「なぜすべり軸受やウォームホイールに銅合金を使うのか」と問われると、多くの人は「やわらかいから」と答えます。それは半分正解ですが、本質は「鉄と銅が同種金属でないから」です。摺動面での凝着摩耗のメカニズムを理解すると、銅合金が選ばれる理由と、どの銅合金を選ぶべきかが見えてきます。
凝着摩耗とは何か――同種金属が接触するときに起きること
金属同士が接触して摺動する場面では、表面の微小な凸部(アスペリティ)が接触し合います。このとき同種金属(鉄 vs 鉄など)が接触すると、金属結合に近い強い付着(凝着)が生じやすくなります。接触面が引きちぎられるように剥離することで、金属片が相手面に転移したり、激しい摩耗が進行します。これが**凝着摩耗(adhesive wear)**です。
| 摩耗の種類 | メカニズム | 発生条件 |
|---|---|---|
| 凝着摩耗 | 接触面で金属結合→引きちぎり→転移 | 同種・類似金属の接触、油膜切れ |
| アブレシブ摩耗 | 硬い粒子が軟らかい面を削る | 異物混入、硬質粒子との接触 |
| 疲労摩耗 | 繰り返し応力で表面がはく離 | 転がり接触、高面圧の繰り返し |
| 腐食摩耗 | 化学反応層が摩耗で除去→再生成の繰り返し | 腐食性環境下での摺動 |
凝着摩耗を防ぐ最も効果的な手段のひとつが異種金属の組み合わせです。鉄(Fe)と銅(Cu)は原子構造・格子定数・電子構造が異なるため、金属結合が起きにくく、凝着しにくい。これが摺動面に銅合金が選ばれる根本的な理由です。
摺動用銅合金の種類と特性
①リン青銅(CAC502・C5191など)
Cu-Sn-P系合金。Snが固溶強化で強度を上げ、Pが脱酸剤として機能しつつ硬さを若干高めます。耐摩耗性・ばね性・耐食性のバランスが良く、すべり軸受・ブシュ・ウォームホイールで最もよく使われる汎用摺動材料です。鋳物(CAC502)と展伸材(C5191/C5212)の両方があります。
②アルミ青銅(CAC702・CAC703)
Cu-Al-Fe-Ni系合金。銅合金の中で最も高い引張強さ(600〜800N/mm²以上)と硬さ(180〜230HBW)を持ちます。高荷重・高面圧の摺動、衝撃荷重がかかる用途に対応します。耐食性・耐熱性も高く、海水ポンプ・化学機械・建設機械のブシュに使われます。ただしなじみ性(相手材への適合性)はリン青銅より劣るため、相手軸の表面粗さ管理が必要です。
③鉛青銅・鉛入り青銅(CAC603・CAC604)
Cu-Sn-Pb系合金。Pbが組織中に粒状に分散し、固体潤滑剤として機能します。なじみ性(run-in性)が最も高く、油膜切れ時の焼き付き耐性が高い。高速・低荷重の軸受に最適で、エンジン・コンプレッサーの軸受メタルに使われます。ただしPbは環境規制(RoHS指令等)の対象になる場合があり、用途によって代替材の確認が必要です。
④黄銅(CAC401・C3604)
Cu-Zn系合金。銅合金の中では最も安価で加工性が良い。強度・硬さはリン青銅より劣るため、低荷重・低速の摺動(バルブシート、ガイドブシュなど)に限定されます。高面圧・高速摺動には使えません。
| 銅合金 | JIS代表記号 | 硬さ | 引張強さ | なじみ性 | 耐荷重性 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| リン青銅(鋳物) | CAC502B | 70〜100HBW | 245N/mm²以上 | ◎ | ○ | 汎用すべり軸受の標準材 |
| アルミ青銅(鋳物) | CAC702 | 130〜200HBW | 590N/mm²以上 | △ | ◎ | 高荷重・衝撃用 |
| 鉛青銅(鋳物) | CAC603 | 60〜80HBW | 175N/mm²以上 | ◎◎ | △ | 高速・油膜切れ耐性最高 |
| 黄銅(鋳物) | CAC401 | 55〜80HBW | 195N/mm²以上 | ○ | △ | 低荷重・低コスト |
PV値による選定――「面圧×速度」で使える範囲が決まる
摺動材料の選定で重要な指標がPV値(P:面圧[MPa] × V:摺動速度[m/s])です。PV値が材料の許容値を超えると、摩擦熱が発散できなくなり焼き付きが起きます。
| 銅合金 | 許容面圧(P) | 許容速度(V) | 許容PV値の目安 |
|---|---|---|---|
| リン青銅(CAC502) | 〜15MPa | 〜2m/s | 〜15MPa・m/s |
| アルミ青銅(CAC702) | 〜30MPa | 〜1m/s | 〜20MPa・m/s |
| 鉛青銅(CAC603) | 〜10MPa | 〜5m/s | 〜25MPa・m/s(高速向き) |
| 黄銅(CAC401) | 〜5MPa | 〜1m/s | 〜5MPa・m/s |
用途別の使い方と相手材の組み合わせ
すべり軸受(平軸受・ブシュ)
銅合金摺動の最も代表的な用途です。鋼軸(S45C・SCM440調質材など)に対して銅合金ブシュを組み合わせます。潤滑油があれば流体潤滑膜が形成されますが、起動・停止時には境界潤滑になるため、なじみ性の高いリン青銅・鉛青銅が選ばれます。
| 条件 | 推奨銅合金 | 相手軸の表面粗さ目安 |
|---|---|---|
| 一般産業機械・中荷重 | CAC502B(リン青銅) | Ra0.8〜1.6μm |
| 高荷重・衝撃あり | CAC702(アルミ青銅) | Ra0.4〜0.8μm(仕上げを良くする) |
| 高速回転・なじみ優先 | CAC603(鉛青銅) | Ra0.4μm以下 |
| 低荷重・低コスト優先 | CAC401(黄銅) | Ra1.6μm以下 |
ウォームギヤのウォームホイール
ウォームギヤは鋼製ウォーム(ねじ状歯車)とウォームホイールが組み合わさる構造で、高い減速比を小型で実現できます。ウォームとホイール歯面の接触はすべりが主体(転がりでない)ため、凝着摩耗対策が不可欠です。ここにアルミ青銅(CAC702・CAC703)またはリン青銅(CAC502)が使われます。
ウォームホイールにリン青銅かアルミ青銅を選ぶかは、伝達トルク・回転速度・寿命要求で決まります。
| 条件 | 推奨材料 | 理由 |
|---|---|---|
| 高速・大トルク・長寿命 | CAC702 アルミ青銅 | 引張強さ・硬さが高く歯面の塑性変形を抑える |
| 中速・中トルク・汎用 | CAC502 リン青銅 | なじみ性が高く運転初期の摩耗が少ない |
| 低速・低トルク・小型 | CAC401 黄銅 | コスト優先。過負荷になると歯面が急速摩耗 |
油圧ポンプ・モータの摺動部
油圧ピストンポンプのシュー(スワッシュプレートに接触する部品)には銅合金(CAC502系)が使われます。鋼製スワッシュプレートとの異種材料組み合わせで凝着を防ぎながら、作動油の境界潤滑下でも焼き付かない設計です。シリンダブロックにも焼結銅合金が使われることがあります。
「銅合金でないと困る場面」と「銅合金が不要な場面」
鋼軸 vs 鋼軸受の同種金属接触を避けたいとき。潤滑管理が難しく油膜切れのリスクがある低速・高荷重のとき。起動・停止が頻繁でなじみ性が重要なとき。
転がり軸受で置き換えられる場合(高速・長寿命には転がり軸受が有利)。合成樹脂軸受(PTFE系・PEEK系)が使える低荷重・無給油用途。超硬合金ブシュが必要な超高荷重用途。
- 実使用の面圧P(MPa)と摺動速度V(m/s)を計算し、PV値を求めたか
- PV値に対して選定した銅合金の許容PV値に余裕(2倍以上)があるか
- 潤滑方式(流体潤滑・境界潤滑・無給油)を確認し、なじみ性の優先度を決めたか
- 相手軸の材質・硬さ・表面粗さを確認したか(アルミ青銅はRa0.8μm以下を推奨)
- 鉛青銅(CAC603)使用時にRoHS・環境規制の適用外か確認したか
- ウォームギヤの場合、ならし運転計画を立てたか
まとめ
- 摺動面に銅合金を使う根本理由は「鉄と異種金属であり凝着摩耗が起きにくいから」
- リン青銅(CAC502)は汎用軸受の標準材。なじみ性・コスト・耐摩耗性のバランスが良い
- アルミ青銅(CAC702)は高荷重・衝撃用。なじみ性が低いため精度管理とならし運転が必要
- 鉛青銅(CAC603)はなじみ性最高で高速軸受に適するが、環境規制に注意
- 許容PV値(面圧×速度)を計算して選定する。黄銅を高荷重用途に流用すると短期摩耗が起きる

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