SS400とSM400の違いをやさしく解説:図面・見積・発注で迷わないための実務判断ガイド

鉄鋼材料

SS400とSM400はどちらも引張強度400 N/mm²以上の普通鋼材で、「どっちでも同じでしょ」と思われがちです。しかし図面にSS400と書いてあるだけで、溶接構造物を作ろうとしたら発注先に断られた——そんな場面が実際の現場では起きます。この記事では「成分の話」にとどまらず、図面・材料表・見積の段階でSS400とSM400のどちらを指定すべきかという実務判断に的を絞って解説します。

① 記号の読み方と規格上の位置づけ

SS400 SS 400 Steel Structure 一般構造用圧延鋼材 引張強度下限値 400 N/mm²以上 ⚠️ 成分規定なし・溶接性保証なし JIS G 3101(一般構造用) SM400 A/B/C SM 400 A/B/C Steel Marine 溶接構造用圧延鋼材 引張強度下限値 400 N/mm²以上 衝撃試験 区分 ✅ 炭素量・Ceq規定あり・溶接性保証 JIS G 3106(溶接構造用)

SMの「M」はMarine(造船)に由来しますが、現在は建築鉄骨・橋梁・産業機械構造物にも広く使われています。SSは「強度が出ればよい」、SMは「溶接して安全に使える」ことを保証するための規格です。

② 成分と機械的性質——数字が同じでも中身が違う

項目SS400(JIS G 3101)SM400ASM400BSM400C
炭素(C)%規定なし0.23以下0.20以下0.18以下
マンガン(Mn)%規定なし2.5×C%以上0.60〜1.400.60〜1.40
リン(P)%0.050以下0.035以下0.035以下0.035以下
硫黄(S)%0.050以下0.035以下0.035以下0.035以下
炭素当量(Ceq)規定なし規定なし0.36%以下0.36%以下
引張強度(N/mm²)400〜510400〜510400〜510400〜510
降伏点(16mm以下)245以上245以上245以上245以上
シャルピー衝撃試験規定なし規定なし0℃で27J以上−5℃で47J以上
溶接性の保証なし部分的(低C)あり(Ceq規定)あり(Ceq厳格)
炭素当量(Ceq)とは何か——溶接安全の根拠

炭素当量(Ceq)は溶接割れのしやすさを一つの数値で表した指標です。

Ceq = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Cu+Ni)/15

SM400B/CはCeq≦0.36%と上限が規定されており、この範囲なら「予熱なしでも溶接できる」という設計上の根拠になります。SS400はCeqの規定がないため、ミルシートを確認するまで溶接安全の根拠が得られません。

③ SS400指定で本当に困る3つの場面

場面① 厚板の溶接構造物
状況板厚16mm超の溶接構造物の図面にSS400と指定した。
何が困るか溶接施工要領書(WPS)が書けない。予熱の要否が決められない。SS400は炭素量の上限がないため、ミルシートによってはC=0.25%を超えるロットが存在する。「SS材には溶接設計の適用外」とされるJIS・WES規格がある。
対策板厚16mm超の溶接構造物は原則SM400B以上を指定する。
場面② 官公庁・建設業の仕様適合
状況橋梁・建築確認が必要な構造物の材料にSS400を選んだ。
何が困るか設計図書や標準仕様書にSM材またはSN材の使用が明記されているため受け入れ検査で弾かれる。「引張強度は同じだから」という代替申請が通らない。
対策公共工事・建築確認が必要な構造物は標準仕様書の材料規定を事前に確認し、SM400B以上を指定する。
場面③ 海外調達・ミルシート確認
状況コスト削減のため海外調達のSS400相当材を溶接構造物に採用した。
何が困るかSS400は成分規定がないため海外ミル品でC=0.28%超のロットが混入しても「規格適合品」になる。溶接後にHAZ割れが発生しても責任の所在が曖昧になる。
対策海外調達が発生する構造部材はSM400B以上を指定し、ミルシートのCeq値で第三者検証できる体制を作る。
⚠️ よくある失敗:「コスト優先でSS400」→ 後から溶接費用が膨らむ 材料費の差はSS400とSM400Bでトン当たり数千円程度です。しかし溶接割れが発生した場合の手直し費用——溶接部除去・再溶接・非破壊検査——は材料費の差額をはるかに超えます。溶接が主体ならSM400Bを基本仕様とするほうがトータルコストで合理的です。

④ SM400B/CはCeq保証で予熱なし溶接の根拠になる

SS400での溶接 母材(C量不明・Ceq不明) 溶接ビード HAZ硬化? HAZ硬化? C量の上限なし → Ceq不明 ミルシートを見るまで予熱要否が不明 WPSが書けない・第三者検証できない SM400Bでの溶接 母材(Ceq≦0.36% 保証済み) 溶接ビード HAZ✓ HAZ✓ Ceq≦0.36% → 予熱なし溶接OK WPS(溶接施工要領書)が確実に書ける ミルシートでCeq値を第三者検証可能
SM400BがSM400Aより選ばれる理由
SM400AはCeqの規定がなく衝撃試験もありません。SM400BはCeq保証+0℃での衝撃値(27J以上)という2つの保証があり、コストはAとほぼ変わらず流通量も豊富なため、デファクトスタンダードになっています。「溶接するならとりあえずB」が現場の基本です。

SM400A・B・Cの選び方

SM400A

衝撃試験なし。低C規定はあるがCeq不規定。屋内常温・軽構造向け。実務ではあまり使われない。

SM400B ★標準

Ceq≦0.36%保証。0℃で27J以上。最も汎用的なグレード。一般溶接構造物・建築鉄骨の標準材。

SM400C

−5℃で47J以上。北海道向け屋外設備・寒冷地橋梁・LNG関連設備の補助構造など低温環境・重要構造物向け。

⑤ 代替可否マトリクス

代替方向可否判断の根拠と条件
SS400 → SM400B◎ 原則OKSM400Bは強度・成分ともにSS400の要求を上回る。コストが若干上がるが機能的に問題なし。設計者への確認が望ましい。
SM400B → SS400(溶接なし用途)△ 条件付きボルト接合のみ・衝撃荷重なし・常温室内用途であれば代替可能。設計図書がSMを指定している場合は設計変更扱い。
SM400B → SS400(溶接構造物)✕ 原則不可溶接性保証(Ceq規定)がなくなる。JIS・WES・発注仕様書の要求を満たせない。設計者の承認なしに代替してはいけない。
SM400B → SM400A△ 要確認Ceqの保証がなくなり衝撃値規定もなくなる。常温・軽溶接・衝撃荷重なしの条件なら許容される場合もある。設計者承認が必要。
SM400B → SN400B○ 機能的に上位SN材は降伏点上限まで規定。溶接性も保証。建築構造以外の用途では必要以上の仕様になるが機能的に問題なし。

⑥ 発注・見積段階のチェックリスト

材料指定段階(設計者向け)
  • この部材に溶接工程があるか?(あればSS400指定は避ける)
  • 板厚が16mmを超えるか?(超える場合は溶接性保証のある材料を選ぶ)
  • 低温環境(屋外・0℃以下)での使用があるか?(SM400B以上を検討)
  • 公共工事・建築確認が必要な構造物か?(標準仕様書の材料規定を確認)
  • 海外調達の可能性があるか?(SM400B以上でCeqをミルシートで確認指定)
発注・見積段階(調達・購買担当者向け)
  • 図面材料指定がSS400のみの場合、溶接工程があることを設計者に確認する
  • SM400B/C指定品のミルシートにCeq値が記載されているか確認する
  • 在庫流用でSS400→SM400への変更を行う場合、設計者の承認を得る
  • 海外調達品は”SS400相当”表記でも成分・規格番号をミルシートで個別確認する
  • 溶接構造物でSM400指定の場合、SS400での見積は「仕様違い」として別扱いにする

⑦ JIS・海外規格との対応

鋼材記号JIS規格引張強度溶接性主な用途・特徴
SS400G 3101400〜510保証なし汎用。ボルト接合・非溶接の一般機械部品・架台・カバー
SM400AG 3106400〜510低C規定のみ軽溶接構造。実務でAを指定する場面は少ない
SM400BG 3106400〜510Ceq≦0.36%溶接構造物の標準材。建築鉄骨・産業機械の基本指定
SM400CG 3106400〜510Ceq≦0.36%低温環境・重要構造物。SM400Bより衝撃値要求が高い
SN400BG 3136400〜510あり建築構造用。降伏点上限まで規定(耐震設計対応)
SMA400G 3114400〜510あり耐候性鋼。橋梁の無塗装仕様に使用
規格体系SS400相当SM400相当注意点
ASTM(米国)A36A572 Gr.42 / A709 Gr.36A36はCeq規定あり(0.45%以下)。SS400より溶接性条件が明確な場合もある
EN(欧州)S235(EN 10025)S275 / S355衝撃区分JR・J0・J2がSM400 A/B/Cにほぼ対応
GB(中国)Q235(GB/T 700)Q345(GB/T 1591)Q235はSS400と完全互換ではない。ミルシート個別確認が必要

⑧ 用途別:どちらを指定すべきか

用途・場面推奨材料理由
ボルト接合の架台・カバー・ブラケットSS400溶接なし。コスト最優先で問題なし
薄板(6mm以下)の軽溶接・タック溶接程度SS400薄板はC量の影響が小さく実用上の溶接割れリスクが低い
板厚16mm超の溶接構造物SM400BCeq保証が必須。SS400指定は設計リスク
建築鉄骨(確認申請あり)SM400B or SN400B標準仕様書がSMまたはSNを指定。SS400では検査不合格
橋梁・公共工事の主構造SM400B/C道路橋示方書等でSM材指定が一般的
屋外・0℃以下の低温環境SM400B以上衝撃値規定(27J@0℃)が安全根拠になる
海外調達が発生する構造部材SM400B(Ceqミルシート確認)Ceq値で品質を第三者検証できる
耐震設計が必要な建築構造SN400B/C降伏点上限規定(塑性変形能の確保)が求められる

⑨ まとめ

SS400・SM400で押さえておきたいこと

  • 「溶接するか・しないか」が最初の分岐点。溶接主体の設計でSS400を指定するのは設計リスク。
  • Ceq(炭素当量)が溶接安全の根拠。SM400B/CはCeq≦0.36%が保証されており、予熱なし溶接の設計根拠になる。
  • SS400指定で困る3場面:①厚板溶接(割れリスクが検証不能)②官公庁仕様(規格外として弾かれる)③海外調達(成分ばらつきの責任が不明確)
  • SM400Bがデファクトスタンダード。「溶接するならとりあえずB」が現場の基本。コストはAとほぼ変わらない。
  • 代替の方向性:SS400→SM400への上位代替は機能的にOK(設計者確認要)。SM400→SS400への下位代替は溶接構造では原則不可。
  • ミルシート確認が最終手段。SM400B指定でも海外調達品はCeq実測値の確認を怠らない。

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