SK材(SK3・SK5・SK7)とは? 炭素工具鋼の特徴と用途をやさしく解説

材料比較・工法比較・選び方

SK材は「数字が小さいほど炭素が多い」という記号体系を持つ。数字が大きい方が高性能に見えるが、実際は逆で、SK3(新記号SK105)の方がSK7(SK65)より硬く、もろい。この逆転関係が最初の混乱ポイントだ。記号の読み方とグレード間の差、水焼入れが必須になる理由を見ていく。

記号の読み方と新旧対応

新旧対応と炭素量: SK3(旧)→ SK105(新)C:1.00〜1.10% / SK5(旧)→ SK85(新)C:0.80〜0.90% / SK7(旧)→ SK65(新)C:0.60〜0.70%
新記号の数字は「炭素量×100」の近似値。JIS G 4401(2000年改正)で変更されたが、図面・発注書では旧記号がまだ多く使われている。

「S」はSteel(鋼)、「K」は工具のKouguの頭文字。数字が小さいほど高炭素・高硬度で、大きいほど低炭素・高靱性になる。このカウントダウン的な体系は「数字が大きい=上位グレード」という他材料の感覚と逆なので注意が要る。

グレード別の成分・硬さ・用途

新記号旧記号C(%)焼入れ後硬さ靱性代表用途
SK1401.30〜1.5062〜65HRC精密ゲージ・ノギス
SK120SK21.15〜1.2562〜64HRC低〜中低ドリル・タップ・リーマー
SK105SK31.00〜1.1060〜63HRC中低ヤスリ・スタンプ・彫刻刃
SK85SK50.80〜0.9058〜62HRC木工鋸・包丁・ノコギリ刃
SK75SK60.70〜0.8056〜60HRC中〜高農工具・ハンマー刃
SK65SK70.60〜0.7054〜58HRCスプリング・タガネ・板バネ

炭素量と硬さ・靱性の関係

なぜ水焼入れが必須なのか

SK材にはCr・Mo・Vが入っていない。これらの合金元素は「焼入れ性」——鋼の内部まで硬化する能力——を上げる役割を持つ。SK材はその元素を持たないため、冷却速度が遅い油焼入れでは表面しか硬化しない。奥まで硬くするには水で一気に冷やす必要がある。

注意 水焼入れは冷却速度が速い分、内部に大きな熱応力が発生する。炭素量が高いほど(SK3・SK105)マルテンサイトが硬く脆くなり、焼き割れのリスクが上がる。焼入れ後は速やかに焼戻し(150〜200℃)を行い、内部応力を緩和すること。「焼入れしたら即焼戻し」がSK材の鉄則。

SK材 vs SKD11 ——どちらを選ぶか

項目SK材(炭素工具鋼)SKD11(合金工具鋼)
Cr・Mo・VなしCr12%・Mo・V含有
焼入れ性低い(水焼入れ必須)高い(油冷・空冷可)
焼入れ後硬さ58〜63HRC55〜65HRC
耐摩耗性中(炭素量依存)非常に高い(硬質炭化物)
焼き割れリスク高い(特にSK105)低い
寸法変化大きい小さい
コスト基準(1)約3〜5倍
向く用途単純形状・小型工具・ゲージ金型・複雑形状・精密工具

「SK材で間に合う」条件は単純形状・小ロット・精度要求がそれほど厳しくないケース。精密金型や複雑形状はSKD11以上を選ぶ。水焼入れ設備がない現場なら、最初からSKD11(油冷可)に切り替えた方が不良率が下がることが多い。

規格・海外対応表

JIS(新)JIS(旧)ASTM/SAEEN
SK105SK3W1-10TC105
SK85SK5W1-8TC85
SK65SK7W1-6TC65

トラブル事例

SK3を油焼入れしたら内部が軟らかかった
状況小型ゲージをSK3で製作。水焼入れ設備を用意する手間を省いて油焼入れで処理したところ、表面は60HRC以上だったが使用中に変形した。断面を確認すると40HRC台の軟化層が内部に残っていた。
原因SK3(SK105)は焼入れ性が低い。油冷では冷却速度が足りず、表面だけ硬化して内部は軟らかいままの「層状硬化」になった。
対策水焼入れに変更。焼戻し200℃・1時間で内部応力を緩和し、寸法安定性を確認してから出荷。あわせて焼き割れ発生時のリカバリー手順を工程内に追加した。
SK105(SK3)の水焼入れで焼き割れが多発
状況精密ゲージをSK105で製作。水焼入れ後、ロットの10%に微小割れが発生。焼戻しを1回入れても割れは消えず、不良率が改善しなかった。
原因SK105はC:1%超と炭素量が高く、水焼入れ時の急冷で生じる変態応力が大きい。焼戻し温度が低すぎ(100℃台)で内部応力が十分に緩和されていなかった。
対策焼戻し温度を160〜200℃に上げ、2回実施に変更。割れは解消した。複雑形状への適用を検討していたが、設計段階でSKD11への変更も同時に提案した。

用途別カード

ヤスリ・スタンプ・彫刻工具(SK105 / 旧SK3)

C:1%超で60HRC超の硬さが得られる。削れることが問題になる用途に向く。衝撃が加わる場面では靱性が足りず欠けやすい。

木工鋸・ノコギリ刃・包丁(SK85 / 旧SK5)

SK材で最も汎用的なグレード。硬さと靱性のバランスが良く、焼き割れリスクも比較的低い。ホームセンターで売られているのこぎり刃の多くがSK85相当。

農工具・ハンマー刃・タガネ(SK75 / 旧SK6)

衝撃が繰り返し加わる用途。硬さより「割れない」ことが優先されるため、炭素量を下げた75番台を選ぶ。

スプリング・板バネ(SK65 / 旧SK7)

弾性(ばね性)が最重要の用途。54〜58HRC程度と硬さは控えめだが、繰り返し変形に対する靱性が一番高い。スプリング用途ではSK65かそれ以下のグレードを使う。

SK材 or 合金工具鋼——現場での判断チェック

チェックリスト
  • ☐ 単純形状の小型工具・ゲージ → SK85またはSK105
  • ☐ コストを優先したい → SK材(SKD11の1/3以下)
  • ☐ 研磨・磨き工程が多い → SK材(被削性が良好)
  • ☐ 水焼入れ設備がある → SK材が使える
  • ☐ 水焼入れ設備がない → SKD11(油冷・空冷可)に切り替えを検討
  • ☐ 複雑形状・精密金型 → SKD11以上
  • ☐ 焼き割れをゼロにしたい → SKD11(焼き割れリスク低)
  • ☐ 衝撃荷重・繰り返し変形 → SK65かより高靱性の合金鋼

SK材で押さえるべき3点

  • 数字が小さい(SK3)ほど高炭素・高硬度・高脆性。SK7(SK65)は正反対で高靱性・低硬度。逆順の感覚を体に入れておく。
  • 水焼入れ必須はCr・Mo不在による焼入れ性の低さが原因。油冷では奥まで硬化しない。水焼入れを使うなら焼き割れ対策(焼戻し160〜200℃・2回)もセットで計画する。
  • SK材が有利なのは「単純形状・小型・コスト重視」の条件が揃ったとき。複雑形状・精密金型・水焼入れ設備なしならSKD11に移行した方が総合コストが低い。

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