熱伝導率をやさしく解説:放熱・断熱で材料が変わる判断基準

ヒートシンクに銅を使うのか、アルミを使うのか。極低温配管にステンレスを使う理由は何か。精密金型で「熱が抜けない」問題の原因が材料にあることもある。熱伝導率は「熱をどれだけ通しやすいか」を示す材料定数で、放熱・断熱・均熱・冷却速度の設計に直結します。この記事では、主要金属の熱伝導率の比較から、用途別の材料選定基準まで整理します。

熱伝導率とは——定義と単位

熱伝導率λ(ラムダ)は、単位面積・単位厚さの材料を1°Cの温度差で通過する熱流束(W)を表します。単位はW/(m·K)です。値が大きいほど熱を通しやすく、小さいほど通しにくい(断熱性が高い)。

ポイント金属の熱伝導率は自由電子が熱を運ぶ量で決まる。電気伝導率が高い金属ほど熱伝導率も高い傾向がある(ヴィーデマン・フランツ則)。銅・アルミが優秀な理由はここにある。

主要金属・材料の熱伝導率 比較

材料熱伝導率 W/(m·K)特徴・備考
銀(Ag)約420金属中最高。コスト高で工業的な放熱材としては限定的。
銅(C1020・C1100)約390〜398工業用放熱材の最高峰。ヒートシンク・ヒートパイプ・電気銅に多用。
アルミ(純アルミ A1050)約230銅の約60%の熱伝導率。軽量・安価でヒートシンク・冷却フィンに最多使用。
A6061約167構造強度との両立。ヒートシンク兼構造材として使われる。
A7075約130高強度アルミ合金だが熱伝導率は落ちる。放熱目的には不向き。
金(Au)約315半導体ダイボンド材に使われるが工業的な放熱材としてはコスト的に非現実的。
鉄(純鉄)約80炭素鋼の目安。合金元素が増えると熱伝導率は下がる。
炭素鋼(S45C)約48〜52一般構造材。鉄系材料の標準的な値。
SUS304約16鉄鋼の約1/3以下。断熱性が高いという見方もできる。
SUS316約14〜16SUS304と同程度。低熱伝導率が極低温断熱支柱に活用される。
Ti-6Al-4V約6〜7金属中でも特に低い。難削性の一因。精密加工時の熱集中に注意。
インコネル718約11〜14低熱伝導率が難削材となる要因のひとつ。刃先への熱集中が大きい。
タングステン(W)約170〜180高融点金属の中では例外的に高い熱伝導率。
アルミナ(Al₂O₃)約20〜30絶縁性放熱基板。電気を通さず熱は通す用途。
窒化アルミ(AlN)約170〜200セラミック中最高クラス。パワー半導体基板の標準材料。

「放熱」「断熱」「均熱」——目的別の材料選び

放熱・冷却:できるだけ熱を逃がしたい

最優先はλが高い材料。コスト・重量を許容できるなら銅(約398W/m·K)、軽量重視ならアルミ(約230W/m·K)が第一選択。パワーエレクトロニクスの放熱基板では窒化アルミ(AlN)が電気絶縁と高熱伝導を両立。

断熱・熱損失低減:熱を通したくない

λが低い材料を選ぶ。ステンレス(約16W/m·K)は極低温(液体窒素・液体ヘリウム)容器の支柱・ストラットに使われる。チタン(約6〜7W/m·K)はさらに断熱性が高く、高級魔法瓶の外装に採用実績がある。

均熱:温度ムラをなくしたい

金型・ホットプレート・加熱炉板など、全体を均一な温度に保ちたい場面では熱伝導率が高い材料が有効。アルミ合金製の金型インサートは、鋼製と比べて温度ムラが少なく成形サイクル短縮にも貢献する。

冷却速度・焼入れ性

熱伝導率が高いほど内部まで素早く冷えるため焼入れ性には不利。炭素鋼は熱伝導率が比較的高く表面と内部の冷却差が出やすい。合金鋼(Cr-Mo鋼)は添加元素で熱伝導率を下げて焼入れ性を向上させている。

熱伝導率が設計トラブルを起こした事例

チタン部品の精密加工で工具が異常摩耗
状況Ti-6Al-4Vの精密フライス加工で、切削速度を鋼並みに設定したところ工具が急速に摩耗し、寸法精度も出なかった。
原因チタンの熱伝導率は約6〜7W/m·Kと極めて低く、切削熱が被削材に逃げずに刃先に集中する。さらに弾性回復率が高くびびりが生じやすい。
対策切削速度を60m/min以下に落とし、豊富なクーラントで刃先を冷却。TiAlN(またはTiSiN)コーティング工具に変更。切り込みを浅くして工具負荷を分散した。
ステンレス製射出成形金型で成形サイクルが長い
状況耐食性目的でSUS420J2製の射出成形金型を使ったが、炭素鋼製に比べてサイクルタイムが30%長く生産効率が落ちた。
原因SUS420J2の熱伝導率は約25W/m·Kで、炭素鋼(SKD61:約25〜28W/m·K)と近いが、成形部位によっては冷却水路の配置が非効率だった。主因は金型の熱伝導率より冷却配管設計にあった。
対策コンフォーマル冷却(3Dプリンタ製造の複雑流路)を採用して冷却効率を大幅改善。熱伝導率の高いベリリウム銅インサートをコア部に部分採用してさらに冷却速度を向上させた。
アルミ製ヒートシンクで部品温度が設計値を超えた
状況A6061製ヒートシンクで冷却計算上は問題ないはずが、実機で半導体部品の温度が設計値を5〜8°C超えた。
原因設計計算でヒートシンク素材の熱伝導率を純アルミ(230W/m·K)で計算していたが、実際のA6061は約167W/m·Kで約27%低い。さらに部品とヒートシンクの接触熱抵抗を考慮していなかった。
対策材料を正しいA6061の値で再計算。熱伝導グリス・インジウムシートで接触熱抵抗を低減。それでも不足なら銅製ヒートシンクまたはヒートパイプ複合構造に変更を検討する。

温度依存性——熱伝導率は温度で変わる

多くの金属は温度が上がると熱伝導率が低下する。高温設計では室温値そのまま使わず、使用温度での値を確認すること。ステンレスや超合金は逆に温度上昇とともに熱伝導率が上昇する特性を持つ材料もある。
熱設計 材料選定チェックリスト
  • 使用温度での熱伝導率を確認した(室温値と異なる場合がある)
  • 純金属値か合金グレードの値かを確認した(純アルミとA6061は大きく異なる)
  • 接触熱抵抗(界面抵抗)を設計に織り込んだ
  • 放熱目的か断熱目的かを明確にし、λの高低どちらを求めるか決めた
  • 電気絶縁性も必要な場合、AlN・アルミナなどセラミック系を検討した

まとめ

  • 熱伝導率の高い順:銀 ≈ 銅 > アルミ > タングステン > 炭素鋼 > SUS > Ti・インコネル。
  • 放熱・均熱にはλが高い銅・アルミ。断熱にはステンレス・チタンが意外なほど有効。
  • チタン・インコネルの加工難易度の高さは熱伝導率の低さによる刃先への熱集中が一因。
  • ヒートシンク設計では純アルミとA6061で約40%も熱伝導率が異なるため、グレードを明記して設計する。
  • 接触熱抵抗は材料の熱伝導率以上に支配的なケースがある。グリス・インジウムシートで対策する。

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