① 記号の読み方:SGDの各文字が示すもの
SGDはJIS G 3194「一般構造用みがき棒鋼」で規定される棒材です。「みがき」とは光沢仕上げのことではなく、引抜き・研削によって高い寸法精度を持たせた加工状態を指します。
重要なのは、JIS G 3194が規定するのは引張強さと寸法公差のみであり、S45Cのような機械構造用炭素鋼とは異なり、炭素量(C%)の規定がありません。この点が現場トラブルの根本原因になります。
② 仕上げ方法・寸法精度・性質の比較
仕上げ記号と寸法精度
| 仕上げ記号 | 方法 | 寸法公差の目安 | 表面粗さ Ra | コスト |
|---|---|---|---|---|
| SGD○○○-D | 引抜き仕上げ | h9〜h11(±0.02〜0.05mm/φ25) | 0.8〜3.2μm | 低 |
| SGD○○○-G | 研削仕上げ | h6〜h7(±0.005〜0.013mm/φ25) | 0.1〜0.4μm | 高 |
SGDとS45C・SS400の比較
| 項目 | SGD290-D | SS400(熱間圧延) | S45C |
|---|---|---|---|
| 規格 | JIS G 3194 | JIS G 3101 | JIS G 4051 |
| 炭素量規定 | なし | なし | 0.42〜0.48% |
| 引張強さ | 290〜540 N/mm² | 400〜510 N/mm² | 570 N/mm²以上(焼ならし後) |
| 寸法精度 | 高(h9〜h11) | 低(h12〜h14程度) | 中(h11〜h12) |
| 焼入れ対応 | 原則不可(炭素量不明) | 不可 | 可(55〜62HRC) |
| 主な用途 | 精度が必要な軸・ピン(熱処理なし) | 構造材・溶接構造物 | 機械部品・軸類(熱処理あり) |
③ SGD指定で詰まる3つの場面
④ 代替可否マトリクス
| 使用条件 | SGD → S45Cへ変更 | S45C → SGDへ変更 | SS400丸棒 → SGDへ変更 |
|---|---|---|---|
| 熱処理なし・精度要求あり(軸、ピン) | ○ 問題なし | △ コスト増・過剰品質 | ○ 推奨 |
| 焼入れ・焼戻しあり(強度部品) | ○ 推奨 | ✕ 炭素量不足・硬さ不足 | ○ 材料変更後に熱処理可 |
| 浸炭焼入れあり | ○(低炭素鋼で可) | ✕ 炭素量不明・不安定 | △ 炭素量要確認 |
| 窒化処理あり | △ SCM440 or SACM645推奨 | ✕ Al・Cr量不保証・効果薄 | ✕ 同左 |
| 溶接構造(非強度) | ○ | △ SS400/SM400で十分な場合多い | △ 精度不要なら不要なコスト |
⑤ 設計者・調達担当者のチェックリスト
- この部品に熱処理(焼入れ・浸炭・窒化)を指定しているか? → YES なら SGD は使えない
- 強度計算の根拠となる材料特性(引張強さ・耐力)は何の規格で保証されるか確認したか?
- 寸法精度だけが必要な箇所か? → それならSGD-D または SGD-G を使う価値がある
- 「SGD指定+後加工なし」で組み付け精度を確保できるか?
- 類似記号 SK材 と混同していないか(SK材は炭素工具鋼、炭素量保証あり)
- 図面の材料記号が「SGD」か「S45C」か確認したか(字形が似ており、読み間違いがある)
- 材料メーカーのミルシートで炭素量(C%)が記載されているか確認したか?
- 仕上げ記号 -D と -G どちらが指定されているか確認したか(寸法公差が倍以上変わる)
- 代替材料として S45C が提案された場合、設計者の承認を取ったか?
⑥ JIS G 3194 グレードと機械的性質
| グレード | 最小引張強さ(N/mm²) | 伸び(%) | 主な用途イメージ | 炭素量目安 |
|---|---|---|---|---|
| SGD290 | 290以上 | 28以上 | 精度要求のある低強度軸・ピン | 低(0.08〜0.15%) |
| SGD390 | 390以上 | 22以上 | 一般機械部品・ガイドピン | 低中(0.15〜0.25%) |
| SGD490 | 490以上 | 17以上 | やや強度が必要な精密軸 | 中(0.25%前後) |
海外規格との対応
| JIS(日本) | EN(欧州) | ASTM(米国) | 備考 |
|---|---|---|---|
| SGD290-D(引抜き) | EN 10277(Bright Steel) | ASTM A108(Cold drawn) | 精度保証の概念は共通 |
| SGD○○○-G(研削) | EN 10277 h6/h7 | Ground bar(個別仕様) | 研削品は規格より精度協定が多い |
⑦ 用途別:SGDが活きる場面と使えない場面
ノックアウトピン、ダウエルピン。精度そのままで圧入できるSGD-Gが最適。熱処理なしで十分な場合に使う。
スライダーを通す低荷重ガイド軸。寸法公差が重要で強度要求が低い用途。SGD-Dで十分なことが多い。
測定・組付け治具の基準軸。高精度だが繰り返し荷重がない用途。後加工コスト削減に貢献。
トルクがかかる軸には強度保証が必要。S45C(調質)またはSCM440を選ぶ。
表面硬さが必要。SGDでは炭素量不足で浸炭焼入れや高周波焼入れが有効に機能しない。
窒化処理を前提とする場合はSACM645を選ぶ。SGDではAl・Crが不足し 900HV以上に届かない。
⑧ まとめ:SGD材の実務判断ポイント
SGD材で迷ったときの3つの確認
- 熱処理(焼入れ・浸炭・窒化)を指定するか? → YES なら SGD は使えない。S45CまたはSCM440へ。
- 必要なのは精度か、強度か? → 精度のみ+熱処理なし → SGD-D/-G が最適。強度が必要 → S45C。
- ミルシートに炭素量は記載されているか? → SGD では記載がないことが多い。熱処理根拠として使えない。
SGD材は「精度を買う材料」です。SS400の熱間圧延棒では寸法精度が出ない場面で、後加工コストを下げるために使います。焼入れ・焼戻しなどの熱処理を前提とする部品には、炭素量が保証されていないSGD材は原則として指定できません。
選定の出発点は「この部品に熱処理は必要か」という1問です。熱処理が不要で精度が必要なら SGD、熱処理があるなら S45C か SCM440 を選んでください。


コメント