「作動油を変えたら配管が錆びた」「弁が詰まった」――これは作動油と金属材料の相性を確認せずに切り替えたときに起きる典型的なトラブルです。油圧系統には鉄・銅・アルミ・亜鉛など複数の金属が混在しており、作動油の種類によって腐食メカニズムが全く異なります。本記事で整理します。
作動油の種類と基本特性
| 種類 | 基油 | 主な用途 | 引火点目安 |
|---|---|---|---|
| 鉱物油系(R&O・AW油) | 精製鉱物油 | 一般産業機械・工作機械 | 200〜250℃ |
| 合成炭化水素系(PAO) | ポリアルファオレフィン | 低温・高温環境・精密機械 | 240〜260℃ |
| 合成エステル系 | 植物油・合成エステル | 生分解性要求・食品機械 | 270〜320℃ |
| 水-グリコール系 | 水+グリコール | 難燃性要求(製鉄・鋳造) | 不燃(水含有) |
| リン酸エステル系 | リン酸エステル | 航空機・タービン制御油 | 260〜300℃ |
作動油ごとの金属への影響
①鉱物油系(最も一般的)
精製度が高い鉱物油は金属腐食性が低く、添加剤(防錆剤・酸化防止剤)の効果で鉄・銅・アルミへの影響は最小限です。ただし、長期使用で酸化劣化が進むと酸価が上昇し、腐食性が増します。
| 金属 | 影響 | 注意点 |
|---|---|---|
| 炭素鋼(鉄系) | ほぼ問題なし | 油が切れると急速に錆びる。水混入に注意 |
| 銅・銅合金 | 一部添加剤が変色させることがある | 銅腐食試験(JIS K2513)で確認する |
| アルミニウム | ほぼ問題なし | — |
| 亜鉛 | ほぼ問題なし | — |
②合成エステル系(生分解性油)
環境対応で普及が進む合成エステル系ですが、金属への影響が鉱物油より大きい場合があります。特に加水分解で酸が生成されやすく、水分混入時の腐食リスクが高まります。
| 金属 | 影響 | 注意点 |
|---|---|---|
| 炭素鋼 | 適切に管理すれば問題なし | 水混入→加水分解→有機酸生成→腐食の連鎖に注意 |
| 銅・銅合金 | 変色・腐食の可能性あり | 銅腐食試験必須。一部グレードは銅を攻撃する |
| 亜鉛めっき継手 | 溶解リスクあり | エステル系対応品か確認が必要 |
| アルミ | ほぼ問題なし | — |
③水-グリコール系(難燃性)
水を30〜50%含む難燃性作動油です。製鉄所・ダイカスト工場など引火の危険がある場所で使われます。金属腐食性が高く、使用できない材料が多いことに注意が必要です。
| 金属 | 影響 | 対応 |
|---|---|---|
| 炭素鋼 | 防錆剤添加で使用可 | pH管理(pH8.5〜9.5)を維持すること |
| ステンレス(SUS304以上) | 問題なし | 配管・継手のステンレス化を推奨 |
| 亜鉛・カドミウムめっき | ✕ 溶解・スラッジ生成 | 絶対使用不可。弁・継手の表面処理を確認 |
| マグネシウム合金 | ✕ 激しく腐食 | 使用不可 |
| 銅・銅合金 | 条件付きで使用可 | pH管理と定期的な銅腐食試験が必要 |
④リン酸エステル系(難燃性・高性能)
航空機や火力発電のタービン制御に使われる高性能難燃油です。金属への影響より、シール材への影響が大きい(NBRを攻撃する)ことで知られますが、金属側も注意が必要です。
| 金属 | 影響 | 対応 |
|---|---|---|
| 炭素鋼 | 条件付き可。防錆管理必要 | 水分混入を徹底排除する |
| ステンレス(SUS316) | 問題なし | 配管はSUS316L推奨 |
| 亜鉛・銅 | 腐食リスクあり | 亜鉛めっき継手・銅配管は使用しない |
| アルミニウム | 一部グレードで腐食 | アルミ使用時はメーカー適合確認必須 |
作動油 × 金属 適合マップ(総合)
| 金属材料 | 鉱物油 | 合成エステル | 水-グリコール | リン酸エステル |
|---|---|---|---|---|
| 炭素鋼(STPG・S45C等) | ◎ | ○ | ○(pH管理要) | △(水分管理要) |
| ステンレス(SUS304/316) | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
| 銅合金(CAC・黄銅) | ○(試験要) | △(試験要) | △(pH管理要) | ✕ |
| アルミ合金(ADC12等) | ◎ | ○ | ◎ | △(要確認) |
| 亜鉛めっき | ◎ | △ | ✕ 溶解 | ✕ |
| 鋳鉄(FC250) | ◎ | ○ | ○(pH管理要) | △ |
作動油の劣化が引き起こす腐食メカニズム
新品の作動油は腐食性が低くても、劣化すると危険な状態になります。特に重要なのが「酸価上昇」です。
高温・空気接触で作動油が酸化。有機酸が生成し、鉄・銅を腐食する。管理基準:全酸価(TAN)≦ 2.0mgKOH/g。
エステル系では水が入ると加水分解が進み酸を生成。水分管理基準:含水率0.1%以下。
ポンプ・弁の摩耗で金属粉が混入。金属粉が酸化劣化の触媒となり、劣化を加速させる。
pH8.5未満になると炭素鋼・銅が急速に腐食し始める。月次でpH測定・補充液添加が必須。
- 変更後の作動油の種類(鉱物油・エステル・水-グリコール・リン酸エステル)を確認したか
- 回路内の全金属材料(ハウジング・配管・継手・ボルト・めっき)を洗い出したか
- 亜鉛・カドミウムめっき部品が混在していないか確認したか
- シール材の適合確認はセットで実施したか
- 作動油メーカーに適合証明(材料適合試験結果)を要求したか
- 水-グリコール系の場合、pH管理の月次スケジュールを設定したか
まとめ
- 鉱物油は金属腐食リスクが最も低く、標準的な鉄・アルミ・銅部品で問題なく使用できる
- 水-グリコール系では亜鉛・カドミウムめっき部品が溶解する。切替前に全部品の表面処理確認が必須
- 合成エステル系では水分混入による加水分解と銅腐食に注意
- リン酸エステル系では銅・亜鉛を含む材料を排除し、配管はSUS316Lを使う
- どの作動油でも劣化(酸価上昇・pH低下)が腐食を加速させる。定期的な油質管理が防腐食の根本
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