2026年4月2日、米国が鉄鋼・アルミニウムに25%の追加関税(いわゆる「解放の日」関税)を発動しました。直接の対象は鉄鋼・アルミ製品ですが、その余波はニッケル相場と円相場を通じてSUS304の国内調達コストにも波及しています。1月に急騰した後、3〜4月に調整していたLMEニッケルは、5月に入って15,000ドル台前半まで下落。一方で円高が進んで輸入コストの押し上げ効果は緩和されています。今月の相場をどう読むか、整理してみました。
※ 本記事のデータは2026年5月上旬時点の情報に基づきます。価格・為替は日々変動するため、最新情報は各情報源にてご確認ください。本記事は情報提供を目的としており、投資を推奨するものではありません。
現在の価格水準(2026年5月時点)
1月に18,785ドルまで急騰したLMEニッケルは、2月以降の調整局面を経て5月上旬には15,200〜15,800ドル台まで下落しました。米国の関税措置が世界経済の需要見通しを悪化させ、中国のステンレス消費にも慎重ムードが広がっています。一方、ドル安・円高の進行(1月比で約10円の円高)がサーチャージを通じた国内コスト上昇を緩和しており、SUS304の国内流通価格は昨年末水準(700〜800円/kg)とほぼ同水準かやや軟化した動きとなっています。
4月からの変化:米関税がもたらした3つの影響
① ニッケル需要見通しの下方修正
米国25%鉄鋼関税は日本・韓国・中国からの輸出を抑制し、ステンレス製品の米国向け需要を直撃します。特に中国ステンレスメーカーの輸出余力が国内市場に向かう「ダブルダウン」懸念が、ニッケル価格を押し下げる方向に働いています。
② 円高進行でサーチャージが緩和
「解放の日」発表後のドル安・円高で、5月には1ドル=143〜148円台に。1月(158円台)との比較では約10円の円高です。LMEニッケルが下落した分と合わせ、円建てのニッケルコストは2026年初頭のピーク比で2〜3割低下しています。
③ 輸入材流入の構造変化
米国市場を失った中国・韓国のステンレスメーカーが日本市場に振り向ける可能性があります。安価な輸入材の流入が増えると、国内メーカーの値下げ圧力がさらに高まるリスクがあります。反ダンピング申請の動向が今後の注目点です。
価格推移:2024年〜2026年5月
| 時期 | LMEニッケル(USD/t) | 参考為替(円/USD) | Ni円換算目安(円/kg) | SUS304国内目安(円/kg) | 主な出来事 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2024年初 | 約16,500 | 約148 | 約2,442 | 約750〜850 | ニッケル過剰供給懸念で下落基調 |
| 2024年6月 | 約18,000 | 約157 | 約2,826 | 約800〜900 | 中国需要期待・ドル安で一時反発 |
| 2024年末 | 約15,800 | 約157 | 約2,481 | 約700〜800 | インドネシア増産・2年半ぶり安値 |
| 2025年中盤 | 約15,000〜17,000 | 約147〜156 | 約2,200〜2,650 | 約650〜800 | ニッケル低迷・中国需要低迷が継続 |
| 2026年1月 | 約18,785(高値) | 約158 | 約2,968 | 約800〜950 | 中国需要回復・インドネシア供給リスクで急騰 |
| 2026年3月 | 約17,000〜17,300 | 約150〜158 | 約2,550〜2,730 | 約700〜900 | 地政学リスク・中東緊張で調整 |
| 2026年4月 | 約15,500〜16,500 | 約145〜152 | 約2,232〜2,508 | 約670〜820 | 米「解放の日」関税発動・需要見通し悪化 |
| 2026年5月上旬 | 約15,200〜15,800 | 約143〜148 | 約2,175〜2,338 | 約650〜800 | ニッケル軟調・円高進行・輸入材流入懸念 |
※ SUS304国内流通価格は板材の参考値であり、形状・寸法・流通段階によって大きく異なります。
SUS304価格を動かす主要因(2026年5月版)
① 米関税政策と貿易交渉の行方
日本は鉄鋼25%関税の適用対象として米国と交渉中。関税除外または割当数量が認められれば日本製ステンレスの対米輸出が回復し、需給が引き締まる可能性があります。交渉の進捗は月次で相場の方向性を左右する重要変数です。
② インドネシアのニッケル供給動向
世界最大のニッケル生産国インドネシアでは、2026年も2億6,000〜2億7,000万湿トンの鉱石割当が維持され、構造的な供給過剰圧力が継続中。価格の上値を抑える最大の要因です。
③ 中国の需要動向
米中関税摩擦の激化で中国の輸出向けステンレス需要は低迷。ただし内需向けには政府の流動性支援策が継続しており、下値には一定のサポートがあります。内需vs輸出の綱引きが価格の方向性を決める構図です。
④ 為替(円高リスクと円安反転)
2026年5月は円高が一時143円台まで進行。ニッケルコストの円建て換算を押し下げ、国内流通価格の軟化に寄与しています。ただし米国景気の持ち直しや日米金利差の縮小が遅れれば円安への反転もあり得ます。
⑤ 輸入材の流入動向
米国市場を失った中国・韓国のステンレスメーカーが日本・東南アジア向け輸出を強化する動きが出ています。輸入材の流入増は国内価格の下押し要因になる一方、日本メーカーの反ダンピング申請や政府の保護措置が発動されれば流れは逆転します。
⑥ EV・電池産業の構造変化
LFP電池(ニッケル不使用)の台頭で、ニッケルの電池需要が期待ほど伸びていない点は中長期的な上値抑制要因です。ただし高エネルギー密度を要求する欧米EV向けNMC系電池ではニッケル需要が底堅く、長期的な下支え要因として残ります。
2026年後半シナリオ別見通し
| シナリオ | LMEニッケル想定(USD/t) | SUS304国内目安(円/kg) | 主な前提条件 |
|---|---|---|---|
| 強気シナリオ | 17,000〜20,000 | 約800〜1,000 | 米関税交渉で除外合意・中国景気刺激策の効果顕在化・円安再加速(155円以上)の場合 |
| 基本シナリオ | 14,500〜16,500 | 約650〜800 | 米関税交渉が長期化・中国内需が下支えも輸出低迷継続・為替140〜150円で推移する場合 |
| 弱気シナリオ | 12,000〜14,500 | 約550〜680 | 米中摩擦深刻化で中国ステンレス需要が急減・インドネシア増産継続・円高加速(135円以下)の場合 |
4月時点の基本シナリオ(16,000〜18,000 USD/t)から下方修正しています。米関税ショックによる需要見通しの悪化と、インドネシアの構造的供給過剰が重なり、5月時点では14,500〜16,500 USD/tを中心値としてみています。強気シナリオへの転換条件は「米日貿易交渉の妥結」と「中国景気刺激策の本格効果」の二つがそろうことです。
為替別・ニッケル価格別の円換算早見表(2026年5月版)
| LMEニッケル(USD/t) | 円高(138円)円/kg | 中立(145円)円/kg | 円安(155円)円/kg |
|---|---|---|---|
| 13,000 | 1,814 | 1,885 | 2,015 |
| 15,000 | 2,070 | 2,175 | 2,325 |
| 17,000 | 2,346 | 2,465 | 2,635 |
| 19,000 | 2,622 | 2,755 | 2,945 |
※ 上表はニッケル地金(USD/t)を円/kgに換算した参考値です(Ni含有率8%換算)。SUS304のkg単価は、これにスラブ・クロム・加工費等が加算されるため実際の流通価格とは異なります。
調達リスクと5月の実務的な考え方
| 局面 | 5月の状況 | 調達サイドへの示唆 |
|---|---|---|
| 価格水準 | LME Ni 15,000〜16,000 USD/t台。2026年初から約15〜20%下落。 | 相対的に低水準。長期使用が見込める汎用品(2B板・1〜3mm厚)の在庫積み増しを検討するタイミング。 |
| 為替リスク | 円高(143〜148円)でサーチャージが低下中。 | 円高局面の今は輸入材・海外調達の優位性が高まる。円安転換前に中長期契約の締結を検討。 |
| 輸入材流入リスク | 中国・韓国材が日本市場に流入増の懸念。 | 品質・納期・認証の確認を強化。材料証明書(ミルシート)でJIS G4304準拠を必ず確認する。 |
| 代替材の検討 | SUS430(フェライト系、Ni不使用)は価格変動が小さい。 | 食品・医療・化学プラント用途はSUS304必須。内装・軽構造用途は用途別に代替を再検討する価値あり。 |
調べてみてわかったこと
まとめ
2026年5月のSUS304相場を一言で表すなら「弱含み・様子見」です。4月の米関税発動がニッケルの需要見通しを悪化させ、LMEニッケルは1月の高値(18,785 USD/t)から約15,200〜15,800 USD/t台まで下落しました。同時に円高が進行したため、円建てのニッケルコストはピーク比で2〜3割低下しており、国内流通価格(板材)は650〜800円/kgと昨年末と大きくは変わらない水準に落ち着いています。次の方向性を決めるのは①日米貿易交渉の進展、②中国景気刺激策の効果、③インドネシアの供給コントロールの3点です。現在の低水準は汎用品の在庫積み増しを考えるタイミングとも言えますが、弱気シナリオ(12,000ドル台)への転落リスクも否定できないため、まとめ買いより分散購入が現実的な対応と思います。
主な参照:Trading Economics(LMEニッケル価格)、田嶋鋼材株式会社 ニッケル・クロム価格表、SunSirs ステンレス鋼市場レポート、日本経済新聞(ステンレス鋼板価格動向・米関税報道)

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