S45Cは「焼入れができる汎用鋼」として機械部品に広く使われるが、断面が大きくなると途端に限界が出る。φ30mmのシャフトなら問題なく硬化できても、φ60mmになると芯部は焼が入らず20HRC台のまま、という状態になる。どこまでS45Cで対応でき、どこからSCM440に切り替えるべきか。炭素量と焼入れ性の関係から整理する。
記号の読み方
JIS G 4051「機械構造用炭素鋼鋼材」で規定。「S」はSteel、「45」は炭素量の100倍(≒0.45%C)、「C」はCarbon。炭素量0.42〜0.48%と規定されているのがSS400との決定的な違いで、この炭素量があるから焼入れで硬化できる。
化学成分(JIS G 4051)
| C(炭素) | Si(珪素) | Mn(マンガン) | P(リン) | S(硫黄) |
|---|---|---|---|---|
| 0.42〜0.48% | 0.15〜0.35% | 0.60〜0.90% | 0.030%以下 | 0.035%以下 |
熱処理状態別の機械的性質
| 状態 | 硬さ | 引張強さ(N/mm²) | 耐力(N/mm²) | 伸び(%) |
|---|---|---|---|---|
| 焼なまし(規格値) | ≦229HBW | ≧690 | ≧490 | ≧17 |
| 焼入れ・焼戻し(目安) | 30〜45HRC | 900〜1,200 | 750〜1,050 | 12〜20 |
| 高周波焼入れ後(表面のみ) | 50〜58HRC | — | — | — |
焼戻し温度と硬さの変化
S45Cの焼入れ性の限界——断面が大きくなると芯まで硬化しない
S45CにはCr・Moが入っていない。これらの合金元素は「焼入れ性」——断面の奥深くまで硬化させる能力——を高める役割を持つ。S45Cはそれを持たないため、断面が大きくなると水・油で冷やしても熱が中心まで届かず、表層だけ硬化して芯部は20HRC台のまま残る。
φ30mm以下 → S45C全断面焼入れ可能
φ30〜50mm → 表層は硬化、芯部は低下傾向。用途次第で可否を判断
φ50mm超 → 芯部の硬化が不十分になるケースが多い。SCM440への切り替えを検討
※ 形状・焼入れ液・設備条件によって変わるため、実機確認が必要
他材料との比較
| 鋼材 | 炭素量 | 焼入れ性 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| SS400 | 規定なし | 保証なし | 最安価・溶接性保証なし | フレーム・架台 |
| S20C | 0.18〜0.23% | 低い | 浸炭向け。そのままでは焼入れ効果薄い | 浸炭部品・軸類 |
| S45C | 0.42〜0.48% | 中(小断面向け) | 汎用機械部品の定番。φ50mm超は要注意 | 軸・歯車・治具 |
| S55C | 0.52〜0.58% | 中〜高 | S45Cより高強度・靱性はやや低下 | プレス金型台 |
| SCM440 | 0.38〜0.43% | 高い(大断面可) | 大断面でも全断面焼入れ可。衝撃に強い | 大型軸・高強度ボルト |
JIS・海外規格対応表
| JIS(日本) | ASTM(米国) | EN(欧州) | GB(中国) | ISO |
|---|---|---|---|---|
| S45C | 1045 | C45E | 45 | C45 |
トラブル事例
用途別カード
モーター軸・伝動軸など。φ50mm以下なら全断面焼入れできる。それを超えるならSCM440を選ぶ。高周波焼入れで表面だけ硬くする方法もあり、軸受け座の部分だけ局所硬化できる。
中程度の荷重がかかる歯車。高周波焼入れで歯面のみを硬化(50〜58HRC)させ、歯の根元は靱性を保つ構造にできる。重荷重・衝撃が大きい歯車ではSCM材+浸炭焼入れが一般的。
SKD11・SKD61などの入子を保持する台座部分。高硬度は不要で剛性と適度な強度があれば十分。S45Cの焼入れ焼戻しで対応できる用途だ。
寸法精度が必要な検査治具・加工治具。必要な部位だけ高周波焼入れして硬くし、残りは靱性を保つ作り方が多い。
強度区分8.8〜10.9クラスのボルトはS45C系を焼入れ焼戻しして製造する。頭部やネジ部の形状が複雑なため、焼入れ後に割れが出やすい材料は使えない。
選定チェックリスト
- ☐ 軸径φ50mm以下・全断面焼入れ必要 → S45Cで可
- ☐ 軸径φ50mm超・全断面焼入れ必要 → SCM440
- ☐ 表面のみ硬くしたい(高周波焼入れ) → S45Cで可(断面径問わず)
- ☐ 溶接が必要 → S45Cは予熱必須。設計を見直してSM400を使う方が安全
- ☐ 浸炭焼入れで表面硬化 → S45CはC量が高すぎ。S15C〜S20Cを使う
- ☐ コスト重視・強度保証不要な構造 → SS400
- ☐ 衝撃荷重が大きい・高強度 → SCM440かSNCM材
S45Cを使うときの判断基準
- C量0.42〜0.48%が規定されているから焼入れで硬化できる。SS400と違い「炭素量保証あり」が最大の強み。
- 焼入れ性は低く、断面が大きくなると芯部が硬化しない。φ50mm超のシャフトで全断面硬さが必要ならSCM440に切り替える。
- C量が高いので溶接には向かない。予熱なしで溶接すると低温割れが出るリスクがある。溶接前提の設計ではS45Cを選ばない。


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