ポアソン比・せん断弾性係数をやさしく解説:ヤング率だけでは足りない場面

「FEM解析でヤング率だけ入れたら変形が変だった」「コイルバネのたわみ計算が実測値と合わない」——これらのミスの多くは、ポアソン比やせん断弾性係数(剛性率)を正しく扱えていないことが原因です。ヤング率Eは引張方向の剛性を表しますが、横方向の変形(ポアソン効果)やねじり・せん断の変形には対応できません。本記事では、ν(ポアソン比)とG(せん断弾性係数)の意味・関係式・数値・実務への影響を体系的に解説します。

1. ポアソン比ν とは何か

棒を引っ張ると、引張方向に伸びると同時に、垂直方向(横方向)には縮みます。この横変形の割合をポアソン比νで表します。

定義式 ν = −(横ひずみ) ÷ (縦ひずみ)
= −(ΔD/D)÷(ΔL/L)

マイナス符号は「縦が伸びると横が縮む」という逆向き関係を正の値で表すための符号です。

理論的な範囲は −1 ≦ ν ≦ 0.5 ですが、実用金属はほぼ 0.25〜0.35 の範囲に収まります。ゴムは ν ≈ 0.5(非圧縮性)、コルクは ν ≈ 0(横方向にほとんど変形しない)という特異な値を示します。

2. せん断弾性係数G(剛性率)とは

せん断応力τとせん断ひずみγの比がせん断弾性係数Gです。

定義式 G = τ ÷ γ (単位:GPa)

引張に対するヤング率Eに相当するせん断方向の剛性指標です。ねじり・コイルバネ・平行キー・ボルトせん断など、せん断力が支配的な設計ではGが基本になります。

3. E・G・νの関係式(等方性材料)

等方性材料(金属の大多数)では、E・G・νは独立ではなく次の式で結びついています。

重要関係式 G = E ÷ (2 × (1 + ν))

例:鋼(E=206 GPa, ν=0.28)の場合
G = 206 ÷ (2 × 1.28) = 206 ÷ 2.56 = 80.5 GPa

つまり、等方性金属はE とν を指定すれば G は自動的に決まります。FEM解析でE・ν・Gを独立に入力できるソフトの場合、整合しない値を入れると計算がおかしくなります。

体積弾性率K(参考)

三軸均等な静水圧に対する剛性が体積弾性率Kです。

体積弾性率の式 K = E ÷ (3 × (1 − 2ν))

ゴム(ν≈0.5)は K → ∞(体積を圧縮できない)。コンクリート(ν≈0.2)は K が比較的小さく、体積変化しやすい。

4. 代表材料のE・ν・G比較

材料E (GPa)νG (GPa)備考
炭素鋼・合金鋼2060.2880最も一般的な構造材
ステンレス鋼(SUS304)1930.2975鋼より若干低い
アルミニウム合金700.3326軽量だがGは低い
チタン合金(Ti-6Al-4V)1160.3244比強度に優れる
1300.3448導電部品に多用
ゴム(天然系)0.001〜0.01≈0.500.0003〜0.003非圧縮性・大変形
コンクリート20〜300.18〜0.209〜12引張に弱い
CFRP(0°積層)130〜2000.30〜0.355〜7異方性が大きい(面外方向は大幅に低下)

アルミのGは鋼の約1/3(26 vs 80 GPa)。ヤング率の比(1/3)と一致するため、アルミは引張方向もせん断方向も鋼の約1/3の剛性しかない。

5. ポアソン比が設計に直接影響する場面

5-1. 圧入・締まり嵌めの圧入力計算

軸とハブの圧入では、軸が径方向に押し縮められ、ハブが径方向に膨らみます。このときの接触圧力(面圧)は Lamé の式で計算しますが、式の中に明示的にνが登場します。ν=0 で計算すると面圧を過大評価し、圧入力・保持力を誤る原因になります。

5-2. FEM解析での等方性材料定義

ほとんどのFEMソフト(Ansys・ABAQUS・NX等)は等方性材料をE とν で定義し、Gは内部計算します。このときν=0(デフォルト値のまま放置)で解析すると、G=E/2 という誤った値が使われ、せん断変形の支配的な問題(ねじり・横荷重)で結果が大きくずれます。

注意FEM解析のマテリアルライブラリを自作する場合、ν を設定し忘れたままゼロで実行してしまうミスが多発します。鋼は ν=0.28〜0.30、アルミは ν=0.33 を必ず確認してから解析を実行してください。

5-3. ゴム部品の設計(ν≈0.5の非圧縮性)

ゴムは体積がほぼ変化しない非圧縮性材料(ν≈0.49〜0.50)です。金属向けの線形弾性モデルをそのまま適用すると K→∞ となり数値計算が発散します。ゴムを含むFEM解析では非圧縮性に対応した定式化(ほぼ非圧縮性要素・ペナルティ法・混合定式化等)が必要です。

6. せん断弾性係数Gが直接効く設計

6-1. コイルバネのたわみ計算

コイルバネの荷重−たわみ特性はバネ定数kで表され、

コイルバネのバネ定数式 k = (G × d⁴)÷ (8 × D³ × N)

G:せん断弾性係数、d:線径、D:コイル平均径、N:有効巻数

G が1%違うとバネ定数も1%変わります。鋼(G=80 GPa)をアルミ(G=26 GPa)に材料変更すると、同形状でバネ定数が約1/3になります。

6-2. 軸のねじり剛性

丸軸のねじり角θは θ = (T × L) ÷ (G × Ip) です(T:ねじりモーメント、L:軸長、Ip:極断面二次モーメント)。E ではなく G で支配されるため、ヤング率が高い材料でもせん断弾性係数が低ければねじれ角は大きくなります。

7. 数値計算例:GをEとνから求める

計算例 ① 鋼(SCM440) E = 206 GPa、ν = 0.28
G = 206 ÷ (2 × (1 + 0.28)) = 206 ÷ 2.56 = 80.5 GPa
計算例 ② A7075アルミ合金 E = 71 GPa、ν = 0.33
G = 71 ÷ (2 × (1 + 0.33)) = 71 ÷ 2.66 = 26.7 GPa
計算例 ③ CFRP(疑似等方積層・参考値) E ≈ 70 GPa、ν ≈ 0.30
G = 70 ÷ (2 × 1.30) = 26.9 GPa(面内)
※CFRPは実際には異方性材料のため、面外方向のGは大幅に異なります。等方近似はあくまで参考値です。

8. トラブル事例

コイルバネのたわみ計算でGの値を誤り、組み付け後に剛性不足が発覚
状況SUS304製コイルバネを設計。バネ定数の計算に G=80 GPa(鋼の値)を使用したところ、実測バネ定数が計算値の約94%しか出ず、組み付け後の荷重−たわみ特性が要求仕様を下回った。
原因SUS304のせん断弾性係数は G≈75 GPa であり、炭素鋼の80 GPa より約6%低い。計算シートが「鋼共通値」として80 GPaを自動入力する仕様になっており、材料変更時に更新されなかった。6%の差はバネ定数に直接1:1で効く。
対策(1)計算シートにGの材料別プルダウン選択欄を設け、材料選択時に自動で正しいGが入力される仕組みに変更。(2)バネ設計書のチェックリストに「G値の材料確認」項目を追加。(3)試作バネの全数でバネ定数実測を行い、計算値との乖離が±3%以内か確認することを工程標準に規定した。

9. 設計チェックリスト

ポアソン比・せん断弾性係数 設計チェックリスト
  • FEM解析のマテリアル定義でポアソン比νをゼロのまま放置していないか
  • コイルバネ・ねじり軸・せん断キーの計算にGを使っているか(Eではなく)
  • 材料を変更したとき、G値も合わせて更新したか(SUS304は75 GPa、アルミは26 GPa)
  • 圧入・締まり嵌めの面圧計算にνを考慮したLaméの式を使っているか
  • ゴム・エラストマーを含む解析でν≈0.5の非圧縮性に対応した解析手法を使っているか
  • CFRPなど異方性材料を等方性近似で扱っていないか(面外Gは特に要注意)
  • G = E ÷ (2(1+ν)) の整合性を確認したか(E・ν・Gを独立入力できるFEMの場合)

まとめ

  • ポアソン比νは「縦ひずみに対する横ひずみの比」。金属は 0.25〜0.35、ゴムは ≈0.50(非圧縮性)。
  • せん断弾性係数GはG = E ÷ (2(1+ν)) で求まり、ねじり・コイルバネ・せん断設計の基本定数。
  • 鋼G=80 GPa、アルミG=26 GPa、SUS304 G=75 GPa。材料変更時にGの更新を忘れないこと。
  • FEM解析ではν=0のまま解析すると誤差が出る。等方性材料はE とν だけ入力し、Gは自動計算に任せるのが安全。
  • 圧入計算・ゴム設計・CFRP解析では特にν の扱いが結果に大きく影響する。

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