鋳造・接合の難しさ:Cu-Sn系(130℃)はAl-Si系(23℃)より偏析・流動性で不利。はんだは共晶点付近の組成で共存域をゼロに近づけることで作業性を確保している。
  • ろう付けの大原則「ろう材液相線 < 母材固相線」:この温度差が小さいほど温度管理が厳しくなる。A5052(差3℃)は炉ろう付け専用と割り切る。

合金の融点は単一の数値で語れません。設計段階で固相線・液相線・共存域幅の3つをセットで確認する習慣をつけると、溶接・鋳造・接合工程での「なぜ割れるのか」「なぜ溶けすぎるのか」が理解しやすくなります。各金属の純金属値は金属の融点・沸点一覧を参照してください。

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