EV(電気自動車)1台とガソリン車(ICE)1台では、使用する金属材料の種類と量が大きく異なります。EV普及が加速するにつれて「増える材料」と「減る材料」が生じ、調達コストと供給リスクの構造が変わります。電磁鋼板・希土類磁石(Nd-Fe-B)・銅を中心に、電動化が金属材料需要に与える変化を整理します。
EV vs ICE:1台あたりの主要金属使用量比較
| 金属材料 | ICE車(中型) | EV(中型) | 変化 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| 銅 | 20〜25 kg | 60〜80 kg | 約3倍増 | モーターコイル・バッテリーケーブル・充電システム |
| 電磁鋼板(無方向性) | 5〜10 kg(オルタネータ) | 25〜45 kg(駆動モーター) | 約4倍増 | EV駆動モーターのステータコア・ロータコア |
| アルミニウム | 130〜160 kg | 150〜200 kg | 微増〜横ばい | バッテリーケースの軽量化、電気系部品 |
| 希土類(Nd・Dy等) | 0.5 kg未満 | 1〜3 kg(Nd-Fe-B磁石用) | 大幅増 | 永久磁石モーター(IPM型)のロータ磁石 |
| リチウム | ほぼ不使用 | 8〜12 kg(LFP)〜30 kg(NMC) | 新規需要 | リチウムイオン電池の正・負極材 |
| コバルト | ほぼ不使用 | 0〜15 kg(NMC系) | 新規需要(低減傾向) | NMC系電池の正極材。LFP化で使用量減 |
| 鉄鋼(車体) | 800〜900 kg | 600〜750 kg | 約15〜20%減 | 軽量化のためハイテン・アルミへの代替が進む |
| 白金族(Pt・Pd・Rh) | 3〜7 g(触媒) | ほぼ不使用 | 大幅減 | 三元触媒(ICE用)が不要 |
電磁鋼板(無方向性)への需要急増
EV駆動モーターのステータコア・ロータコアには無方向性電磁鋼板が使われます。モーターの高速回転・高トルク化が進むなか、鉄損(ヒステリシス損+渦電流損)を低減するための薄板化・高珪素化が進んでいます。
| 種別 | 板厚 | 珪素含有量 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 一般グレード | 0.35〜0.50 mm | 1.5〜3.0% | 低コスト | 家電・産業用モーター |
| 高グレード(HiB系) | 0.20〜0.35 mm | 3.0〜4.0% | 低鉄損・高強度 | EV駆動モーター(標準) |
| 超高グレード(6.5%Si) | 0.10〜0.20 mm | 6.5% | 極低鉄損。加工性に難あり | 高速回転モーター(400Hz以上) |
EV駆動モーター向けの高グレード無方向性電磁鋼板は、製造できるメーカーが限られており、リードタイムが延長している品種があります。EV関連部品の量産化計画においては、電磁鋼板の調達確保が先決条件になっています。
希土類磁石(Nd-Fe-B)のサプライチェーンリスク
EV用の永久磁石同期モーター(IPM: Interior Permanent Magnet)には、ネオジム鉄ボロン(Nd-Fe-B)系の高性能永久磁石が不可欠です。
希土類のサプライチェーン集中リスク
ネオジム(Nd):世界生産量の約85〜90%が中国産。中国の輸出制限・規制強化が価格に直接影響。
ジスプロシウム(Dy):高温特性向上のために添加。産地は中国南部に極度に集中(世界の95%超)。
代替動向:日本の自動車メーカー(トヨタ・本田)がDy使用量を削減するモーター設計開発を進めている。磁石フリーモーター(インダクションモーター・SR モーター)の実用化研究も継続中。
ジスプロシウム(Dy):高温特性向上のために添加。産地は中国南部に極度に集中(世界の95%超)。
代替動向:日本の自動車メーカー(トヨタ・本田)がDy使用量を削減するモーター設計開発を進めている。磁石フリーモーター(インダクションモーター・SR モーター)の実用化研究も継続中。
銅需要の構造変化
銅はEV・再生可能エネルギー・送電インフラのすべてで需要が増加するため、電動化時代の「筆頭勝者材料」と位置づけられています。
| 需要分野 | 銅使用用途 | 増加要因 |
|---|---|---|
| EV車両 | モーター巻線・バッテリーケーブル・充電システム | ICE比3倍の使用量 |
| 充電インフラ | 急速充電器・充電スタンド配線 | 充電器1基あたり200〜800 kg |
| 風力発電 | 発電機コイル・海底ケーブル | 大型化で1基あたり数t |
| 太陽光発電 | パネル配線・インバータ・変圧器 | 設置拡大で線形増加 |
| 送電網(スマートグリッド) | 高圧ケーブル・変圧器・スイッチギア | 老朽化更新+新設 |
「減る材料」への対応
電動化で使用量が減少する材料にも注意が必要です。白金族(Pt・Pd・Rh)はICE向け三元触媒の需要減少が明確です。Pdは2021年の高値($3,000/troy oz超)から大きく下落しており、過剰在庫を持つリスクがあります。また鉄鋼も「車1台あたりの量」はEV化で微減傾向のため、需要量を自動車生産台数だけで判断すると過大評価になります。
まとめ
- EV1台に使う銅はICE比約3倍(60〜80 kg)。電磁鋼板は約4倍(25〜45 kg)
- 高グレード無方向性電磁鋼板(0.2〜0.35 mm厚)は供給タイト——EV量産計画には早期調達確保が必要
- 希土類(Nd・Dy)は中国産への依存度が極高。供給リスクへの代替設計(低Dy化・磁石レスモーター)が進行中
- 銅は構造的需要増が続く。Pd・Ptは三元触媒需要の減少で長期的に弱気

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