高力黄銅をやさしく解説:CAC301〜CAC304、強さの秘密と選び方

材料比較・工法比較・選び方

高力黄銅(こうりょくおうどう、High-strength Brass)は、銅と亜鉛を主成分とする黄銅にアルミニウム・鉄・マンガンなどを加えた、銅合金の中でも特に強度と耐摩耗性に優れたグループです。この記事では、JIS規格で定められたCAC301〜CAC304の4グレードについて、成分・機械的性質・用途の違いをわかりやすく解説します。

① 高力黄銅の記号(CAC300番台)の読み方

JIS H 5120「銅及び銅合金鋳物」では、銅合金鋳物を”CAC”+3桁の番号で分類しています。高力黄銅はCAC300番台に割り当てられています。

JIS 高力黄銅記号の読み方(例:CAC304) C A C 3 0 4 CAC Copper Alloy Castings 3 = 高力黄銅系 CAC300番台 0 = 桁補正 連番の桁補正 4 = グレード番号 301〜304の4種 旧JIS記号 HBsC1〜HBsC4
CAC記号の由来:CACは”Copper Alloy Castings”(銅合金鋳物)の頭文字です。300番台は高力黄銅系に割り当てられており、301・302・303・304の4種類がJIS H 5120に規定されています。旧JIS記号ではHBsC1〜HBsC4と表記されていました。

② 主要グレード比較表(CAC301〜CAC304)

記号主な成分(参考)引張強さ(N/mm²)伸び(%)硬さ(HBW)主な用途
CAC301Cu 55-60%, Zn 33-42%, Fe・Mn・Al 微量430 以上20 以上100 以上軸受、軸受保持器、仕切弁、レバー、ギヤ
CAC302Cu 55-60%, Zn 30-42%, Fe 0.5-2.0%, Mn 0.1-3.5%490 以上18 以上100 以上船用プロペラ、軸受、仕切弁、ギヤ
CAC303Cu 55-60%, Zn 30-40%, Fe・Mn・Al・Ni 添加590 以上15 以上130 以上耐摩耗板、船用プロペラ、歯車、弁座
CAC304Cu 60-65%, Zn 22-28%, Fe 2-4%, Al 5-7.5%, Mn 2.5-5%755 以上12 以上200 以上ウォームギヤ、圧延機用スリッパー、橋梁支承板、ブッシュ

※ 成分・機械的性質はJIS H 5120に基づく代表的参考値。

③ 高力黄銅が「強い」理由:Al・Mn・Feの添加効果

添加元素の役割と強化機構 Al アルミニウム Mn マンガン Fe β相安定・固溶強化 Alは亜鉛当量として作用し β相比率を高めて強度を向上 固溶強化・耐食性向上 α・β相に固溶して強度を付与 脱亜鉛腐食の抑制にも寄与 結晶粒微細化・析出強化 Fe系析出物が転位を阻害 肉厚感受性を低下させる効果も 引張強さ 755 MPa 以上 (CAC304の場合) 鋳鉄の約 2〜3 倍の強度
「肉厚感受性が小さい」とは?
鋳物の厚みが増すと内部の冷却速度が遅くなり、通常は強度が低下します(肉厚感受性)。高力黄銅はこの感受性が青銅鋳物に比べて小さいため、大型部品でも必要な強度を維持しやすいのが特長です。これが大型艦艇プロペラや橋梁支承板への採用につながりました。

グレード別 引張強さ比較

高力黄銅(CAC系) 参考:BC6(青銅)

④ 他の銅合金鋳物との使い分け

高力黄銅 CAC304 アルミニウム青銅 CAC702 BC6(りん青銅鋳物)
材料強度耐摩耗性耐食性鋳造性コスト適した用途
高力黄銅 CAC304高荷重摺動、橋梁支承、ウォームギヤ
アルミニウム青銅 CAC702中〜高海水環境、高速摺動、船舶プロペラ
りん青銅鋳物 BC6耐圧バルブ、精密鋳造品
普通黄銅鋳物 CAC201軽荷重の弁体・装飾品
⚠️ 注意 高力黄銅(CAC300番台)は海水環境での脱亜鉛腐食・応力腐食割れへの感受性が比較的高い場合があります。海水長期浸漬環境では、アルミニウム青銅(CAC700番台)の採用が適切なことがあります。用途に応じた選定をおすすめします。

⑤ JIS・海外規格対応表

JIS(日本)旧JISASTM(米国)EN(欧州)GB(中国)ISO
CAC301HBsC1C86100 相当CuZn34Mn3Al2Fe1 相当ZCuZn38Mn2Pb2 近似CuZn34Mn3Al2-C 近似
CAC302HBsC2C86200 相当CuZn35Al2Mn2Fe1 相当ZCuZn40Mn2 近似CuZn35Al2Mn2Fe1-C 近似
CAC303HBsC3C86300 相当CuZn25Al5Mn4Fe3 相当ZCuZn26Al4Fe3Mn3 近似CuZn25Al5Fe3Mn4-C 近似
CAC304HBsC4C86400 / C86500 相当CuZn25Al5Mn4Fe3 近似ZCuZn25Al6Fe3Mn3 近似CuZn22Al4Mn3Fe3-C 近似

⑥ 用途別カード

⚙️ ウォームギヤ・歯車

低速・高荷重の噛み合いに最適。CAC304の高強度と適度な自己潤滑性が摩耗を抑えます。ウォームギヤは鋼製ウォームとの組み合わせが定番です。

🔩 ブッシュ・軸受

重機・産業機械の軸受部に使われます。CAC301〜CAC302は靭性と強度のバランスから軸受保持器にも採用されています。

🌉 橋梁支承板

橋桁の荷重を均等に受け、熱膨張による変位を吸収する支承板にCAC304が使われます。高荷重下での耐クリープ性が評価されます。

🚢 船用プロペラ(小型)

小型プロペラではCAC302が今も活躍しています。大型品はアルミニウム青銅が代替しつつあります。

🏭 圧延機スリッパー

鉄鋼・非鉄の圧延ラインでロールを支持するスリッパーに使用。CAC304の引張強さ755 MPa以上という特性が重荷重下でも変形を防ぎます。

🔧 バルブ部品(弁座・弁棒)

仕切弁・玉形弁の弁座・弁棒にCAC301が採用されます。耐食性と靭性を兼ね備え、繰り返し開閉動作に耐えます。

高力黄銅で押さえておきたいこと

高力黄銅について調べると、「黄銅なのに引張強さ755 MPa超え」という点が印象に残ります。Al・Mn・Feの複合添加によってβ相が強化・析出強化されるためであり、単純なCu-Zn二元合金とは本質的に異なる設計思想の合金です。CAC301〜CAC304の4グレードは強度・伸び・硬さのトレードオフで住み分けがされており、「靭性を残しつつ使いたいならCAC301・302」「極限の強度・耐摩耗性が必要ならCAC304」という選び方がポイントです。