SUS304 と SUS301 の違いをやさしく解説:用途・強度・加工性の使い分けまで
「SUS304 と SUS301、どちらもオーステナイト系ステンレスなのに何が違うの?」という疑問をよく耳にします。数字が近いため混同されがちですが、炭素量・ニッケル量の差から生まれる性質の違いは実際の設計・加工に大きく影響します。このページでは2つの鋼種をわかりやすく比較します。
① JIS 記号の読み方と位置づけ
図1:JIS 記号の構造(SUS304 と SUS301 は同じ 3xx 系オーステナイト系)
② 化学成分の違い
| C(炭素) | ≤ 0.08 % |
| Cr(クロム) | 18.00〜20.00 % |
| Ni(ニッケル) | 8.00〜10.50 % |
| Si | ≤ 1.00 % |
| Mn | ≤ 2.00 % |
| C(炭素) | ≤ 0.15 %(304 の約 2 倍) |
| Cr(クロム) | 16.00〜18.00 % |
| Ni(ニッケル) | 6.00〜8.00 %(304 より少ない) |
| Si | ≤ 1.00 % |
| Mn | ≤ 2.00 % |
SUS301 は SUS304 よりも Ni を少なく・C をやや多くした設計です。Ni が少ないとオーステナイトが不安定になり(Md30 が高くなり)、冷間加工で加工誘起マルテンサイト変態が起きやすくなります。これを逆手に取り、加工硬化を積極的に利用して高強度化するのが SUS301 の設計思想です。
③ 機械的性質の比較
| 性質 | SUS304(固溶化処理) | SUS301(固溶化処理) | SUS301-H(硬質材) |
|---|---|---|---|
| 引張強さ(MPa) | 520 以上 | 520 以上 | 860〜1130 |
| 耐力 0.2%(MPa) | 205 以上 | 205 以上 | 515〜930 |
| 伸び(%) | 40 以上 | 40 以上 | 25〜8(加工度で変化) |
| 硬さ(HBW) | 187 以下 | 187 以下 | 260〜390 |
| 加工硬化性 | 中程度 | 大きい | — |
| Md30 目安(°C) | +10〜+30 | +60〜+90 | — |
図2:SUS304 vs SUS301 性能レーダーチャート(相対比較)
④ 加工硬化のしくみ:なぜ SUS301 は加工で強くなるのか
図3:加工硬化の差:SUS304 は安定、SUS301 はマルテンサイト変態で急激に強度上昇
⑤ 耐食性・溶接性・磁性の比較
| 特性 | SUS304 | SUS301 | コメント |
|---|---|---|---|
| 耐食性 | 高い(優) | やや低い(Cr・Ni 少) | 屋外・塩水環境では SUS304 が有利 |
| 溶接性 | 優良 | やや注意(C 高い) | SUS301 は溶接後の鋭敏化リスクあり |
| 磁性(固溶化処理後) | 非磁性 | 非磁性 | 加工後は SUS301 のほうが磁石がつきやすい |
| 加工誘起磁性 | 中程度 | 大きい | SUS301-H は強磁性に近くなる |
| コスト(概算) | 基準 | ほぼ同等〜やや安 | Ni 含有量が少ないため微妙に安いこともある |
⑥ JIS・海外規格対応表
| JIS | ASTM/AISI | EN(欧州) | GB(中国) | 系統 |
|---|---|---|---|---|
| SUS304 | 304 / S30400 | 1.4301 / X5CrNi18-10 | 06Cr19Ni10 | オーステナイト・汎用 |
| SUS301 | 301 / S30100 | 1.4310 / X10CrNi18-8 | 12Cr17Ni7 | オーステナイト・高加工硬化型 |
| SUS301L | — | — | — | SUS301 の低炭素版(JIS 独自) |
| SUS301J1 | — | — | — | N 添加で強度と溶接性を両立(JIS 独自) |
⑦ 用途別の使い分け
SUS301-H(ハード材)が最適。加工硬化で得た高強度・弾性を活かし、板ばね・コイルばね・クリップ・端子バネに広く使用されます。
SUS301L は新幹線の外板に使われてきた実績があります。高強度と溶接性のバランスが要求される大型構造体向けです。
耐食性と溶接性の優れる SUS304 が標準。腐食性環境での長期使用・頻繁な洗浄が必要な用途には SUS304 を選びます。
SUS301 の薄板・調質材は、カメラシャッター羽根・HDD 部品・コネクタの接触ばねなど精密薄板ばねに採用されます。
加工硬化が不要で耐食性重視なら SUS304 一択。配管・フランジ・タンク・溶接構造物の汎用グレードです。
まとめ:SUS304 と SUS301 で押さえておきたいこと
- SUS301 は SUS304 より Ni が少なく(6〜8% vs 8〜10.5%)、C がやや多い(≤0.15% vs ≤0.08%)
- この差により SUS301 はオーステナイトが不安定で、冷間加工で加工誘起マルテンサイトが大量に生じる
- SUS301-H(ハード材)は引張強さ 860〜1130 MPa と、固溶化処理状態(520 MPa)の約 2 倍に達する
- SUS301 の高強度を活かす用途:板ばね・精密ばね・クリップ・鉄道車両外板
- SUS304 が有利な用途:耐食性重視の配管・タンク・食品機器・溶接構造物
- どちらも固溶化処理後は非磁性だが、SUS301 は加工後に磁石がつきやすくなる
- SUS304 の国際対応:ASTM 304 / EN 1.4301。SUS301 の国際対応:ASTM 301 / EN 1.4310
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