鉄鋼(厚板)価格の動向を調べてみた:2026年、コスト転嫁の波と中国過剰輸出のはざまで

価格動向

鉄鋼(厚板)価格の動向を調べてみた:2026年、コスト転嫁の波と中国過剰輸出のはざまで

造船・橋梁・建機に使われる厚板の価格が、2025年後半の底値圏から2026年にかけて反転上昇している。東京製鐵が2026年4月に厚板を5,000円/トン値上げし、6月にも3,000円/トン追加値上げを行った。一方で、中国の過剰輸出圧力は続いており、「上げたいが上げきれない」という構造が見えてくる。実際に数字を追いかけてみると、思っていた以上に複雑な力学があった。

※ 本記事のデータは2026年7月1日時点の情報に基づきます。価格・為替は日々変動するため、最新情報は各情報源にてご確認ください。本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。

現在の価格水準

アジア厚板スポット価格(参考)
約1,830 USD
/トン 2026年5月・東北アジア
国内厚板価格(東京製鐵・推定)
約108,000〜115,000 円
/トン 2026年7月現在
参考為替レート
145〜150 円
/USD 2026年上半期実勢

※ 国内価格は東京製鐵の値上げ実績をもとにした概算です。高炉メーカー(日本製鉄・JFE等)の建値は別途設定されます。

厚板の価格はどう決まるか

国内厚板価格の概算:原料炭・鉄鉱石コスト + 製造コスト(電力・労務費) + 需給バランスによるプレミアム
例)鉄鉱石が高値圏(100 USD/t台)+ 原料炭が250 USD/t超 → 製造コストは7〜8万円/t水準に
※ 電炉メーカー(東京製鐵等)は鉄スクラップが主原料。高炉メーカーとコスト構造が異なる点に注意。

厚板はLMEのような公開市場で直接取引される品目ではない。鉄鋼メーカーが独自に「販売価格表」を月次・四半期ごとに改定する仕組みで、アジアスポット価格や国内需給を見ながらメーカーが主導で動く。個人的に最初に戸惑ったのはここで、「LME価格を調べれば国内価格がわかる」というわけにはいかないと気づいた。

価格推移(2024〜2026年)

国内厚板価格(円/トン・推定) アジアスポット(USD/トン×145円換算・参考)
時期 国内価格目安(円/トン) 参考為替(円/USD) 主な出来事
2024年1月約115,000145〜150前年からの高値水準が継続
2024年4月約110,000150〜155中国輸出増加で軟化傾向
2024年9月約103,000143〜148建設需要の停滞・国内在庫増
2024年12月約98,000152〜158東鉄が条鋼・厚板値下げ実施
2025年3月約96,000148〜153底値圏。中国材流入で下押し圧力
2025年9月約97,000143〜148横ばい継続。需要回復の兆し薄い
2025年12月約100,000150〜155コスト転嫁の動きが再浮上
2026年3月約102,000148〜152東鉄が4月からの全品種値上げを公表
2026年4月約107,000145〜150厚板+5,000円/t。4年ぶりの全面値上げ
2026年6月約110,000145〜150さらに+3,000円/t。7月も値上げ方針

※ 価格はすべて東京製鐵の公表値上げ幅をもとにした概算。高炉系メーカーの建値とは異なる場合があります。

価格を動かしている要因

① 中国の過剰輸出と貿易障壁

中国の不動産不況で国内需要が低迷し、余剰鋼材が輸出に回ってきた。ただし2026年1〜5月の中国鉄鋼輸出は前年比8.1%減とやや落ち着き傾向。米国関税や各国の反ダンピング措置が輸出を抑制し始めている点が興味深かった。

② 原料コスト(石炭・鉄スクラップ)

電炉メーカーの主原料である鉄スクラップは国内需給に左右される。2026年は中東情勢の長期化でエネルギーコストが高止まりし、東鉄が「喫緊の対応」としてコスト転嫁を打ち出した背景がここにある。

③ 国内建設・造船需要

厚板の主要用途は造船・橋梁・建機・圧力容器。2026年は国内建設市場が資材先高感を背景に動意づきつつある。ただし「回復」というより「底打ちからの緩やかな戻し」という表現が正確で、需要が価格を引き上げる力はまだ限定的。

④ 米国関税(通商政策)

2025年の米国関税ショックが鉄鋼貿易フローを大きく変えた。日本から米国への直接輸出は減少した一方、中国材が第三国経由で流入するルートへの警戒が続く。この「迂回輸出」問題が価格の不安定要因として残っている。

⑤ 為替(円安効果の二面性)

円安は輸入原料コストを押し上げる一方、輸出競争力には直結しにくい(厚板は国内消化が主)。2026年上半期の145〜150円/USD水準は、コストアップ圧力として作用している。

⑥ 世界経済のブロック化

東鉄の値上げ表明に「世界経済ブロック化に伴う構造的なコスト上昇」という表現があった。分断された調達網・物流コストの上昇が、一時的な要因ではなく恒常化しつつあることを示している点が印象的だった。

シナリオ別見通し(2026年下半期)

シナリオ 国内厚板価格目安(円/トン) 主な前提条件
強気シナリオ 120,000〜130,000 建設・造船需要が回復 + コスト転嫁が定着。7月以降の値上げが通る場合。
基本シナリオ 108,000〜118,000 需要横ばい継続。コスト転嫁ペースと中国輸出圧力が綱引きする現状維持型。
弱気シナリオ 95,000〜105,000 中国鉄鋼輸出が再増加 + 国内需要の腰折れ。値上げ浸透に失敗し反落する場合。

為替別・価格水準別の円換算表(参考)

アジアスポット価格が実態の底値を形成する局面で、為替がどう効くかを整理した。

アジアスポット水準(USD/トン) 円高シナリオ(140円) 中立(148円) 円安(158円)
1,600 USD/t(安値水準)224,000 円/t236,800 円/t252,800 円/t
1,830 USD/t(2026年5月実勢)256,200 円/t271,000 円/t289,100 円/t
2,100 USD/t(強気水準)294,000 円/t310,800 円/t331,800 円/t

※ アジアスポット価格はあくまで参考指標。国内厚板価格はメーカー建値で決まるため、単純換算とは乖離が生じます。スポット価格と国内価格の差(プレミアム)は需給・品質・納期によって大きく変わる点に注意。

調達リスクへの備え(考え方の整理)

※ 以下は調達リスク管理の考え方を整理したものです。投資・財務アドバイスではありません。具体的な判断は専門家にご相談ください。
手法 概要・メリット 鉄鋼(厚板)固有の注意点
長期契約・価格固定 四半期〜半年ごとの価格固定交渉。値上がり局面でコストを守れる。 厚板は受注生産が多く、ロット・納期の縛りが強い。流通在庫での対応は限られる。
分散購買(時間分散) 複数月に分けて発注し、平均取得コストを安定させる。 厚板は発注から納品まで数週間〜数か月かかるため、価格確定タイミングに注意が必要。
適正在庫の見直し 値上がり前に適量の先買いを検討。保管コストとのバランスが重要。 厚板は重量が大きく保管スペースを要する。在庫コスト(スペース・金利)の試算が先決。
代替材料・工法の検討 用途によっては高張力鋼(ハイテン)への変更で板厚を落とし重量削減。 造船・圧力容器は規格・認証上の制約が大きく、代替には設計変更を伴う。短期対応は難しい。
スクラップ売却との連動管理 鉄スクラップ発生品の売却タイミングを価格と連動させて実質コストを下げる。 加工屑・端材の発生量と売却価格のモニタリングが必要。スクラップ価格も同様に変動する。

調べてみてわかったこと

調べ始める前は「中国材が安く流れ込んでくる → 国内価格が下がる」というシンプルな図式を想定していた。実際はそれほど単純ではなく、「中国輸出圧力」「国内コスト上昇」「貿易障壁の再編」「建設需要の底打ち」が複雑に絡み合っていた。特に印象に残ったのは、東鉄の値上げ声明にあった「世界経済ブロック化に伴う構造的なコスト上昇」という表現。通商摩擦を一時的なノイズではなく恒常コストと見なし始めたという感覚がある。厚板はLMEのような明確な国際指標がないだけに、価格の「なぜ」を追うには各社の販売価格表と需給ニュースを地道に読み続けるしかない、という点が銅やアルミと大きく違うところだった。

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