油圧ポンプは毎分何百リットルもの油を高圧に変換し続ける、過酷な条件下で動き続ける機械です。ハウジング・歯車・ベーン・ピストン・シューなど、部位ごとに全く異なる材料が使われています。「なぜポンプのハウジングは鋳鉄なのか」「アルミポンプはいつ選ぶのか」を材料の視点から解説します。
ポンプハウジングの材料選定
FC250鋳鉄(最もポピュラー)
JIS G5501で規定される片状黒鉛鋳鉄です。引張強さ250N/mm²以上。複雑な内部油路を一体鋳造できることと、切削加工性に優れる点が評価されます。また、黒鉛が振動を吸収する「減衰性」があり、ポンプ運転時の騒音・振動を抑える効果もあります。コストは鋼の鋳造品より安い。
弱点は引張強さが低く、衝撃に対して脆いこと。薄肉・軽量化には不向きです。
FC300・FC350(高強度鋳鉄)
同じ片状黒鉛鋳鉄ですが引張強さが300・350N/mm²以上に上がります。高圧ピストンポンプのハウジングや、繰り返し圧力変動が大きい用途に使われます。
ADC12(アルミダイカスト)
JIS H5302のアルミダイカスト合金(Si:11.0〜13.0%、Cu:1.5〜3.5%)。引張強さは230N/mm²以上で鋳鉄と同程度ですが、密度が鋳鉄の約1/3。車載・モバイル油圧(農機・フォークリフト・建設機械)での軽量化に有効です。ダイカストの精度が高いため後加工が少なく、量産コストを下げられます。
ただし耐熱性に劣り、150℃を超えると強度が急低下します。また、作動油温度が高い用途では熱膨張差でシール面が狂う場合があります。高温・高圧のピストンポンプには不適です。
鋳鋼(SC・SCW系)
鋳造品でありながら引張強さが450〜550N/mm²以上。高圧ピストンポンプ(35MPa超)で、かつ衝撃荷重がかかる建設機械などで使われます。鋳鉄より加工が難しくコストが高い分、強度・靭性のトレードオフが大きい用途専用です。
| 材料 | 引張強さ | 密度 | 振動減衰性 | 耐熱性 | コスト | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| FC250鋳鉄 | 250N/mm²以上 | 7.2g/cm³ | ◎ | ○ | ◎ | 汎用ギヤ・ベーンポンプ |
| FC300鋳鉄 | 300N/mm²以上 | 7.2g/cm³ | ◎ | ○ | ○ | 高圧ピストンポンプ |
| ADC12アルミ | 230N/mm²以上 | 2.7g/cm³ | △ | △(〜150℃) | ○(量産) | 車載・モバイル用軽量ポンプ |
| 鋳鋼(SC) | 450N/mm²以上 | 7.8g/cm³ | △ | ◎ | △ | 建設機械・超高圧用 |
ポンプ内部部品の材料
ギヤポンプの歯車
ギヤポンプの歯車は高面圧・高速回転・油膜を介した金属接触という条件下で使われます。
| 部品 | 材料 | 処理 | 硬さ |
|---|---|---|---|
| 外接ギヤ(標準) | SCM415 | 浸炭焼入れ | 58〜62HRC(表面) |
| 外接ギヤ(高精度) | SCM420 | 浸炭焼入れ+研削 | 58〜62HRC(表面) |
| 内接ギヤ(トロコイド) | SCM415 | 浸炭焼入れ | 58〜62HRC(表面) |
ベーンポンプのベーン
ベーン(羽根)はロータ溝の中を往復しながらカムリングに接触し続けます。摩耗が激しいため、高速度鋼(SKH51)または高クロム工具鋼(SKD11)を使い、焼入れ後に60〜64HRCまで硬化させます。
| 部品 | 材料 | 硬さ | 理由 |
|---|---|---|---|
| ベーン | SKH51(高速度鋼) | 62〜65HRC | 耐摩耗性最優先。カムリングとの接触面に耐える |
| カムリング | SCM415浸炭焼入れ | 58〜62HRC | ベーンより若干低硬度に設定して交換部品をベーン側に集中 |
| ロータ | SCM415浸炭焼入れ | 55〜60HRC | 溝の耐摩耗性と靭性のバランス |
ピストンポンプのピストン・シュー
ピストンポンプは最高圧力が35〜42MPaに達し、部品への負荷が最も大きいポンプです。
| 部品 | 材料 | 処理・特徴 |
|---|---|---|
| ピストン | SCM440・SUJ2 | 高硬度・高寸法精度。シリンダブロックとの隙間は数μm単位で管理 |
| シュー(スワッシュプレート接触部) | 銅合金(CAC502など) | 青銅系。相手材(鋼)との凝着を防ぐため異種材料を組み合わせる |
| シリンダブロック | 銅合金(CAC502)・鉄系焼結 | ピストンとの相性で銅合金か焼結金属を選択 |
| バルブプレート | FC300・硬化鋳鉄 | 摺動面に焼き付き防止処理 |
ポンプ種類別・材料構成まとめ
| ポンプ種類 | ハウジング | 主要摺動部 | 最高圧力目安 |
|---|---|---|---|
| ギヤポンプ | FC250 | SCM415浸炭歯車 | 25MPa |
| ベーンポンプ | FC250 | SKH51ベーン+SCM415カムリング | 17MPa |
| ピストンポンプ(軸方向) | FC300・鋳鋼 | SUJ2ピストン+銅合金シュー | 35〜42MPa |
| 車載ギヤポンプ(軽量) | ADC12 | SCM415浸炭歯車 | 20MPa |
まとめ
- 汎用ポンプハウジングはFC250鋳鉄が標準。振動減衰性・加工性・コストのバランスが最良
- 軽量化が必要な車載・モバイル機器はADC12アルミを選ぶが、150℃以上では不可
- 高圧ピストンポンプの摺動部はSUJ2ピストン+銅合金シューの異種材料組み合わせが基本
- ベーンポンプのベーンはSKH51(62〜65HRC)で摩耗最優先設計
- ポンプ寿命は材料よりも作動油清浄度(フィルタ管理)で左右される面が大きい
→ ピストンロッドの材料と表面処理|S45C・SCM440・硬質Crめっき・DLCの使い分け
→ 油圧配管材料の選び方|STPG370・STS370・SUS316Lの使い分け
→ 油圧ポンプの材料|FC250・ADC12・鋳鋼の使い分けと選定基準
→ 油圧シール材の選び方|NBR・FKM・PTFE・EPDMと作動油の相性マップ
→ 作動油と金属腐食|鉱物油・エステル系・水グリコール系が金属に与える影響

コメント