製品や部品が破断したとき、破面の形状には破壊の原因と経緯が刻まれています。過負荷なのか、繰り返し疲労なのか、高温クリープなのか——破面を正しく読むことで、再発防止に必要な情報を引き出せます。
破面解析(フラクトグラフィ)とは
破面解析(fractography / フラクトグラフィ)とは、金属が破断した際の破面を観察・分析し、破壊の原因・メカニズム・亀裂の進展経路を特定する手法です。材料内部の欠陥、設計上の応力集中、過負荷、環境劣化など、あらゆる破壊要因が破面の形態に反映されます。
破面は「一次情報」です。破断した部品を洗浄・廃棄してしまうと、証拠は二度と取り戻せません。破断品を入手したらまず写真記録を取り、素手で触れずに乾燥保管することが原則です。
- 破壊モード(延性・脆性・疲労・クリープ・腐食疲労 など)
- 亀裂の起点位置と進展方向
- 作用荷重の種類(引張・曲げ・ねじり・衝撃)と大きさの推定
- 環境要因(水素脆化・応力腐食・高温酸化)の関与の有無
- 材料欠陥(介在物・気孔・偏析・溶接欠陥)の有無
4種類の主要破面パターン
金属の破面は破壊メカニズムに応じた特徴的な形態を示します。まず4種類の基本パターンを把握することが、破面解析の出発点です。
| 破面の種類 | 代表的な形態 | 主な発生原因 | 温度・環境 |
|---|---|---|---|
| 延性破面 | ディンプル(球状・楕円状凹み) | 過負荷・一方向引張破断 | 常温〜中温、塑性変形あり |
| 脆性破面(劈開) | リバーマーク・平坦光沢面 | 低温脆化・衝撃荷重・BCC金属 | 低温域が多い |
| 脆性破面(粒界) | 多面体粒界模様(岩石状) | 粒界脆化・水素脆化・焼戻し脆性 | 常温〜高温・腐食環境 |
| 疲労破面 | ビーチマーク・ストライエーション | 繰返し荷重・振動 | 常温が多い、腐食疲労は湿潤環境 |
| クリープ破面 | 粒界ボイド・くさびき裂 | 高温・低応力・長時間荷重 | 高温域(使用温度×0.3〜0.5 Tm以上) |
破面の観察手順
① マクロ観察(目視・実体顕微鏡 ×1〜×50)
最初に肉眼または実体顕微鏡で全体像を把握します。ビーチマーク・放射状マーク(リバーパターン)の有無、破面の色調(酸化・腐食)、くびれ(塑性変形)の有無を確認します。この段階で破面全体の写真記録を残します。
② 光学顕微鏡観察(×50〜×500)
破面の質感(粗・細)の分布や、脆性/延性域の境界を観察します。ただし破面の凹凸が激しい場合、焦点深度が浅い光学顕微鏡では観察限界があります。
③ SEM観察(×100〜×10,000以上)
走査型電子顕微鏡(SEM)が破面解析の主役です。焦点深度が深く、凹凸のある破面でもシャープな像が得られます。ディンプル・リバーマーク・ストライエーションといった微細形態を直接観察でき、EDX(エネルギー分散型X線分析)を組み合わせれば介在物や腐食生成物の元素組成も特定できます。
破壊モードを絞り込む判断フロー
| 判断ステップ | 確認項目 | 判断の方向 |
|---|---|---|
| ① 変形量の確認 | くびれ・塑性変形の有無 | 変形大 → 延性破面を優先検討。変形ほぼなし → 脆性・疲労・クリープ |
| ② ビーチマークの有無 | 同心弧状の縞模様 | あり → 疲労破面の可能性大。なし → 他モードを検討 |
| ③ 使用温度・環境 | 高温使用・腐食環境 | 高温 → クリープを検討。低温 → 脆性(劈開)を検討 |
| ④ SEM観察 | ディンプル・リバーマーク・ストライエーション・粒界ボイド | 特徴的形態でモードを確定 |
| ⑤ 元素分析(EDX) | 介在物・腐食生成物 | 水素脆化・腐食疲労・応力腐食の特定に有効 |
現場でよく遭遇する「混合破面」
実際の破断品では単一モードが現れることは少なく、複数モードが混在する破面が一般的です。判断を誤りやすいのは疲労+最終延性破断の組み合わせで、これを「過負荷破断」と誤診すると対策の方向が全く変わります。
各破面タイプの詳細解説(シリーズ記事)
各破面の形成メカニズム・観察ポイント・現場での判断基準は以下の記事で解説しています。
ボイドの核生成・成長・合体のメカニズムとディンプル形状から荷重方向を読む方法。
リバーマークと粒界模様の見分け方。低温脆化・水素脆化・焼戻し脆性との関係。
ビーチマーク・ストライエーションの読み方。3ゾーン(起点・進展・最終破断)解析。
高温粒界損傷のメカニズム。くさびき型と球状空洞型の違いと判断基準。
まとめ
- 破面解析(フラクトグラフィ)は破断原因を特定する直接的な手段。破面は「一次情報」であり保存最優先。
- 主要4タイプ:延性(ディンプル)・脆性(リバーマーク/粒界模様)・疲労(ビーチマーク)・クリープ(粒界ボイド)。
- 観察は目視→光学顕微鏡→SEMの順で倍率を上げる。EDXで元素分析を加えると環境起因も特定できる。
- 実際の破面は混合することが多い。主要モードを特定した上で補助モードを確認する。
- 破面解析の結論は「どこを直すか」に直結する。設計改善・材料変更・使用条件見直しの根拠になる。
金属が破断したとき、破面の形状には破壊の原因が刻まれています。本シリーズでは4種類の破面パターンを図解で解説します。


コメント