「寸法精度が高い棒鋼」として図面に指定されるSGD材だが、使い方を間違えると熱処理で痛い目を見る。SGD材は炭素量の規定がなく、焼入れや窒化の結果を保証できない。「精度は高いから万能」と思って高周波焼入れを指定したら硬さが全然出なかった——というのが典型的な失敗パターンだ。どこで使えてどこで使えないか、炭素量の問題を中心に整理する。
記号の読み方
SGD記号の構成:
S(一般構造用)+ G(研削または引抜き)+ D(引抜き仕上げ)または -G(研削仕上げ)+ 引張強さ(290・400・490等)
JIS G 3194で規定。素材はSS400相当・S35C相当など様々だが、炭素量(C%)は規格上の規定がない。
S(一般構造用)+ G(研削または引抜き)+ D(引抜き仕上げ)または -G(研削仕上げ)+ 引張強さ(290・400・490等)
JIS G 3194で規定。素材はSS400相当・S35C相当など様々だが、炭素量(C%)は規格上の規定がない。
「引抜き(-D)」はダイスに通して冷間引抜きしたもの、「研削(-G)」は円筒研削仕上げのもの。どちらも表面の黒皮が除去されて寸法精度が高い。ここまでは長所だが、問題は成分保証の範囲だ。
SGD材が保証していること・していないこと
| 項目 | SGD材 | S45C(機械構造用炭素鋼) |
|---|---|---|
| 引張強さ | 規定あり | 規定あり |
| 寸法精度 | 高い(h9〜h11) | 黒皮材は低い |
| 表面状態 | 黒皮なし・きれい | 黒皮あり(冷引材は別) |
| 炭素量(C%) | 規定なし | 0.42〜0.48% 規定あり |
| 焼入れ後硬さ保証 | できない | できる(焼入れ性評価可) |
| 窒化後硬さ保証 | できない | 鋼種次第で可 |
| コスト | やや安い | やや高い |
注意
SGD材の炭素量は実態として0.15〜0.25%程度のものが多いが、これは保証値ではない。C量が低いロットに当たると焼入れしても硬さが出ない。「SGD材で高周波焼入れ後55HRC以上」という図面指定は、材料側の根拠がない。
仕上げ方法と精度の比較
| 仕上げ記号 | 方法 | 寸法精度(外径) | 表面粗さ(Ra) | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| SGD-D(引抜き) | 冷間引抜き | h9〜h11 | 3.2〜6.3μm | 一般シャフト・ピン素材 |
| SGD-G(研削) | 円筒研削 | h5〜h7 | 0.8〜1.6μm | 精密シャフト・リニアガイド軸 |
| 黒皮材(HR) | 熱間圧延まま | ±1mm程度 | 12.5〜25μm | 溶接フレーム・荒削り素材 |
トラブル事例
「SGD290-D、高周波焼入れ後55HRC以上」と図面に書いたら硬さが出なかった
状況位置決めピンの図面に「SGD290-D、高周波焼入れ後55HRC以上」と指定。熱処理後の硬さ確認でHRC35程度しか出ず、全数不合格になった。
原因SGD290はC量無規定。届いたロットの炭素量が0.15%程度で、焼入れしても硬化できる炭素量が不足していた。高周波焼入れで55HRCを出すにはC量0.40%以上が必要で、SGD材ではそれが保証されない。
対策材料をS45C(C:0.42〜0.48%)に変更し、焼入れ焼戻し後に外径研削で寸法を出す工程に組み替えた。コストは上がったが熱処理後の硬さが安定した。
コスト削減でS45CをSGD290に替えたら熱処理の結果がバラバラになった
状況コスト削減のため「強度は同等だから」とSGD290をS45Cの代替として採用。調質処理後の硬さ確認でロット間のばらつきが大きく、規格外品が多発した。
原因S45CはC:0.42〜0.48%が保証されているため調質後の硬さが安定する。SGD290はC量がロット間でばらつき、同じ熱処理条件でも硬さが変わる。「強度の数値が近い」と「熱処理後の硬さが保証される」は別の話。
対策S45Cに戻した。材料コストの差より熱処理の手直し・検査コストの方がはるかに高くついた。熱処理を伴う機械部品へのSGD代替は「コスト削減にならない」と判断した。
窒化処理で期待した表面硬さに届かなかった
状況摺動部品にSGD材を使い、窒化処理で表面硬さ900HV以上を狙った。処理後の確認で650HV程度しか出ず、摩耗試験で早期に剥離が発生した。
原因窒化で高硬度を出すにはAl・Crなどの合金元素が必要。SACM645(Al含有)やSCM材(Cr含有)はこれを保証しているが、SGD材は合金元素量の規定がなく、窒化層の硬さと深さが不安定になる。
対策材料をSACM645(窒化用鋼)に変更。処理後に1000HV超が安定して出るようになった。「窒化処理前提の部品にはSGD材は使わない」を設計ルールに追加した。
代替可否マトリクス
| 用途・要件 | SGD材 | S45C | SCM440 |
|---|---|---|---|
| 寸法精度重視・熱処理なし | ◎ | △(黒皮材は精度低) | △ |
| 焼入れ焼戻し(調質) | ✕ | ◎ | ◎ |
| 高周波焼入れ(50HRC以上) | ✕ | ◎ | ◎ |
| 窒化処理(900HV以上) | ✕ | △ | ○(Cr効果) |
| コスト優先 | ◎ | ○ | △ |
| 溶接構造 | △ | △(予熱要) | △(予熱要) |
SGDのJISグレードと引張強さ
| グレード | 引張強さ(N/mm²) | 相当材の目安 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| SGD290-D | 290以上 | 低炭素鋼相当 | 精度重視・熱処理なしのピン・軸 |
| SGD400-D | 400以上 | SS400相当 | 一般シャフト・スペーサー |
| SGD490-D | 490以上 | S35C〜S45C相当(C量保証なし) | 強度が要るが熱処理なしの用途 |
SGD材が本領を発揮する用途
位置決めピン(熱処理なし)
h9程度の精度がそのまま使える。焼入れ不要で位置精度だけが重要な場面ではSGD材が最もコスパが良い。
リニアガイド軸・低荷重ガイド
研削仕上げ(-G)で表面粗さRa0.8程度まで出せる。軽荷重・低速の摺動ならそのまま使えるケースがある。
治具・フィクスチャーの基準軸
繰り返し荷重が小さく、精度の出しやすさが最優先。熱処理なしで形状を維持できる治具類は最適な用途。
旋盤加工前の素材
黒皮なしで工具寿命が延び、取り代も小さくできる。ただし熱処理工程が後に続くなら材料をS45Cに変える。
選定チェックリスト
SGDを使えるか——最初の1問
- ☐ この部品に熱処理(焼入れ・窒化・調質)が必要か?
- → 不要 → 精度重視ならSGD材でよい
- → 必要 → S45C・SCM440・SACM645など炭素量・合金元素が規定された材料に切り替え
- ☐ 高周波焼入れで50HRC以上 → SGD材では出ない。S45C以上を使う
- ☐ 窒化で900HV以上 → SGD材では不安定。SACM645かSCM材を使う
- ☐ 調質後の硬さを保証したい → C量保証のあるS45C・SCM440を使う
- ☐ 精度だけ必要・熱処理なし → SGD材が適切
SGD材を使う前に確認すること
- SGD材は寸法精度(表面・外径)は保証するが、炭素量・合金元素量は規定がない。熱処理後の硬さを保証できない材料だ。
- 「寸法精度が高いから高機能」ではなく、「精度は高いが成分は保証しない」というのが正確な理解。熱処理が必要な部品に使うと必ず問題になる。
- 選定の出発点は「熱処理するか否か」の1点。熱処理なしの精度部品ならSGD材が最もコスパが良い。熱処理が入るならS45CかSCM材に変える。


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