SWRS・SWRCH・SWRCHBをやさしく解説:線材3種の規格・成分・用途の違い
「SWRS」「SWRCH」「SWRCHB」という記号を見て、どれがどんな材料なのかわかりますか? どれも線材(ワイヤーロッド)の規格記号ですが、用途も目的もまったく異なります。この記事では、3種類の線材規格の違いを記号の読み方から成分・用途まで、わかりやすく解説します。
1. 記号・規格の読み方
まず「線材」とは何かを確認しましょう。線材とは、製鉄所で熱間圧延によってつくられるコイル状の鋼のことです。これをさらに伸線・熱処理することで、ばねや締結部品のもとになる「線(ワイヤー)」が生まれます。
3種の記号をアルファベット分解すると、共通部分と違いが見えてきます。
2. 主要グレードの一覧
SWRS(ピアノ線材)のグレード
JIS G 3502で18種類が規定されています。記号末尾の数字は炭素量の中間値(×10)を、A/Bはマンガン量の違いを示します。
| 記号 | C(%) | Si(%) | Mn(%) | 主な用途製品 |
|---|---|---|---|---|
| SWRS62A | 0.60〜0.65 | 0.12〜0.32 | 0.30〜0.60 | ピアノ線A種(SWP-A) クラッチ・ブレーキばね |
| SWRS67A | 0.65〜0.70 | 0.12〜0.32 | 0.30〜0.60 | |
| SWRS72A | 0.70〜0.75 | 0.12〜0.32 | 0.30〜0.60 | |
| SWRS75A | 0.73〜0.78 | 0.12〜0.32 | 0.30〜0.60 | |
| SWRS82B | 0.80〜0.85 | 0.12〜0.32 | 0.60〜0.90 | ピアノ線B種(SWP-B) 高級ばね・精密部品(最多流通) |
| SWRS87B | 0.85〜0.90 | 0.12〜0.32 | 0.60〜0.90 | ピアノ線V種(SWP-V) 弁ばね・自動車エンジン |
| SWRS92B | 0.90〜0.95 | 0.12〜0.32 | 0.60〜0.90 | 超高強度ばね |
SWRCH(冷間圧造用炭素鋼線材)のグレード
JIS G 3507-1で38種類が規定されています。炭素量・脱酸方法(R/A/K)の組み合わせで分類されます。
| 記号 | C(%) | 脱酸方法 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| SWRCH6R〜17R | 0.04〜0.17 | リムド相当鋼 | 軟質・成形容易 | 圧造ナット・木ねじ |
| SWRCH6A〜22A | 0.04〜0.22 | アルミキルド鋼 | 均質・結晶粒細粒化 | 小ねじ・リベット |
| SWRCH10K〜50K | 0.08〜0.53 | キルド鋼 | 均質・品質安定・強度範囲広い | ボルト・ナット全般 |
SWRCHB(冷間圧造用ボロン鋼線材)の代表グレード
| 記号 | C(%) | B(%) | 対応するSWRCH相当 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| SWRCHB 223 | 〜0.25 | 0.0005〜0.0030 | SWRCH22A相当 | 低強度ボルト |
| SWRCHB 323 | 〜0.35 | 0.0005〜0.0030 | SWRCH33K相当 | 中強度ボルト |
| SWRCHB 526 | 〜0.55 | 0.0005〜0.0030 | SWRCH50K相当 | 強度区分10.9ボルト |
3. それぞれの「核心」をやさしく解説
SWRSの核心:高炭素+高純度
SWRSがピアノ線材と呼ばれる理由は、もともとピアノの弦(鋼線)に使われていたからです。ピアノの弦は細くて高い張力に耐えなければなりません。そのため、SWRSは炭素量が0.6〜0.95%と高く、不純物(P・S)が0.025%以下に厳しく管理された高清浄度鋼です。
SWRSはそのままでは製品になりません。「パテンティング処理(鉛浴熱処理または空冷)」という特殊な熱処理を施してから冷間伸線することで、細いのに高強度・高靭性というピアノ線(SWP)の特性が生まれます。
SWRCHの核心:冷間圧造に最適化
冷間圧造とは、常温の線材を金型に押し込んで成形する加工方法です。ボルトの頭部やナットを瞬時に成形できる高効率な工法ですが、材料に高い塑性変形能力が要求されます。SWRCHは炭素量が低め(最大0.53%)で加工硬化が小さく、冷間圧造時に割れにくい設計です。
SWRCHBの核心:ボロンの「焼入れ性改善」効果
SWRCHBは、SWRCHにホウ素(B)を0.0005〜0.0030%(わずか数ppm)添加した鋼材です。この微量のボロンが「焼入れ性」を大幅に改善します。
4. 線材3種の特性比較と使い分け
| 比較項目 | SWRS | SWRCH | SWRCHB |
|---|---|---|---|
| JIS規格 | G 3502 | G 3507-1 | G 3508-1 |
| 炭素量 | 高(0.60〜0.95%) | 低〜中(0.06〜0.53%) | 低〜中(B添加) |
| ボロン添加 | なし | なし | あり(0.0005〜0.003%) |
| 主な加工経路 | パテンティング→伸線 | 冷間伸線(±焼鈍) | 冷間伸線(焼鈍省略可) |
| 製品形態 | ピアノ線SWP | 冷間圧造線SWCH | ボロン冷間圧造線SWCHB |
| 主な用途 | 高級ばね・弁ばね | ボルト・ナット・小ねじ | 高強度ボルト・自動車部品 |
| 強度水準 | ◎非常に高い | △〜○用途依存 | ○〜◎熱処理後高強度 |
| コスト | 高め | 低〜中 | 合金鋼より安価 |
5. JIS規格と海外規格の対応
| JIS規格 | JIS記号例 | 対応ISO規格 | SAE/ASTM相当 | EN相当 |
|---|---|---|---|---|
| JIS G 3502 | SWRS82B | ISO 16120-4相当(参考) | SAE 1080相当 | C80D2相当 |
| JIS G 3507-1 | SWRCH18A | ISO 4954(MOD) | SAE 1016相当 | C15C相当 |
| JIS G 3507-1 | SWRCH45K | ISO 4954(MOD) | SAE 1045相当 | C45C相当 |
| JIS G 3508-1 | SWRCHB 526 | ISO 4954(参考) | SAE 10B45相当 | — |
JIS G 3507-1はISO 4954(Steels for cold heading and cold extruding)をMOD(修正)対応しています。ISO規格は熱処理用途別に分類しているのに対し、JISは線材と線を分け、かつ鋼種で分類するという日本の製造分業体制に合わせた体系です。
6. 用途別カード:どこで使われているか
🚗 自動車エンジン弁ばね
SWRS87B パテンティング処理後に伸線したSWP-V(弁ばね用)が使われます。エンジン弁は1万回転超の過酷な繰り返し応力に耐える必要があり、SWRSの高純度・高疲労強度が不可欠です。
⚙️ 自動車クラッチ・ブレーキばね
SWRS82B ピアノ線B種(SWP-B)が定番です。B種はA種より引張強さが約10%高く、耐へたり性に優れるため自動車の重要保安部品用ばねに広く採用されています。
🔩 ボルト・小ねじ(強度区分8.8まで)
SWRCH18ASWRCH45K 最も広く使われる線材です。SWRCH材から冷間伸線→SWCH→冷間圧造でボルト・ナットに成形されます。自動車重要保安部品の大半がこのルートで製造されています。
🔧 高強度ボルト(強度区分10.9)
SWRCHB 526 ボロン鋼線材の代表用途です。SCM材(クロムモリブデン鋼)より安価でありながら、焼入れ・焼戻し後に強度区分10.9相当の特性を発揮できるため、自動車部品での採用が急拡大中です。
🏗️ 精密機器・OA機器ばね
SWRS62ASWRS72A ピアノ線A種(SWP-A)が使われます。A種はB種より靭性が高く、精密な巻きばね成形や複雑な形状加工に向いています。電気機器・計量器・プリンターなどの精密ばねに採用されます。
🛠️ 木ねじ・タッピンねじ
SWRCH6RSWRCH12A 低炭素のリムド相当鋼・アルミキルド鋼が使われます。軟質で成形しやすく、セルフタッピング性が要求される木ねじ・タッピンねじの大量生産に適しています。
まとめ:SWRS・SWRCH・SWRCHBで押さえておきたいこと
- SWRS(JIS G 3502)は高炭素・高純度のピアノ線材。パテンティング→冷間伸線でピアノ線(SWP)となり、高級ばねや弁ばねに使われる。
- SWRCH(JIS G 3507-1)は冷間圧造専用の炭素鋼線材。脱酸方法(R/A/K)と炭素量の組み合わせで38種類があり、ボルト・ナット・小ねじの主力素材。
- SWRCHB(JIS G 3508-1)はSWRCHにボロン(B)を微量添加したボロン鋼線材。焼入れ性改善・焼鈍省略によりコスト削減でき、自動車部品向け高強度ボルトへの置き換えが進行中。
- 3種の最大の違いは炭素量の範囲と製品化後の用途。SWRSは「ばね系」、SWRCH/SWRCHBは「締結部品系」と整理すると理解しやすい。
- 海外規格との対応は:SWRS82B→SAE 1080、SWRCH45K→SAE 1045、SWRCHB→SAE 10B45相当が目安。
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