油圧システムのトラブルで最も多いのが「油漏れ」です。その原因のかなりの割合を占めるのがシール材の選定ミスです。特に作動油を変更したタイミングでシールが膨潤・硬化して漏れが多発するケースは珍しくありません。本記事では、NBR・FKM・PTFE・EPDMの特性と作動油との相性を体系化します。
油圧シールの役割と要求特性
シールは「液体を閉じ込める」だけでなく、ピストンロッドやスプールと摩擦しながら動く「摺動シール」としての機能も果たします。そのため、単純な耐油性だけでなく、耐摩耗性・圧縮永久歪み・耐温度性が同時に求められます。
| 要求特性 | なぜ必要か |
|---|---|
| 耐油性(耐膨潤性) | 作動油に接触しても体積変化・軟化が小さいこと |
| 圧縮永久歪みが小さい | 長期間圧縮されても変形が元に戻り、シール面圧を維持すること |
| 耐温度性 | 作動油温度(常温〜120℃が多い)で劣化しないこと |
| 耐摩耗性(摺動シール) | ロッド・スプールとの摺動で早期摩耗しないこと |
主要シール材料4種の特性
NBR(ニトリルゴム)
アクリロニトリルとブタジエンの共重合体。アクリロニトリル含量(AN量)が高いほど耐油性が上がり、低いほど低温柔軟性が向上します。油圧用には中〜高AN量品(33〜42%)が標準です。鉱物系作動油との相性が非常に良く、コストも安い。汎用油圧シールのデファクトスタンダードです。
FKM(フッ素ゴム、バイトン®など)
フッ素含量が高く、化学的安定性が極めて高いゴムです。耐熱性は−20〜+200℃と広い。合成エステル系・リン酸エステル系・燃料に強い。ただしコストはNBRの5〜10倍。低温(−10℃以下)では硬くなりシール性が低下するため、寒冷地・低温環境には不適な場合があります。
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン、テフロン®など)
ほぼすべての化学品に耐え、摩擦係数が極めて低い樹脂です。使用温度は−200〜+260℃。ただし「ゴム弾性がない」ため、単体では油圧シールとして使いにくい。通常はNBR・FKMのOリングをバックアップリング(スペーサー)として使い、摺動面にPTFEを使う「複合シール」として使用します。
EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)
耐熱性・耐オゾン性・耐候性に優れますが、鉱物系作動油には接触禁止です。鉱物油でEPDMは急速に膨潤・軟化します。水・水蒸気・リン酸エステル系作動油・ブレーキフルード(DOT3/4)との相性が良い。一般油圧とは別世界の用途です。
| 材料 | 耐熱温度 | 低温限界 | コスト | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| NBR | +100℃(短期+120℃) | −30℃ | ◎ | 鉱物油向け標準品 |
| H-NBR(水素化NBR) | +150℃ | −30℃ | ○ | NBRの耐熱・耐摩耗強化版 |
| FKM | +200℃ | −20℃ | △ | 高温・合成油・燃料向け |
| PTFE | +260℃ | −200℃ | △ | 全薬品対応。弾性なし→複合シールで使用 |
| EPDM | +150℃ | −50℃ | ○ | 水・リン酸エステル系専用。鉱物油で膨潤 |
作動油とシール材の相性マップ
| 作動油の種類 | NBR | FKM | PTFE | EPDM |
|---|---|---|---|---|
| 鉱物油系(R&O油・AW油) | ◎ | ◎ | ◎ | ✕ 膨潤 |
| 合成炭化水素系(PAO) | ○ | ◎ | ◎ | ✕ |
| 合成エステル系(生分解性) | ✕ 膨潤 | ◎ | ◎ | △ |
| 水-グリコール系 | ○(AN量高め) | △ | ◎ | ◎ |
| リン酸エステル系(難燃) | ✕ 膨潤 | ◎ | ◎ | ◎ |
| 脂肪酸エステル系(難燃) | △ | ◎ | ◎ | △ |
作動油を変更するときのシール材対応フロー
鉱物油→生分解性エステルへの切替など、種類が変わる場合は必ずシール材を確認する。
機器メーカーの仕様書でシール材のゴム種を確認。「ニトリル」「バイトン」「フッ素」などの記載を探す。
上表で新作動油との組み合わせを確認。「✕」の場合は作動油変更前にシール全交換が必要。
作動油変更後1週間・1ヶ月で各シール部の目視点検と油量チェックを実施する。
シール交換サインと予防保全
| 症状 | 考えられる原因 | 対処 |
|---|---|---|
| ロッド周りの微量にじみ | ロッドシール摩耗・硬化 | ロッドシール交換。ロッド表面粗さも確認 |
| 作動油の急激な泡立ち | 吸込み側シール劣化でエア吸込み | ポンプ吸込み配管・Oリング点検 |
| シリンダの速度低下(内部リーク) | ピストンシール摩耗 | ピストンシール交換。ロッド表面も確認 |
| 弁ブロックからのにじみ | プラグOリング劣化 | 全Oリング交換(エレメント交換時に合わせて) |
- 使用する作動油の種類(鉱物油・エステル系・水-グリコール・リン酸エステル)を特定したか
- 上表の相性マップでシール材との適合を確認したか
- 作動油の使用温度(最高・最低)がシール材の耐熱・耐寒範囲内か確認したか
- 作動油を変更する場合、事前にシール全交換の計画を立てたか
- 作動油変更後1週間・1ヶ月の点検スケジュールを設定したか
まとめ
- 鉱物油向け標準シールはNBR。コスト・入手性・性能のバランスが最良
- 合成エステル系・リン酸エステル系に変更する場合はFKMまたはPTFEが必須
- EPDMは鉱物油と接触禁止。水・リン酸エステル系専用
- 作動油変更時は必ずシール材の適合確認をセットで行う
- シール劣化サインを早期に捉えて予防交換することがトラブル防止の鍵
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