※ 本記事のデータは2026年6月23日時点の情報に基づきます。価格・為替は日々変動するため、最新情報は各情報源にてご確認ください。本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。
前回の4月版を書いてから2カ月が経った。SUS304の価格動向を追う上でいちばん気になるのは「ニッケル相場が戻ったか」という1点だ。2026年1月に10%超急騰して一時20,000ドル台に乗ったニッケルが、6月現在どこにいるのかを調べてみた。
2026年6月現在の価格水準
6月23日時点のLMEニッケルは17,501 USD/tonで、4月以来の最低水準となった。5月の18,879ドルから約7%下落している。1月の急騰局面(20,000ドル台)と比べると、相場は落ち着きを取り戻しつつある形だが、まだ2025年の低迷期(14,000〜16,000ドル台)には戻っていない。
SUS304価格の仕組みを確認する
ニッケルサーチャージ(円/kg)≒ LMEニッケル(USD/t)× Ni含有率(約8%)× 為替(円/USD)÷ 1,000
例)LMEニッケル 17,500 USD/t、為替 161.8円/USD の場合
17,500 × 0.08 × 161.8 ÷ 1,000 ≒ 227 円/kg(ニッケル分のみ)
※ SUS304の国内流通価格は、鉄・クロムの原料費・製造費・流通マージン・スクラップ価格等も含む。ニッケルサーチャージは変動コスト部分の中で最も大きな要素。
SUS304(Ni約8〜10%、Cr約18%)の価格がなぜニッケル相場に敏感かというと、原料コストにおけるニッケル比率が大きいからだ。鉄やクロムはニッケルに比べ相対的に安定しているため、LMEニッケルの変動がそのままサーチャージに乗ってくる。
LMEニッケル価格の推移(2025年〜2026年6月)
| 時期 | LMEニッケル(USD/t) | 参考為替(円/USD) | SUS304国内目安(円/kg) | 主な出来事 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年1月 | 約15,000 | 約157 | 約680 | 中国不動産低迷・インドネシア増産で軟調 |
| 2025年4月 | 約14,500 | 約149 | 約660 | ニッケル価格、年初来安値圏 |
| 2025年7月 | 約15,500 | 約152 | 約700 | インドネシア供給トラブルで小反発 |
| 2025年10月 | 約16,000 | 約153 | 約720 | EV需要回復観測・相場やや持ち直し |
| 2026年1月 | 約20,200 | 約156 | 約870 | 中国の爆買い観測で10%超急騰(Bloomberg) |
| 2026年3月 | 約18,500 | 約150 | 約820 | 急騰後の調整局面 |
| 2026年5月 | 約18,879 | 約155 | 約840 | インドネシア供給懸念で下支え |
| 2026年6月 | 約17,501 | 約155 | 約780 | 投資家利益確定・中国ニッケル塩取引低迷 |
現在の価格を動かしている要因
インドネシアの増産継続
世界最大のニッケル産出国インドネシアは2023年以降、NPI(ニッケル銑鉄)・HPAL(水酸化ニッケル)ともに増産を続けている。供給過剰感が価格の上値を抑える最大の要因。一方、環境規制強化の観測が断続的に供給不安を生み、下がりきらない理由にもなっている。
中国の需要停滞
中国の不動産不況でステンレス需要が低調なまま。SUS304の主要用途(厨房器具・建材・設備)は中国のステンレス需要と直結する。2026年前半は回復の兆しが限定的で、価格の押し上げには至っていない。
EV向けニッケル需要の変質
車載電池がNCA(ニッケル系)からLFP(リン酸鉄)にシフトしており、EV拡大がニッケル需要に直結しにくくなった。一時期言われていた「EV需要でニッケル急騰」のシナリオは後退している。
1月の急騰とその後の揺り戻し
2026年1月に中国の爆買い観測で10%超急騰し20,000ドル台に乗ったが、実需が伴わず6月には17,500ドル台まで調整。「急騰→揺り戻し」の典型的なパターンで推移している。
安価な輸入ステンレスの流入
中国・韓国からの安価なステンレス板の輸入が続いており、国内メーカーの価格維持を難しくしている。国内流通価格は国際指標の動きより「輸入品の価格競争」の影響も受ける。
円相場の影響
1ドル=155円前後の水準が続いており、LMEドル建て価格の円換算コストを押し上げている。為替が円高に振れれば国内流通価格の下落要因になるが、現状は「LME下落+161円台の円安」で打ち消し合いの状態。
今後のシナリオ別見通し
| シナリオ | LMEニッケル想定(USD/t) | SUS304国内目安(円/kg) | 主な前提条件 |
|---|---|---|---|
| 強気シナリオ | 20,000〜23,000 | 約880〜1,000 | 中国需要急回復・インドネシア規制強化が同時に起きた場合 |
| 基本シナリオ | 16,000〜19,000 | 約720〜850 | 中国需要停滞継続・インドネシア増産+断続的供給懸念が混在するレンジ相場 |
| 弱気シナリオ | 13,000〜16,000 | 約600〜720 | 中国不動産回復失敗・インドネシア増産加速・LFP電池さらに普及 |
※ 上記は一般的な情報整理であり、価格予測ではありません。市場調査機関の多くは2026年を「レンジ内変動継続」の基本シナリオとしています。
為替×LMEニッケル水準別 SUS304の円換算コスト表
| LMEニッケル水準 | 円高(145円/USD) | 中立(155円/USD) | 円安(165円/USD) |
|---|---|---|---|
| 14,000 USD/t(弱気) | 約 168 円/kg | 約 181 円/kg | 約 190 円/kg |
| 17,500 USD/t(現状) | 約 210 円/kg | 約 227 円/kg | 約 238 円/kg |
| 21,000 USD/t(強気) | 約 252 円/kg | 約 272 円/kg | 約 285 円/kg |
※ ニッケルサーチャージ相当分(Ni 8%分)の計算値。SUS304製品価格の全体ではありません。
調達コストを抑えるための考え方
| 手法 | 概要・メリット | SUS304固有の注意点 |
|---|---|---|
| 分散購入(複数月) | 相場の高値をつかむリスクを平均化できる | SUS304は価格ロック期間が短いケースが多い。注文のタイミングより「サーチャージ改定月」の把握が先 |
| SUS430への代替検討 | Niを含まないフェライト系でコスト削減。SUS430はSUS304比で10〜30%程度安い場合が多い | 耐食性・溶接性・加工性でSUS304に劣る。塩化物環境・深絞り用途では代替不可 |
| ステンレス屑(スクラップ)活用 | 自社発生屑の社内再利用・売却益で原料コストを一部相殺 | SUS304屑の買取価格もニッケル相場連動。高い時期に売れば有利だが、管理コストがかかる |
| 複数サプライヤー確保 | 輸入品(中国・韓国・インド製)との競合見積りで購買交渉力が上がる | 輸入材は納期・品質保証・証明書の信頼性確認が必要。JIS規格適合品かを必ず確認する |
| 長期契約・価格固定 | 一定期間の価格固定でコスト予測を安定化 | ニッケルサーチャージが固定されるかどうかを契約で明確にする。「市況連動」のままでは意味がない |
調べてみてわかったこと
調べる前は「1月の急騰がまだ続いているかも」と思っていたが、6月時点では17,500ドル台まで調整が入り、基本シナリオ(16,000〜19,000ドルのレンジ)の中に収まっていた。SUS304の価格を左右する最大の変数はやはりLMEニッケルで、ニッケルサーチャージが1kg当たり200〜260円前後を占めるというのが、今回具体的に数値で確認できた点として興味深かった。「SUS304が高い」と感じたときは、まずニッケル相場を確認するのが最短の把握ルートだと改めて実感した。インドネシアの動向次第で2026年後半も振れ幅が出そうだが、現状はレンジ相場が続く公算が大きい。
SUS304価格, ステンレス価格動向, LMEニッケル, ニッケルサーチャージ, 非鉄金属市況, 2026年相場, 材料調達

