銅合金の種類と選び方をやさしく解説:純銅・真鍮・青銅・アルミ青銅、どの場面で使い分けるか

銅合金

銅合金の種類と選び方をやさしく解説:純銅・真鍮・青銅・アルミ青銅、どの場面で使い分けるか

銅合金は「とりあえず真鍮」「耐摩耗ならアルミ青銅」という大まかな選択で済む場合もありますが、環境・強度・後工程の条件を見落とすと、腐食・強度不足・コスト超過が起きます。この記事では各系統の特徴整理にとどまらず、どの場面でどの系統を選ぶべきか・取り違えるとどんな問題が起きるかを具体的に書きます。「一覧で覚える」より「判断に使える」ことを目指します。

① 銅合金の系統分類:8系統のざっくり整理

銅合金は添加元素によって特性が大きく変わります。まず8系統の位置づけを頭に入れてから、各系統の詳細に進んでください。

純銅
C1100 / C1020
200〜350 N/mm²

導電性・熱伝導性が最高。強度は低い。

黄銅(真鍮)
C2600 / C3604
300〜500 N/mm²

最も汎用。低コスト・加工性良好。

錫青銅(砲金)
CAC406
170〜280 N/mm²

鋳造性・耐食性。バルブ・ポンプ鋳物。

りん青銅
C5191 / C5212
330〜700 N/mm²

ばね性・耐疲労。コネクタ接点。

アルミニウム青銅
CAC701 / C6161
600〜850 N/mm²

銅合金最高強度クラス。耐摩耗・耐熱。

白銅
C7060 / C7150
380〜550 N/mm²

耐海水性が最高。熱交換器・硬貨。

洋白
C7521 / C7541
400〜650 N/mm²

銀色外観・ばね性。装飾・楽器。

ベリリウム銅
C1720
1000〜1400 N/mm²

銅合金で最高強度・最高ばね性。特殊用途。

② 引張強さと導電率:「強さ」と「電気を通す」はトレードオフ

銅合金を選ぶときに最初に意識すべき関係が「強度と導電率はトレードオフ」です。合金元素を加えると強くなりますが、導電率は下がります。どちらを優先するかで系統の選択が変わります。

💡 「導電性が必要な部品で真鍮を使っている」は要注意

純銅の導電率を100%(IACS基準)とすると、黄銅(真鍮)は27〜28%程度まで下がります。導電率が求められる端子・バスバー・リードフレームで真鍮(コストが安いから)を選ぶと、発熱・接触抵抗の問題が出ます。「銅合金=導電性OK」ではなく、系統によって大きく異なる点を最初に把握してください。

③ 系統別の特性・用途・選定の境界条件

純銅(C1100・C1020)

項目内容
Cu含有量99.90%以上(C1100)、99.96%以上(C1020 無酸素銅)
引張強さ200〜350 N/mm²(軟質〜硬質)
導電率(IACS)100%(C1100)、≧101%(C1020 無酸素銅)
代表用途電線・バスバー・放熱板・熱交換器・溶接ノズル
使う場面導電性・熱伝導性が最優先。強度は二の次でよい部品
使わない場面荷重がかかる構造部品・高温(200℃超)の長期使用

C1020(無酸素銅)は溶接時のポロシティを防ぐ目的でも使われます。C1100(タフピッチ銅)には少量の酸素が含まれており、水素雰囲気中の高温加熱では「水素ぜい化」が起きるため、半導体製造装置などの水素雰囲気用途では無酸素銅(C1020)を指定します。

黄銅・真鍮(C2600・C3604)

項目C2600(深絞り用)C3604(快削)
組成Cu-30ZnCu-36Zn + Pb 1.8〜3.7%
引張強さ300〜440 N/mm²340〜440 N/mm²
加工性絞り・曲げ・プレス切削性◎(快削鉛入り)
代表用途弾薬薬莢・カメラ部品・コネクタシェル水栓・バルブ・ネジ・時計部品

黄銅は「安くて加工しやすい」代表格ですが、脱亜鉛腐食という落とし穴があります。Zn含有量が高い黄銅(30%Zn以上)を湿潤環境・海水・温泉水にさらすと、亜鉛だけが選択的に溶け出し、多孔質の銅が残って強度が急落します。配管・バルブ用途で黄銅を選ぶ場合は耐食性の境界条件を必ず確認してください。

アルミニウム青銅(CAC701・C6161)

項目内容
代表組成Cu-8〜11%Al + Ni・Fe添加
引張強さ600〜850 N/mm²(展伸材)、500〜700 N/mm²(鋳物)
硬さ目安150〜250HBW(鋳物)、展伸材・熱処理品で300HBW超も可
特徴銅合金最高クラスの強度・耐摩耗性・耐熱性(300℃程度まで)
使う場面歯車・軸受・スライド部品・スラスト板・海洋構造物・プレス金型
注意点切削加工が難しい(工具摩耗が早い)。溶接は可能だが技術的要求が高い

アルミニウム青銅はアルミ(Al 8〜11%)の添加によってα相とβ相が生じ、熱処理(焼入れ・焼戻し)によって硬化します。これは銅合金の中で特異な特性で、「熱処理で硬くできる銅合金」という位置づけです。プレス金型のスライド材・パッド材、摩耗が激しい軸受スリーブ、海水ポンプのインペラなど、「銅合金を使いたいが強度・耐摩耗性も必要」という要求に応えます。

りん青銅(C5191・C5212)

項目C5191C5212
組成Cu-6%Sn-PCu-8%Sn-P
引張強さ(H材)540〜700 N/mm²590〜750 N/mm²
ばね限界値高い(繰り返し荷重に強い)さらに高い
代表用途コネクタ接点・端子・電子部品スプリングばね・摺動部品・ブッシュ

りん青銅のPの役割は「溶湯の脱酸」と「ばね性・耐摩耗性の向上」の2つです。コネクタ接点で使われる理由は、ばね性が高く(繰り返し変形に強い)かつ導電率も黄銅より若干高いためです(導電率約15〜20% IACS)。「接点はりん青銅」という現場の経験則はここから来ています。

ベリリウム銅(C1720)

Be 1.8〜2.0%を添加した析出硬化型銅合金です。溶体化→時効処理によって1000〜1400 N/mm²という銅合金最高強度が得られます。ばね性・疲労耐久性・導電性(導電率 約22% IACS)を同時に要求される精密コネクタ・精密ばね・非磁性工具に使われます。

⚠️ ベリリウム粉塵の健康リスク

ベリリウム(Be)の粉塵・ヒュームは慢性ベリリウム症(CBD)の原因物質です。加工・研削時には厳重な粉塵管理(局所排気・防護マスク)が必要です。同等のばね性が不要な用途では、りん青銅・コルソン合金(Cu-Ni-Si)・バネ用ステンレス(SUS304-CSP等)が安全な代替候補になります。

④ 取り違え・選定ミスで起きる問題

⚠️ 取り違え例①:温泉地の配管に真鍮バルブを使い続けた
状況温泉施設の配管に汎用黄銅バルブ(C3604系)を使用。数年後にバルブ本体がスポンジ状になり、締め込み時に割れた。
原因温泉水(硫黄・塩素含有)に長期さらされたことで脱亜鉛腐食が進行。亜鉛が溶出して多孔質化した銅が残り、外見は変わらないのに強度がゼロに近い状態になっていた。
正解耐食が必要な湿潤・腐食環境のバルブ・継手には、錫青銅(CAC406)・アルミニウム青銅(CAC701)・または専用の耐脱亜鉛黄銅(DZR 黄銅:Sn添加品)を選ぶ。黄銅の「脱亜鉛腐食感受性」はZn含有量に依存するため、Cu-10Zn(丹銅)のように低Zn品ならリスクは低い。
⚠️ 取り違え例②:導電用端子に「銅合金ならOK」と真鍮を指定した
状況バスバー(大電流用導体)を純銅から真鍮に変更してコスト削減を図った。組み付け後に通電時の発熱が増え、絶縁材が変色した。
原因純銅の導電率は100% IACS に対し、真鍮(C3604)は約27% IACS。同断面積でも真鍮は純銅の約3.7倍の電気抵抗を持つ。大電流では発熱量(P=I²R)が著しく増大した。
正解大電流用途のバスバー・母線には純銅(C1100)または無酸素銅(C1020)を使う。加工性のために真鍮を選びたい場合は通電量を計算し直し、断面積を大きくするか、発熱が許容できる用途に限定する。
⚠️ 取り違え例③:「銅合金で最強」と思ってアルミ青銅を軸受に使ったら焼き付いた
状況高荷重の摺動軸受にアルミニウム青銅(CAC701)を採用。強度・耐摩耗性は十分なはずが、初期なじみ期間に焼き付きが発生した。
原因アルミニウム青銅は硬質であるがゆえに「なじみ性(初期変形して馴染む特性)」が低い。相手軸の仕上げ粗さが粗い状態で高荷重をかけると、接触面積が増える前に焼き付く。軸受用途では相手軸との表面粗さ管理と初期なじみ条件が重要になる。
正解なじみ性が重要な軸受には、鉛青銅(Cu-Pb系)・錫青銅(CAC406)・または固体潤滑材入りの複合材を検討する。アルミニウム青銅は「高荷重・高速・十分な潤滑管理ができる」条件で真価を発揮する。

⑤ 「何を優先するか」で選ぶ系統判断マップ

優先する性能推奨系統代表グレード選ばない理由(代替落とし穴)
⚡ 電気をよく通したい 純銅 C1100 / C1020 真鍮は導電率27%。「銅合金ならOK」は誤り
💰 安くて加工しやすい(導電性不要) 黄銅(真鍮) C3604(切削)/ C2600(絞り) 腐食環境では脱亜鉛が起きる。海水・温泉・薬液には不可
🌊 海水・腐食環境での鋳造品 錫青銅・アルミニウム青銅 CAC406 / CAC701 黄銅で代替すると脱亜鉛腐食のリスク
🔩 ばね性・繰り返し疲労に強い りん青銅・ベリリウム銅 C5191(汎用)/ C1720(最高性能) 黄銅はばね性が低い。繰り返し荷重で疲労破断
💪 銅合金で最高強度・耐摩耗 アルミニウム青銅 CAC701 / C6161 切削加工が難しい。なじみ性が低い(軸受注意)
🚢 海水淡水化・船舶熱交換器 白銅 C7150(30%Ni) 黄銅・錫青銅より耐食性で圧倒的に優れる
🎸 銀色外観・食器・楽器 洋白 C7521(Ni-Zn系) Niアレルギーの懸念がある用途では代替を検討
⚡💪 高強度+ばね性+導電性を全部 ベリリウム銅 C1720 Be粉塵リスク・高コスト。加工時は厳重な粉塵管理必須

⑥ 強度 vs 導電率:系統の位置づけ図

← 導電率(IACS%)低          高 → ← 引張強さ 低 高 → 純銅 C1100 黄銅 C3604 りん青銅 C5191 錫青銅 CAC406 Al青銅 CAC701 白銅 C7150 BeCu C1720 導電率が高いほど右へ 強度が高いほど上へ バブルの大きさ≈強度の大きさ 「強度と導電率はトレードオフ」 合金元素を増やすと強くなるが

⑦ JIS・海外規格対応早見表

JISASTM/UNSEN通称・特記事項
C1100C11000CW004Aタフピッチ銅(ETP)。導電率100% IACS
C1020C10200CW008A無酸素銅(OFC)。水素ぜい化なし
C2600C26000CW508L70/30 黄銅。プレス・絞り用
C3604C36000CW614N快削黄銅。Pb添加で切削性◎
C5191C51900CuSn6りん青銅(6%Sn)。ばね・コネクタ
C5212C52100CuSn8りん青銅(8%Sn)。高ばね性
CAC406C83600CC491K砲金(LBC2)。バルブ鋳物標準
CAC701C95400CC333Gアルミ青銅9-4(Al9%・Fe4%)
C6161C61400CW307Gアルミ青銅展伸材。棒・板・管
C1720C17200CW101Cベリリウム銅2%。析出硬化型
C7150C71500CW352H白銅(30%Ni)。耐海水性最高
C7521C75200CW412J洋白(Ni18%・Zn17%)

⑧ 銅合金選定チェックリスト

🔧 設計・調達時に確認する項目
  • 「電気・熱を通す目的か」「構造・強度目的か」を最初に分けているか
  • 腐食環境(海水・薬液・温泉・食品)での使用がある場合、黄銅の脱亜鉛腐食リスクを確認したか
  • ばね・接点用途でりん青銅を選ぶ際、必要な導電率(15〜20% IACS)が要求を満たすか確認したか
  • アルミニウム青銅を軸受に使う場合、なじみ性・相手軸の仕上げ管理・潤滑条件を確認したか
  • ベリリウム銅を加工する場合、粉塵管理体制(局所排気・専用マスク)が整っているか確認したか
  • 純銅を水素雰囲気中で使う場合、C1020(無酸素銅)を指定しているか(C1100は水素ぜい化リスク)
  • 海外調達の場合、JIS・ASTM・ENの対応グレードを確認して同等品を選んでいるか

まとめ

銅合金の選び方:判断の軸

  • 銅合金の選択は「何を最優先するか」で決まる。導電性なら純銅、コスト・加工性なら黄銅、強度・耐摩耗なら アルミニウム青銅、ばね性なら りん青銅・ベリリウム銅が出発点。
  • 「銅合金=導電性OK」「銅合金=耐食OK」は危険な思い込み。系統によって導電率は5〜100% IACS、引張強さは200〜1400 N/mm² と幅が大きい。
  • 黄銅の脱亜鉛腐食、アルミ青銅のなじみ性、ベリリウム銅の粉塵リスクは選定時の境界条件として必ず確認する。
  • 強度と導電率はトレードオフの関係にある。合金元素を増やすと強くなる反面、電気・熱が通りにくくなる。

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