マグネシウム合金をやさしく解説:実用金属最軽量の特性・グレード選定と現場の注意点

非鉄金属

スマートフォンのフレーム、ノートPCの筐体、自動車のステアリングホイール——これらに使われているのがマグネシウム合金です。密度約1.7〜1.8 g/cm³は実用金属の中で最軽量。しかし「腐食しやすい」「燃える」というイメージから敬遠されることもあります。この記事では、マグネシウム合金の基本特性・合金系の読み方・耐食対策・他の軽金属との使い分けを、実務的な判断基準とともに解説します。

マグネシウム合金とは:なぜ「最軽量」なのか

マグネシウム(Mg)の密度は1.74 g/cm³で、アルミニウム(2.70 g/cm³)の約3分の2、鉄(7.87 g/cm³)の約4分の1です。純マグネシウムは強度が低いため、アルミニウム(Al)・亜鉛(Zn)・マンガン(Mn)・希土類元素(RE)などを加えて合金化し、構造材料として使えるレベルに高めています。

比強度で見るとアルミと同等以上 引張強度÷密度で表す「比強度」で比べると、マグネシウム合金(AZ31)はアルミ合金(A6061)と同等かやや上です。「軽いだけでなく強さも確保できる」ことが自動車・航空・電子機器での採用理由です。

合金系の読み方:AZ31・AZ91の記号を解読する

マグネシウム合金の記号は「添加元素の略号+おおよその添加量(%)」で構成されています。

略号元素主な効果
Aアルミニウム(Al)強度・耐食性向上
Z亜鉛(Zn)強度向上・鋳造性改善
Mマンガン(Mn)耐食性向上・鉄不純物除去
Kジルコニウム(Zr)結晶粒微細化・強度向上
Wイットリウム(Y)高温強度向上(WE系)
E希土類(RE)高温クリープ抵抗向上
例:AZ31 → Al約3%・Zn約1%のMg合金 AZ91 → Al約9%・Zn約1%のMg合金
数字は添加量の概数です。AZ91はAZ31よりAlが多く強度・耐食性が高いですが、延性が低下します。ダイカストにはAZ91D、展伸材(板・押出)にはAZ31Bが世界標準として最も流通しています。

代表的な合金系と用途

合金系代表グレード特徴主な用途
AZ系
Mg-Al-Zn
AZ31B
AZ91D
汎用・量産向き。ダイカスト・展伸材ともに対応電子機器筐体・自動車部品・板材
AM系
Mg-Al-Mn
AM60B
AM50B
AZ系よりAlが少なく靱性重視自動車ホイール・シート骨格
ZK系
Mg-Zn-Zr
ZK60A高強度展伸材。Zrが結晶粒を微細化航空宇宙・スポーツ用品・自転車フレーム
WE系
Mg-Y-RE
WE43高温対応。200°C超でもクリープ小さい航空宇宙・ヘリコプター変速機

マグネシウム合金の主要特性比較

各特性は5点満点の相対評価(目安)

耐食性の弱点と表面処理で補う設計思想

マグネシウムはイオン化傾向が非常に高く、腐食しやすい金属です。特に塩水環境・異種金属との接触(ガルバニック腐食)に弱い点が実務上の最大の注意点です。

処理方法特徴主な用途
化成処理
(ノンクロム系)
薄い変換皮膜を形成。塗装下地として使用。環境規制でノンクロム系が主流電子機器・自動車部品の塗装下地
陽極酸化処理
(DOW17・HAE法)
電気化学的に酸化膜を成長。硬く耐摩耗性も向上航空宇宙・防衛分野
PEO処理
(プラズマ電解酸化)
高電圧プラズマで厚い酸化膜を形成。耐食・耐摩耗ともに高水準高耐食が必要な構造部品
塗装・粉体塗装最も一般的。化成処理後に塗装で耐食性を大幅改善民生品全般・自動車外装
「弱点は表面処理で補う」という設計思想 マグネシウム合金単体で完璧な耐食性を求めるのではなく、軽さという強みを活かしつつ弱点を工程で補う考え方が実用化を支えています。材料選定では「素材の特性」と「後処理の組み合わせ」を一体で評価することが重要です。

現場で困る3つの選定ポイント

場面① アルミと混在する設計での腐食問題
状況マグネシウム製ハウジングにアルミのボルトを使ったところ、接触部が腐食した。
原因ガルバニック腐食。MgとAlの電位差(約0.6V)により、Mgが陽極となって優先的に溶解する。
境界条件異種金属と接触させる場合は必ず絶縁ワッシャー・絶縁コーティングを介在させる。接触面積比も重要で「Mg面積>異種金属面積」になるほど腐食が加速する。
場面② 切削加工時の発火リスク
状況マグネシウム合金を切削中に切粉が発火した。
原因マグネシウムの切粉・粉末は空気中で燃焼する。塊状では問題ないが、薄い切粉・粉末状では着火点が下がる。
対策水溶性切削油は厳禁(水と反応して水素発生・爆発の危険)。切削油は鉱物油系を使用し、切粉は乾燥した状態で密閉容器に保管・廃棄する。乾式切削の場合は切削速度を下げて発熱を抑制する。
場面③ ダイカスト品の「ポロシティ(気孔)」による強度不足
状況AZ91Dのダイカスト品が設計強度を満たさず破損した。
原因ダイカスト時の急速充填で巻き込まれたガスがポロシティ(気孔)を形成。肉厚部・ゲート近傍に集中しやすい。
対策チクソモールディング(半固体成形)や真空ダイカストに切り替えるとポロシティを大幅低減できる。検査はX線透過試験で確認。溶接・熱処理時にポロシティが膨張して表面に現れることがあるため、熱処理前に検査推奨。

アルミ・チタンとの使い分け境界条件

✅ マグネシウム合金を選ぶ場面
  • とにかく軽量化を最優先したい(密度1.7〜1.8 g/cm³)
  • ダイカストで複雑形状を量産したい
  • 振動減衰性が必要(アルミの約100倍の制振性)
  • コストを抑えつつ比強度を確保したい
  • 屋内・塗装前提で耐食性を工程で補える
⚠️ アルミ・チタンが向く場面
  • 塩水・海洋環境など過酷な腐食環境(→アルミorチタン)
  • 100°C超の高温環境が続く(→WE系Mgまたはチタン)
  • 溶接が必須の構造部材(→アルミの方が施工容易)
  • 異種金属との接触が避けられない設計(→絶縁対策が困難な場合)
  • 生体埋植用途(→吸収性Mg合金は研究段階)

JIS・海外規格対応表

規格代表グレードJIS対応特徴
ASTM(米国)AZ91D
AZ31B
AM60B
MDC1(≒AZ91D)
MC10(≒AZ31B)
世界で最も流通する標準グレード
EN(欧州)EN-MB21110(≒AZ91)ASTMと対応関係あり
GB(中国)AZ91D・AZ31B
(ASTM準拠)
中国は世界最大のMg産出国。調達上重要

まとめ

マグネシウム合金で押さえておきたいこと

  • 密度1.7〜1.8 g/cm³で実用金属中最軽量。比強度はアルミと同等以上。
  • 最汎用グレードはAZ91D(ダイカスト)AZ31B(展伸材)。世界共通で流通する。
  • 耐食性が弱点。化成処理+塗装の組み合わせで実用レベルにカバーできる。
  • 異種金属との接触ではガルバニック腐食に注意。絶縁対策が必須。
  • 切削加工では水溶性切削油は厳禁。鉱物油系を使用し切粉管理を徹底する。
  • EVや軽量化ニーズが高まる中、採用が拡大している材料。中国がMg最大産出国のため調達先として重要。

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