真鍮(黄銅)はCu-Zn合金の総称で、亜鉛量・添加元素・製造方法でJIS記号が変わる。C2600・C3604・C3771はそれぞれ「深絞り用」「快削用」「鍛造用」という明確な役割を持つが、「真鍮なら同じ」という扱いで取り違えると、工具寿命の激減・割れ・腐食といった後工程トラブルに直結する。実際に起きた取り違えミスと、選定の境界条件を見ていく。
真鍮グレードの記号の読み方
CxxyyのCはCopper(銅)合金番号で、JIS H 3100(銅及び銅合金の板・条)などで規定される。亜鉛量が増えると強度は上がるが、40%を超えると「脱亜鉛腐食」のリスクが高まる。Pb(鉛)を添加したグレードは「快削」に分類され、Mn・Al・Feを添加したものは「高力黄銅」に分類される。
真鍮グレード全体一覧
| JIS記号 | Cu (%) | Zn (%) | 添加元素 | 別名 | 主な特徴 | 用途 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| C2100 | 94〜96 | 残部 | — | 丹銅(5%Zn) | 赤みが強い・展延性高い | 装飾・メダル |
| C2200 | 89〜91 | 残部 | — | 商業用赤銅 | 深絞り・管材向き | 配管・装飾 |
| C2600 | 68.5〜71.5 | 残部 | — | 七三黄銅 | 深絞り性が最も高い・Pb無し | 弾薬莢・コネクタ端子・深絞り品 |
| C2700 | 63〜67 | 残部 | — | 六四黄銅 | 汎用・バランス型 | 板金・管・一般部品 |
| C2800 | 59〜63 | 残部 | — | 六四黄銅(高Zn) | 高強度・コスト安 | 汎用部品・ロール品 |
| C3604 | 57〜61 | 残部 | Pb 1.8〜3.7% | 快削黄銅 | 被削性が最も高い・深絞りNG | 水栓・バルブ・継手(切削品) |
| C3605 | 57〜61 | 残部 | Pb 1.5〜2.5% | 快削黄銅(中Pb) | 切削性と強度のバランス | 精密切削部品 |
| C3712 | 57〜62 | 残部 | Pb 0.3〜1.0% | 鍛造黄銅 | 鍛造性・溶接可 | 鍛造品・弁類 |
| C3771 | 57〜61 | 残部 | Pb 1.0〜2.5% | 鍛造用快削黄銅 | 鍛造後に切削加工が可能 | ガスメーター・バルブ鍛造品 |
| C4430 | 71〜73 | 残部 | As 0.02〜0.06% | アドミラルティ黄銅 | 耐脱亜鉛腐食性に優れる | 熱交換器チューブ |
| CAC301〜304 | 55〜70 | 残部 | Mn・Al・Fe | 高力黄銅(鋳物) | 高強度・耐摩耗 | 歯車・軸受・プロペラ |
C2600・C3604・C3771の強度比較
現場で実際に起きた取り違えミス
「真鍮の棒材があった」「黄銅で手配した」という言い方のまま加工・設計が進むと、後工程で深刻なトラブルになる。
C2600を「汎用黄銅だから」と快削加工に使い、工具寿命が1/3になった
状況コネクタ端子用に手持ちしていたC2600(七三黄銅)を、バルブ部品の自動旋盤切削に転用した。加工を始めてすぐに工具の摩耗が異常に速いことに気づき、段取り替えの頻度が跳ね上がった。
原因Pbは切削時にチップを微細に破断させる「快削元素」として機能するが、C2600はPbを含まない。快削黄銅C3604(Pb 1.8〜3.7%)と比べると切削抵抗が高く、自動旋盤での工具寿命が1/3程度まで短くなっていた。
対策深絞り用と快削用は目的が異なる別材料と認識し、切削加工にはC3604、深絞りにはC2600という原則を徹底した。工具費と段取り替え頻度の増大は、材料代の差額をすぐに超えていた。
在庫のC3604棒材を削り出してプレスしたら、深絞りで割れた
状況板材の手配が間に合わず、在庫にあったC3604棒材を削り出して板状にし、深絞り加工に回した。プレス初回で耳割れ・底割れが多発し、その日の生産が止まった。
原因C3604はZnが約38〜43%と高く、Pbを1.8〜3.7%含む。Pbは結晶粒界に偏析しやすく、プレス加工時の変形能(伸び)を下げる。深絞り加工ではフランジ部からパンチ先端に向かって材料が引き延ばされるため、粒界脆性が強い材料ほど割れやすい。
対策深絞り品にはC2600(Pb無し・Zn約30%)を指定するのを基本ルールにした。C3604は切削専用グレードで、深絞り工程に転用してはいけない。
境界条件:Zn 37%——脱亜鉛腐食リスクが上がり始める閾値
黄銅の脱亜鉛腐食(Zn選択溶出)はZn量が増えるほど起きやすい。JIS・AS規格の水道用バルブ材料の規定でも、Zn 37%を超えるグレードは腐食環境での長期使用に注意が必要とされる。C3604のZn含有量は約38〜43%とこの閾値を超えており、湿気のある配管接続部や温水系統では定期点検が必要になる。C2600(Zn約30%)はこの閾値を下回るため、腐食リスクは相対的に低い。
Pb規制対応の実務判断
EU RoHS指令・REACH規則、日本の水道水質基準改正(鉛溶出量規制)により、従来の快削黄銅C3604(Pb 1.8〜3.7%)は新規設計での採用が制限される場面が増えている。飲料水・温水配管に接触する部品は鉛溶出基準への適合証明が必要で、C3604を継続使用する場合はメーカーの試験成績書を取得する。RoHS適用製品(電気・電子機器)ではPb 1000ppm超のC3604は原則使用不可で、ビスマス系代替やセレン添加快削黄銅への置換を検討する。
用途別カード
深絞り・弾薬莢(C2600)
七三黄銅は深絞り性が最も高く、銃弾薬莢・コネクタ端子の深絞り加工に広く使われる。Pb無しのため快削加工には不向き。
水栓・継手・バルブ(C3604)
快削黄銅C3604は自動旋盤切削の定番材料。水道バルブ・ガス継手・精密切削品に使われるが、深絞りへの転用はNG。
ガスメーター・鍛造バルブ(C3771)
C3771は鍛造後に切削仕上げする部品に最適。複雑形状のガスメーター部品・バルブ本体に使われる。
熱交換器チューブ(C4430)
As添加で耐脱亜鉛腐食性を高めたアドミラルティ黄銅は、冷却水系・熱交換器チューブに使われる。
真鍮グレード選定チェックリスト
- 深絞り加工か切削加工かを最初に決めた(C2600とC3604を混同していないか)
- 鍛造工程があるか確認した(あればC3771を検討)
- 水道・温水系統に使うか確認した(Zn 37%超のグレードは要注意)
- 飲料水・RoHS適用製品ならPb規制への適合を確認した
- 在庫材の転用時、加工方法が変わっていないか確認した
まとめ
- C2600(七三黄銅)は深絞り専用。Pb無し・Zn約30%。快削加工に転用すると工具寿命が大幅に低下する。
- C3604(快削黄銅)は切削専用。Pb添加・Zn約38〜43%。深絞りに使うと割れる。Zn 37%超のため腐食環境では注意が必要。
- C3771(鍛造用快削黄銅)は鍛造→切削の複合工程に使う材料で、C3604の代替ではない。
- Zn 37%が脱亜鉛腐食の実務上の境界値。C3604はこれを超えているため水道・温水系統では確認が必要。
- Pb規制(RoHS・水道水質基準)への対応は用途区分ごとに判断が異なる。飲料水接触部品では試験成績書の取得が必須。

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