合金の融点・沸点をやさしく解説:固相線・液相線・共晶点が実務でなぜ重要なのか
① 純金属と合金の「溶け方」の違い
純金属(たとえば純銅 Cu)は加熱すると 1085℃ ちょうどで固体から液体に変わります。温度と固相率(固体の割合)の関係を図にすると「垂直に落ちる」形になります。
一方、真鍮(Cu-Zn系)のような合金は、ある温度から溶け始め(固相線)、さらに加熱すると完全に液体になる(液相線)という2段階があります。この間が「半溶融域」です。
純金属 融点1点でスパッと溶ける。温度管理が容易。
一般合金 固相線〜液相線の範囲で溶ける。半溶融域(mushy zone)あり。
共晶合金 特定の組成で再び融点が1点になる(共晶点)。一般的に純金属より低温。
② 二元系状態図の読み方:Sn-Pb系を例に
合金の融解挙動を整理するツールが状態図(phase diagram)です。横軸に組成(成分比)、縦軸に温度を取り、各領域で「固体のみ」「液体のみ」「固液混在」かを示します。
状態図の3つのキーワード
| 用語 | 意味 | 実務での重要性 |
|---|---|---|
| 液相線(Liquidus) | この温度以上で完全に液体になる温度。加熱時に最後の固体が溶ける点 | 溶接・ろう付けで「何℃まで上げれば完全溶融するか」の基準 |
| 固相線(Solidus) | この温度以下で完全に固体になる温度。冷却時に最初に固体が出現する点 | 「この温度を超えると溶け始める」→ 高温使用の実質上限。溶接HAZの液化割れ判断 |
| 共晶点(Eutectic point) | 特定の組成で液相線と固相線が一致する点。その合金系で最も低い融点 | はんだの共晶組成(Sn63Pb37)が183℃で一点溶融 → 作業性◎。Al鋳造合金の共晶Si活用 |
③ 主要合金系の固相線・液相線・共晶点データ
| 合金系 | 代表合金・材料 | 固相線 (°C) | 液相線 (°C) | 共存域幅 | 共晶点 (°C) |
|---|---|---|---|---|---|
| Sn-Pb | 共晶はんだ Sn63Pb37 | 183 | 183 | 0℃(共晶点) | 183(Sn61.9%) |
| Sn-Ag-Cu | SAC305(鉛フリー) | 217 | 221 | 4℃ | 217(三元共晶) |
| Al-Si | ADC12(Al鋳造合金) | 577 | ≈600 | ≈23℃ | 577(Si12.6%) |
| Al-Mg | A5052(Al-2.5Mg) | 607 | 652 | 45℃ | — |
| Cu-Zn | C3604 真鍮(37%Zn) | 885 | 905 | 20℃ | — |
| Cu-Sn | C5191 りん青銅(8%Sn) | ≈910 | ≈1040 | 130℃ | — |
| Fe-C(鋼) | S45C(0.45%C) | ≈1470 | ≈1510 | 40℃ | — |
| Fe-C(鋳鉄) | FC250(≈3.4%C) | ≈1150 | ≈1250 | 100℃ | 1147(C4.3%) |
| Fe-Cr-Ni(SUS) | SUS304 | ≈1400 | ≈1455 | 55℃ | — |
④ 合金の固液共存域グラフ:固相線〜液相線の幅を比較
⑤ 共晶点が「特別」な理由:はんだとAl鋳造合金で活用されるわけ
はんだ:なぜ Sn63Pb37 が長年使われたか
Sn-Pb系の共晶組成(Sn63%/Pb37%)では液相線と固相線が一致し、183℃という1点で溶けます。これが実装現場で絶大な作業性を生みます。
- 固液共存域ゼロ → こて先から離した瞬間に固化が始まり、振動による「コールドジョイント」が起きにくい
- 183℃という低温 → ICや基板へのダメージを最小化できる
- ぬれ広がり性が高い → 狭い隙間にも流れ込む
これに対して鉛フリーはんだ(SAC305)は三元共晶点で217℃、液相線221℃。固液共存域が4℃あるため、この範囲での振動や動きが「コールドジョイント」の原因になります。実装プロセスではリフロー炉のピーク温度を245〜260℃に上げ、共晶はんだより約60℃高くする必要があります。
Al鋳造合金(ADC12):共晶Si を流動性に使う
Al-Si系の共晶点は577℃(Si12.6%)です。ダイカスト用ADC12(Si10.5〜12.0%)はこの共晶組成に近く設計されています。
⑥ 実務で詰まる3つの場面
SUS304製タンクのTIG溶接後、熱影響部(HAZ)に微細な割れが見つかった。溶接ビード自体ではなく、その周辺での発生。
A5052板材の接合にアルミろう材(液相線610℃)を使ったが、バーナーで加熱しすぎてA5052本体(固相線607℃)が局所的に溶けてしまった。
電子基板の鉛フリーリフロー実装後、一部の接合部で導通抵抗が設計値の2〜3倍に。目視では接合できているように見えた。
⑦ 合金系別の融解特性と実務判断ガイド
| 合金系 | 共存域の傾向 | 実務上の注意点 | 関連材料 |
|---|---|---|---|
| Fe-C鋼(低〜中炭素) | 30〜60℃ | 固相線は炭素量で大きく変わる(炭素量と鋼の硬さ参照)。SS400とS45Cで固相線が50℃異なる | SCM440、SCM435 |
| Fe-C鋳鉄(高炭素) | 100℃前後 | 共晶点付近で流動性大。共存域が広く鋳造欠陥(引け巣)が出やすい | FC250, FCD600 |
| Al-Si(鋳造合金) | 20〜30℃ | 共晶点577℃に近い組成で流動性・寸法精度◎。ろう付けには別途共晶系ろう材 | ADC12, ADC10 |
| Al-Mg(展伸合金) | 40〜60℃ | 固相線が純Alより50℃以上低い。ろう付けは実質炉ろう付けのみ | A5052, A5083 |
| Cu-Zn(真鍮) | 20〜30℃ | Zn蒸気圧の問題(沸点907℃)で溶接は難しい。ろう付けが基本 | C3604, C2801 |
| Cu-Sn(りん青銅) | 100〜150℃ | 共存域が非常に広く鋳造偏析が問題。溶接は高温割れリスクあり。展伸材が基本 | C5191, C5212 |
| Sn-Pb(はんだ) | 0℃(共晶) | 共晶点183℃で最適作業性。鉛フリー化でSAC305(4℃共存域)に移行し温度管理が厳格化 | Sn63Pb37, SAC305 |
⑧ まとめ:合金の融点を実務で使うときの3つの視点
設計・加工で押さえるポイント
- 固相線が「溶け始め温度」:合金の高温使用上限は液相線ではなく固相線で考える。固相線以下でも低融点相が粒界に存在すれば液化割れが起きる。
- 共存域の広さ = 鋳造・接合の難しさ:Cu-Sn系(130℃)はAl-Si系(23℃)より偏析・流動性で不利。はんだは共晶点付近の組成で共存域をゼロに近づけることで作業性を確保している。
- ろう付けの大原則「ろう材液相線 < 母材固相線」:この温度差が小さいほど温度管理が厳しくなる。A5052(差3℃)は炉ろう付け専用と割り切る。
合金の融点は単一の数値で語れません。設計段階で固相線・液相線・共存域幅の3つをセットで確認する習慣をつけると、溶接・鋳造・接合工程での「なぜ割れるのか」「なぜ溶けすぎるのか」が理解しやすくなります。各金属の純金属値は金属の融点・沸点一覧を参照してください。
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