アルミ溶接で気孔が出た原因と対策|アーク・MIG溶接のポロシティを現場目線で解説

アルミの溶接でX線検査をかけたら気孔だらけだった——アルミ溶接特有の悩みです。鋼の溶接と同じ感覚で施工すると、高い確率でポロシティ(気孔)が発生します。なぜアルミは気孔が出やすいのか、どう防ぐかを現場の視点で解説します。

この記事の対象 アーク溶接(TIG・MIG/MAG)によるアルミのポロシティです。金属3Dプリンタ(SLM・DED等)のポロシティとは発生メカニズムが異なります。3Dプリンタのポロシティは粉末の流動性・溶融池の安定性・スキャン戦略が主因ですが、溶接ポロシティは主に水素と酸化皮膜が原因です。

アルミ溶接でポロシティが発生しやすい理由

① 水素の溶解度が固液で大きく変わる

アルミは融点(約660℃)前後で水素の溶解度が激変します。液体アルミには水素がよく溶けますが(約0.65mL/100g)、凝固するとほとんど溶けなくなります(約0.034mL/100g)。約20倍の差です。溶接中に溶融池に溶け込んだ水素が凝固時に逃げ場を失い、気泡として閉じ込められたのがポロシティです。

② 酸化皮膜(Al₂O₃)が水分を吸着する

アルミの表面には必ず酸化アルミニウム(Al₂O₃)の皮膜があります。この皮膜は吸湿性が高く、大気中の水分を吸着します。溶接時に溶融池がこの酸化皮膜に触れると、含まれた水分が分解されて水素が発生し、溶融池に取り込まれます。

③ 表面に見えない油分・水分が残っている

指紋・切削油・洗浄液の残留も水素源です。人間の指でアルミ板を触るだけで表面の水素量が変わるほど、アルミ溶接は汚染に敏感です。

ポロシティの発生箇所で原因を絞り込む

気孔の位置疑うべき原因
ビード全体に散在母材・溶接ワイヤの水分・油分 / 酸化皮膜の清浄不足
ビード表面付近に集中シールドガス不足 / ノズル詰まり / 風の影響
ルート部(裏側)に集中裏波不十分・裏ガスなし / 隙間への水分侵入
溶接開始・終了部に集中アーク開始・終了時のシールド不安定 / クレータ処理不良
特定パス(多層盛りの層間)に集中層間清浄不足 / 層間温度の問題

ポロシティを防ぐ前処理の手順

アルミ溶接において前処理は「溶接品質の8割を決める」と言っても過言ではありません。

① アセトンまたはイソプロパノールで脱脂

清潔なウエスにアセトンをつけて一方向に拭きます。使い回したウエスや揮発が遅い溶剤は逆に汚染源になります。

② ステンレスワイヤブラシで酸化皮膜を除去

鉄製ブラシは鉄粉がアルミに混入するため使用不可。アルミ専用または新品のステンレスブラシで、溶接直前に施工します。ブラシ後の放置は再酸化を招くため、処理後はなるべく早く溶接します。

③ 溶接ワイヤも清浄に

溶接ワイヤは未開封品を使用し、開封後は乾燥した場所に保管します。一度湿気を吸ったワイヤは廃棄が原則。ワイヤコンジットの汚れも定期清掃が必要です。

シールドガス管理

アルミのTIG溶接では純アルゴン(Ar 99.99%以上)が基本です。MIG溶接ではArまたはAr+Heの混合ガスを使用します。HeはArより熱伝導が高く、溶融池を均一に加熱してポロシティを減らす効果があります。

溶接法推奨シールドガス流量目安ポロシティへの効果
TIG溶接Ar 99.99%以上10〜15L/minAr純度が低いとポロシティ増加
MIG溶接(薄板)Ar 100%15〜20L/min標準
MIG溶接(厚板)Ar 75%+ He 25%20〜25L/minHeにより溶融池を均一化
注意 風速2m/s以上でシールドガスが流される環境(屋外・風の通る現場)では、防風囲いの設置が必須です。わずかな風でも溶融池への大気混入が起き、ポロシティが急増します。

溶接条件の調整

予熱

板厚12mm以上では予熱(60〜100℃)が有効です。母材が暖まることで水分の蒸発が促進され、溶融池の凝固速度が落ちて水素が抜けやすくなります。ただし過度な予熱(150℃超)は強度低下の原因になります。

溶接速度

溶接速度が遅すぎると溶融池が長時間大気にさらされ、水素取込みが増えます。適切な速度を守り、多パス溶接では層間清浄(ブラッシング・清拭)を徹底します。

現場のトラブル事例

事例:A5083板のMIG溶接でX線検査不合格
状況船舶部品のA5083板(板厚20mm)をMIG溶接。X線検査で多数の球状気孔が発見され、溶接部全長にわたって不合格。
原因雨天後に母材を屋外保管したまま使用。酸化皮膜への水分吸着量が増大。さらに溶接ワイヤのコンジットが長期間清掃されておらず、ワイヤ表面に汚染物質が蓄積していた。
対策母材は雨天後24時間以上屋内乾燥を義務化。溶接直前に全面ブラッシング+アセトン脱脂の手順を標準化。ワイヤコンジットを月1回清掃するルールを追加。以降のX線検査で合格継続。
アルミ溶接ポロシティ防止チェックリスト
  • 溶接直前にアセトン脱脂を実施した
  • アルミ専用ステンレスワイヤブラシで酸化皮膜を除去した(鉄製ブラシ不使用)
  • ブラッシング後30分以内に溶接を開始した
  • 溶接ワイヤは乾燥保管・開封後早期使用を徹底した
  • シールドガス純度・流量・ノズルの詰まりを確認した
  • 屋外・風のある環境では防風囲いを設置した
  • 多層盛りの層間でもブラッシング・清拭を実施した

まとめ

  • アルミ溶接のポロシティは「水素の固液溶解度差」が根本原因で、水分・酸化皮膜・油分が水素源になる
  • 前処理(脱脂→ブラッシング)が溶接品質の8割を決める
  • シールドガスはAr 99.99%以上、厚板はAr+He混合が有効
  • 気孔の発生位置で原因を絞り込み、的確な対策を打てる
  • 金属3Dプリンタのポロシティとは発生メカニズムが異なり、対策も別途考える必要がある

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