銅合金の種類と選び方をやさしく解説:純銅・真鍮・青銅・アルミ青銅、どの場面で使い分けるか
① 銅合金の系統分類:8系統のざっくり整理
銅合金は添加元素によって特性が大きく変わります。まず8系統の位置づけを頭に入れてから、各系統の詳細に進んでください。
導電性・熱伝導性が最高。強度は低い。
最も汎用。低コスト・加工性良好。
鋳造性・耐食性。バルブ・ポンプ鋳物。
ばね性・耐疲労。コネクタ接点。
銅合金最高強度クラス。耐摩耗・耐熱。
耐海水性が最高。熱交換器・硬貨。
銀色外観・ばね性。装飾・楽器。
銅合金で最高強度・最高ばね性。特殊用途。
② 引張強さと導電率:「強さ」と「電気を通す」はトレードオフ
銅合金を選ぶときに最初に意識すべき関係が「強度と導電率はトレードオフ」です。合金元素を加えると強くなりますが、導電率は下がります。どちらを優先するかで系統の選択が変わります。
純銅の導電率を100%(IACS基準)とすると、黄銅(真鍮)は27〜28%程度まで下がります。導電率が求められる端子・バスバー・リードフレームで真鍮(コストが安いから)を選ぶと、発熱・接触抵抗の問題が出ます。「銅合金=導電性OK」ではなく、系統によって大きく異なる点を最初に把握してください。
③ 系統別の特性・用途・選定の境界条件
純銅(C1100・C1020)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Cu含有量 | 99.90%以上(C1100)、99.96%以上(C1020 無酸素銅) |
| 引張強さ | 200〜350 N/mm²(軟質〜硬質) |
| 導電率(IACS) | 100%(C1100)、≧101%(C1020 無酸素銅) |
| 代表用途 | 電線・バスバー・放熱板・熱交換器・溶接ノズル |
| 使う場面 | 導電性・熱伝導性が最優先。強度は二の次でよい部品 |
| 使わない場面 | 荷重がかかる構造部品・高温(200℃超)の長期使用 |
C1020(無酸素銅)は溶接時のポロシティを防ぐ目的でも使われます。C1100(タフピッチ銅)には少量の酸素が含まれており、水素雰囲気中の高温加熱では「水素ぜい化」が起きるため、半導体製造装置などの水素雰囲気用途では無酸素銅(C1020)を指定します。
黄銅・真鍮(C2600・C3604)
| 項目 | C2600(深絞り用) | C3604(快削) |
|---|---|---|
| 組成 | Cu-30Zn | Cu-36Zn + Pb 1.8〜3.7% |
| 引張強さ | 300〜440 N/mm² | 340〜440 N/mm² |
| 加工性 | 絞り・曲げ・プレス | 切削性◎(快削鉛入り) |
| 代表用途 | 弾薬薬莢・カメラ部品・コネクタシェル | 水栓・バルブ・ネジ・時計部品 |
黄銅は「安くて加工しやすい」代表格ですが、脱亜鉛腐食という落とし穴があります。Zn含有量が高い黄銅(30%Zn以上)を湿潤環境・海水・温泉水にさらすと、亜鉛だけが選択的に溶け出し、多孔質の銅が残って強度が急落します。配管・バルブ用途で黄銅を選ぶ場合は耐食性の境界条件を必ず確認してください。
アルミニウム青銅(CAC701・C6161)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 代表組成 | Cu-8〜11%Al + Ni・Fe添加 |
| 引張強さ | 600〜850 N/mm²(展伸材)、500〜700 N/mm²(鋳物) |
| 硬さ目安 | 150〜250HBW(鋳物)、展伸材・熱処理品で300HBW超も可 |
| 特徴 | 銅合金最高クラスの強度・耐摩耗性・耐熱性(300℃程度まで) |
| 使う場面 | 歯車・軸受・スライド部品・スラスト板・海洋構造物・プレス金型 |
| 注意点 | 切削加工が難しい(工具摩耗が早い)。溶接は可能だが技術的要求が高い |
アルミニウム青銅はアルミ(Al 8〜11%)の添加によってα相とβ相が生じ、熱処理(焼入れ・焼戻し)によって硬化します。これは銅合金の中で特異な特性で、「熱処理で硬くできる銅合金」という位置づけです。プレス金型のスライド材・パッド材、摩耗が激しい軸受スリーブ、海水ポンプのインペラなど、「銅合金を使いたいが強度・耐摩耗性も必要」という要求に応えます。
りん青銅(C5191・C5212)
| 項目 | C5191 | C5212 |
|---|---|---|
| 組成 | Cu-6%Sn-P | Cu-8%Sn-P |
| 引張強さ(H材) | 540〜700 N/mm² | 590〜750 N/mm² |
| ばね限界値 | 高い(繰り返し荷重に強い) | さらに高い |
| 代表用途 | コネクタ接点・端子・電子部品スプリング | ばね・摺動部品・ブッシュ |
りん青銅のPの役割は「溶湯の脱酸」と「ばね性・耐摩耗性の向上」の2つです。コネクタ接点で使われる理由は、ばね性が高く(繰り返し変形に強い)かつ導電率も黄銅より若干高いためです(導電率約15〜20% IACS)。「接点はりん青銅」という現場の経験則はここから来ています。
ベリリウム銅(C1720)
Be 1.8〜2.0%を添加した析出硬化型銅合金です。溶体化→時効処理によって1000〜1400 N/mm²という銅合金最高強度が得られます。ばね性・疲労耐久性・導電性(導電率 約22% IACS)を同時に要求される精密コネクタ・精密ばね・非磁性工具に使われます。
ベリリウム(Be)の粉塵・ヒュームは慢性ベリリウム症(CBD)の原因物質です。加工・研削時には厳重な粉塵管理(局所排気・防護マスク)が必要です。同等のばね性が不要な用途では、りん青銅・コルソン合金(Cu-Ni-Si)・バネ用ステンレス(SUS304-CSP等)が安全な代替候補になります。
④ 取り違え・選定ミスで起きる問題
⑤ 「何を優先するか」で選ぶ系統判断マップ
| 優先する性能 | 推奨系統 | 代表グレード | 選ばない理由(代替落とし穴) |
|---|---|---|---|
| ⚡ 電気をよく通したい | 純銅 | C1100 / C1020 | 真鍮は導電率27%。「銅合金ならOK」は誤り |
| 💰 安くて加工しやすい(導電性不要) | 黄銅(真鍮) | C3604(切削)/ C2600(絞り) | 腐食環境では脱亜鉛が起きる。海水・温泉・薬液には不可 |
| 🌊 海水・腐食環境での鋳造品 | 錫青銅・アルミニウム青銅 | CAC406 / CAC701 | 黄銅で代替すると脱亜鉛腐食のリスク |
| 🔩 ばね性・繰り返し疲労に強い | りん青銅・ベリリウム銅 | C5191(汎用)/ C1720(最高性能) | 黄銅はばね性が低い。繰り返し荷重で疲労破断 |
| 💪 銅合金で最高強度・耐摩耗 | アルミニウム青銅 | CAC701 / C6161 | 切削加工が難しい。なじみ性が低い(軸受注意) |
| 🚢 海水淡水化・船舶熱交換器 | 白銅 | C7150(30%Ni) | 黄銅・錫青銅より耐食性で圧倒的に優れる |
| 🎸 銀色外観・食器・楽器 | 洋白 | C7521(Ni-Zn系) | Niアレルギーの懸念がある用途では代替を検討 |
| ⚡💪 高強度+ばね性+導電性を全部 | ベリリウム銅 | C1720 | Be粉塵リスク・高コスト。加工時は厳重な粉塵管理必須 |
⑥ 強度 vs 導電率:系統の位置づけ図
⑦ JIS・海外規格対応早見表
| JIS | ASTM/UNS | EN | 通称・特記事項 |
|---|---|---|---|
| C1100 | C11000 | CW004A | タフピッチ銅(ETP)。導電率100% IACS |
| C1020 | C10200 | CW008A | 無酸素銅(OFC)。水素ぜい化なし |
| C2600 | C26000 | CW508L | 70/30 黄銅。プレス・絞り用 |
| C3604 | C36000 | CW614N | 快削黄銅。Pb添加で切削性◎ |
| C5191 | C51900 | CuSn6 | りん青銅(6%Sn)。ばね・コネクタ |
| C5212 | C52100 | CuSn8 | りん青銅(8%Sn)。高ばね性 |
| CAC406 | C83600 | CC491K | 砲金(LBC2)。バルブ鋳物標準 |
| CAC701 | C95400 | CC333G | アルミ青銅9-4(Al9%・Fe4%) |
| C6161 | C61400 | CW307G | アルミ青銅展伸材。棒・板・管 |
| C1720 | C17200 | CW101C | ベリリウム銅2%。析出硬化型 |
| C7150 | C71500 | CW352H | 白銅(30%Ni)。耐海水性最高 |
| C7521 | C75200 | CW412J | 洋白(Ni18%・Zn17%) |
⑧ 銅合金選定チェックリスト
- 「電気・熱を通す目的か」「構造・強度目的か」を最初に分けているか
- 腐食環境(海水・薬液・温泉・食品)での使用がある場合、黄銅の脱亜鉛腐食リスクを確認したか
- ばね・接点用途でりん青銅を選ぶ際、必要な導電率(15〜20% IACS)が要求を満たすか確認したか
- アルミニウム青銅を軸受に使う場合、なじみ性・相手軸の仕上げ管理・潤滑条件を確認したか
- ベリリウム銅を加工する場合、粉塵管理体制(局所排気・専用マスク)が整っているか確認したか
- 純銅を水素雰囲気中で使う場合、C1020(無酸素銅)を指定しているか(C1100は水素ぜい化リスク)
- 海外調達の場合、JIS・ASTM・ENの対応グレードを確認して同等品を選んでいるか
まとめ
銅合金の選び方:判断の軸
- 銅合金の選択は「何を最優先するか」で決まる。導電性なら純銅、コスト・加工性なら黄銅、強度・耐摩耗なら アルミニウム青銅、ばね性なら りん青銅・ベリリウム銅が出発点。
- 「銅合金=導電性OK」「銅合金=耐食OK」は危険な思い込み。系統によって導電率は5〜100% IACS、引張強さは200〜1400 N/mm² と幅が大きい。
- 黄銅の脱亜鉛腐食、アルミ青銅のなじみ性、ベリリウム銅の粉塵リスクは選定時の境界条件として必ず確認する。
- 強度と導電率はトレードオフの関係にある。合金元素を増やすと強くなる反面、電気・熱が通りにくくなる。

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