電磁鋼板・珪素鋼板をやさしく解説:モーター・トランスの鉄芯に使われる磁性材料

未分類

「鉄なのに磁石にしやすい」——それが電磁鋼板(珪素鋼板)の核心です。モーターや変圧器の鉄芯に使われるこの材料は、ケイ素(Si)を添加することで電気抵抗を高め、エネルギー損失を大幅に減らしています。しかし「無方向性」と「方向性」の2種類があり、間違えると効率が著しく低下します。本記事では仕組み・JIS記号の読み方・使い分けの判断軸を具体的に解説します。

なぜ鉄にSiを添加するのか——電磁鋼板の基本原理

普通の鉄(軟鉄)は磁気特性に優れていますが、電気抵抗が低いため交流磁場にさらされると「渦電流」が大量に流れ、熱として失われます。電磁鋼板はSiを2〜4%程度添加することで電気抵抗を純鉄の4〜6倍に引き上げ、渦電流損を大幅に低減しています。

鉄損の2つの成分電磁鋼板のエネルギー損失(鉄損 W/kg)は、ヒステリシス損(磁区が向きを変えるたびに発生、周波数に比例)と渦電流損(誘導電流による発熱、周波数の2乗に比例)の合計です。商用周波数(50/60Hz)では両方が問題になりますが、インバーター駆動の高周波環境(数百Hz〜数kHz)では渦電流損が支配的になるため、薄板化・高Si化が有効です。

Si添加のほかに、板厚を薄く(現在の主流は0.35mmや0.50mm)して渦電流の流れる断面を小さくする対策も組み合わせて使われます。

無方向性 vs 方向性——2種類の決定的な違い

項目無方向性(Non-oriented)方向性(Grain-oriented)
磁束方向どの方向も均等に磁化しやすい圧延方向のみ極めて良好
製造方法結晶方位をランダムに制御Goss方位({110}⟨001⟩)に高度に配向
鉄損(W15/50)目安2.0〜5.0 W/kg(グレードによる)0.8〜1.5 W/kg(圧延方向)
JIS規格JIS C 2552JIS C 2553
代表用途モーター・発電機・リアクトル変圧器・リアクトル(大型)
価格目安比較的安価高価(製造工程が複雑)

方向性電磁鋼板は「圧延方向」の鉄損値が非常に低い半面、それ以外の方向では無方向性より鉄損が大きくなります。変圧器のコアは磁束が常に一定方向なので方向性が有効ですが、モーターコアでは磁束が回転するため方向性は使えません。

JIS記号の読み方——35A300とはどういう意味か

JIS C 2552(無方向性)の記号は「板厚×100+グレード記号+鉄損×100」で構成されます。

記号例分解意味
35A30035 / A / 300板厚0.35mm、無方向性(A)、W15/50≦3.00 W/kg
50A47050 / A / 470板厚0.50mm、無方向性(A)、W15/50≦4.70 W/kg
27Z13027 / Z / 130板厚0.27mm、無方向性高効率グレード(Z)、W15/50≦1.30 W/kg

JIS C 2553(方向性)の記号は「板厚×100+P(方向性)+鉄損×100」となります。例:27P090 = 板厚0.27mm、方向性、W17/50≦0.90 W/kg。

試験条件の読み方W15/50は「磁束密度1.5T・周波数50Hzでの鉄損(W/kg)」を指します。W17/50(1.7T基準)は方向性の規格で使われます。インバーター用途ではこの商用周波数での数値だけでなく、高周波での特性カタログ値を必ず確認してください。

周波数が上がると何が起きるか——インバーター駆動の落とし穴

モーターをインバーターで高速化(400Hz・800Hz等)すると、渦電流損は周波数の2乗で増加するため、50Hzで設計した鉄芯を使い続けると発熱量が大幅に増えます。たとえばW15/50=3.0 W/kgのグレードを400Hzで使うと、渦電流損は単純計算で64倍(8²)になる可能性があり、実際には磁束密度を下げながら設計しますが、発熱・効率低下が避けられません。高周波駆動には薄板(0.2〜0.35mm)かつ高Si品(Si≧3.5%)の選択が必要です。

EV時代に求められる高効率無方向性鋼板

EV(電気自動車)の駆動モーターは高速回転(最高10,000rpm以上)・インバーター駆動が標準で、電磁鋼板への要求が従来の産業用モーターより格段に厳しくなっています。

高Si無方向性鋼板(Si≧3.5%)

Si量を増やすと電気抵抗がさらに上昇し渦電流損が低減する一方、脆くなり加工(打ち抜き)が難しくなります。これを解決するため、圧延後にSiを拡散浸透させる「珪化処理」技術が量産化されています。W10/400(10kHz規格)での鉄損値が選定基準として重要になりました。

アモルファス・ナノ結晶鉄芯との比較

アモルファス合金(Fe基)は無結晶構造で鉄損が極めて低い(0.1 W/kg前後)ですが、機械的強度が低く大型コア加工が難しいため、主に小型トランス・リアクトルに使われます。EVモーターの打ち抜きコアとしては現状まだ電磁鋼板が主流です。

コアの設計への影響

打ち抜き加工後の歪みで鉄損が増加する「加工劣化」も高効率化の障壁です。レーザー加工や歪み取り焼鈍(応力除去焼鈍)を組み合わせて、打ち抜き端部の磁気特性劣化を最小化する取り組みが進んでいます。

用途別:どのグレードを選ぶか

EVモーター・ハイブリッドモーター

高速回転・インバーター駆動。無方向性必須。W10/400やW15/200などの高周波鉄損値で比較。板厚0.25〜0.35mm、Si≧3.0%の高効率グレードを選定。

産業用モーター・発電機

50/60Hz商用周波数。無方向性で50A470前後の汎用グレードが多い。コストと性能のバランスを取る。高効率規格(IE3・IE4)対応では35A300クラス以上が必要になる場合がある。

変圧器(配電・電力)

磁束方向が一定。方向性電磁鋼板(JIS C 2553)を使用。大型配電変圧器では27P090クラスの低鉄損品が採用される。コアのスクラップ率を下げるため、巻き鉄芯形状が主流。

リアクトル(チョークコイル)

直流バイアスがかかる用途。無方向性が多い。磁束密度が高くなりやすいため飽和磁束密度(Bs)も選定指標。一部はアモルファス・フェライトと競合する。

トラブル事例:方向性鋼板をモーターコアに使ったら効率が低下した

方向性電磁鋼板をモーターコアに誤用
状況小型発電機のコア材を調達する際、「鉄損が低い」という理由で方向性電磁鋼板(JIS C 2553品)を購入し打ち抜き加工した。試作機の効率を測定したところ、同グレードの無方向性品と比べて効率が3〜5ポイント低下した。
原因方向性電磁鋼板は圧延方向(RD)の鉄損が極めて低い一方、それと直交するTD方向の鉄損は無方向性品より大きい。モーターコアでは磁束が回転するため、全周方向の磁気特性が均等であることが必須。圧延方向と交差する部分で鉄損が増大し、発熱と効率低下を引き起こした。
対策無方向性電磁鋼板(JIS C 2552品)に変更し直した。回転機用コアには無方向性を使うという基本ルールを調達・設計の両部門で共有し、材料発注書に「JIS C 2552(無方向性)」と明記するルールを設けた。
電磁鋼板 選定チェックリスト
  • 磁束の方向が一定(変圧器・リアクトル)か、回転(モーター・発電機)かを確認した
  • 回転機の場合は無方向性(JIS C 2552)を指定した
  • 変圧器・直線磁束用途は方向性(JIS C 2553)を検討した
  • 駆動周波数を確認し、インバーター高周波駆動では高周波鉄損値(W15/200等)で比較した
  • 板厚が適切か確認した(高速回転・高周波では0.35mm以下が望ましい)
  • Si量が要求性能に合っているか確認した(高効率EVモーターはSi≧3.0%が目安)
  • 発注書にJIS記号(例:35A300)を明記した
  • 打ち抜き加工後の歪み取り焼鈍の必要性を検討した

まとめ

  • 電磁鋼板はSi添加で電気抵抗を上げ、渦電流損を低減した磁性薄鋼板
  • 無方向性(JIS C 2552)はモーター・発電機用、方向性(JIS C 2553)は変圧器用——この使い分けは絶対的なルール
  • JIS記号「35A300」は板厚0.35mm・無方向性・W15/50≦3.00 W/kgを意味する
  • インバーター高周波駆動では商用周波数の鉄損値だけでなく高周波鉄損値を必ず確認する
  • EV向け高効率グレードはSi≧3.0%・板厚0.35mm以下の高Si薄板が主流

コメント